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『光る君へ』で安倍晴明が仕掛けた罠・成仏できない霊を救うために帝の地位を投げ出させる(旧統一教会に千年先立つ霊感商法?の先駆け)「亡き忯子様の霊が右大臣様に取りついておりました」

憑祈祷に関する説明等で前置きが長くなったため、お急ぎの方は末尾の大河ドラマ『光る君へ』からの引用へ進んでください。


霊感商法:追及ルポ(朝日ブックレット 86)


一昨日放送された『光る君へ』第10回「月夜の陰謀」の中で(段田安則が演じる)藤原兼家(ふじわらのかねいえ)一門が(本郷奏多が演じる)花山天皇を追いやる計略を実行に移しました。哀れ、花山天皇は即位後2年も経たないうちに19歳で出家し退位しました(退位させられました)。


花山天皇は即位後、外戚(叔父)である藤原義懐らの補佐を受けて新政策を展開していったが、 寛和元年7月18日(985年8月7日)寵愛していた弘徽殿女御藤原忯子の急死とともに出家を考えるようになった。皇太子・懐仁親王(後の一条天皇)の外祖父であった右大臣藤原兼家は孫である皇太子の即位と自らの摂政就任を早めるために、天皇の退位・出家を画策、蔵人として天皇に仕えていた次男・藤原道兼に対して天皇に出家を勧めさせた。

寛和2年6月23日の明け方、天皇は道兼の勧めに従って内裏を出て山科元慶寺に向かった。これを確認した兼家は清涼殿に残された三種の神器を皇太子の居所である凝花舎に移し、内裏諸門を封鎖した。藤原義懐が事態を知った時には既に天皇は元慶寺において出家を済ませた後であり、義懐も側近の藤原惟成とともに元慶寺において出家したのである。更に当時の関白藤原頼忠摂関の地位を失うことになり、事実上失脚した。

懐仁親王は一条天皇として即位し、外祖父藤原兼家は摂政に就任した。兼家はそれまでの慣例を破って右大臣を辞任して摂政専任の先例(大臣と摂関の分離)を生み出すなど、摂関政治の歴史において一つの転機になる事件であった。



武力や毒薬による暗殺も濫用しながら血で血を洗う権力闘争の末に外戚(王の母方の親族)が国を牛耳る様子は、例えば、韓流史劇(映画やドラマ)で頻繁に描かれますが、戦国時代に朝廷の権力が急激に衰えるまでは、日本においても帝と朝廷を取り巻く公家がドロドロの抗争を繰り広げていたことに思いをはせる機会となりました。

このクーデター(?)に至る一連の計略は第8回「招かれざる者」と第9回「遠くの国」で視聴者へ徐々に明かされましたが、寵愛され懐妊したにも関わらず急死した弘徽殿の女御・藤原忯子が成仏していないと花山天皇に思い込ませる準備段階で行われた憑祈祷(よりぎとう、僧侶が憑坐(よりまし、霊体が憑依する肉体または憑依された人間)に神霊等を乗り移らせ、正体を語らせた後に調伏する密教の修法)(第8回)他が陰陽師・安部晴明によるやらせであった(かもしれない)と明らかにされた際(第9回)には少々驚きました。仮病の病床で藤原兼家がシナリオを書いた陰謀の片棒を安部晴明がかつぎ、(花山天皇に寵愛され懐妊したにも関わらず急死して藤原兼家に取り憑いた(真っ赤な噓))藤原忯子の霊を救うために(旧統一教会のように)金銀財宝ではなく帝の地位を投げ出させるという前代未聞の霊感商法?の先駆けですが、古今東西の覇者たちと同様に、平安時代の権力抗争の当事者たちは手段を択ばなかったようです。

A:劇中では、兼家は義懐の横暴な態度に切れて、その流れの中で倒れてしまいます。「右大臣兼家倒れる」の報せに喜ぶ花山帝の姿が印象的でした。兼家の屋敷では、寄坐(よりまし)の女性が、大げさに 忯子の霊が兼家に祟っていることを語ります。「ノウマク・サンマンダバザラダン・センダ・マカロシャダ・ソワタヤ・ウンタラタ・カンマン」と不動明王の真言を唱えての祈祷も行なわれましたが、兼家が目を覚まします。ここから、安倍晴明(演・ユースケ・サンタマリア)が噛んで何か秘密の話が行なわれたような……。

I:なんだか大きな謀のような雰囲気です。

A:あ、やっぱりそう思いました? 私は、ここからの一連の流れに衝撃を受けました。兼家が倒れて、祈祷が行なわれる。寄坐が忯子の霊が成仏していないと断じ、そのことを、晴明が花山帝に奏上する。一方で、為時(演・岸谷五朗)が、道兼(演・玉置玲央)は父兼家から疎遠にされていることを帝と義懐に報告するのです。

I:まじめな為時はまったく疑いもなく、という風情でした。しかも、道兼の腕には自傷したものなのか、傷ができていました。

A:花山帝に「忯子の霊が成仏していないこと」を強く印象付ける壮大なる仕掛けと受け取りました。その答えは次週、あるいは次々週に明らかになると思われます。

I:そして、前週から始まった藤原兼家一族による「壮大なる陰謀」の輪郭がくっきりとしてきました。衝撃なのは安倍晴明が完全に陰謀の片棒を担っていたことです。外堀が埋められて、徐々に内堀も埋められつつある様子が描かれました。それにしても陰陽師の安倍晴明が、ここまで謀を牽引するとは衝撃的な展開です。

A:行事などの吉日を卜占する重要な役割を担っていたのが陰陽師。その陰陽師が陰謀に加担していたという設定は衝撃的ではありますが、現代的な感覚でよくよく考えれば「そういうのありかも」というふうに考えさせられます。陰陽師や寄坐(よりまし)の人々も権力に寄り添って遊泳しなければなりませんから、そのあたりは臨機応変にこなしていたのかな、と思います。

I:それにしても、安倍晴明が花山帝に出家を勧める場面は凄みがありましたね。さすがに陰陽師から出家しか道はないと説かれると、まだ年若い帝は抗弁する術を持たなかったのでしょう。

A:一連の政変は「寛和の変」と記録されることになるわけですが、大河ドラマで描かれるのは初になります。いったいどのような演出になるのか。大河史に刻まれる回になるのかどうか、注視したいと思います。

I:劇中では藤原兼家一族総出の趣でした。

A:特筆すべきは、実娘の詮子(演・吉田羊)までぎりぎりまで騙し通したことですね。「謀(はかりごと)は密なるを以て良しとす」といわれますが、身内にまで悟られることなく進めるというのは鉄則といえば鉄則。

I:兼家が目を覚ました瞬間の詮子の叫び声が尋常ではありませんでした。ここ、密かに「大河史の名場面」になったのかなとニヤニヤしています(笑)。

I:第10回にして、いよいよ前半戦の歴史上の重要事件が描かれました。

A:「寛和(かんな)の変」と称される事件です。藤原兼家(演・段田安則)がめぐらした陰謀といわれています。天皇の側に仕える蔵人に就いていた兼家次男の藤原道兼(演・玉置玲央)が花山天皇(演・本郷奏多)をそそのかして、退位、出家をさせて、兼家の孫の懐仁親王(演・石塚陸翔)が即位したというものです。

I:天皇を騙して出家させたということですよね。死人は出ませんでしたが、これは重大な事件かと思います。『光る君へ』では、前々週から陰陽師の安倍晴明(演・ユースケ・サンタマリア)と兼家が談合したうえで、晴明が花山天皇に、女御で前年に亡くなった藤原忯子(演・井上咲楽)が成仏するためには、天皇が出家するしかないとそそのかしていました。

A:天皇側近くに仕える道兼も自傷の跡を、父兼家から折檻を受けた傷だと偽り、天皇から信用を得るという念の入れようでした。まひろ(演・吉高由里子)の父藤原為時(演・岸谷五朗)も知らぬ間に謀略に巻き込まれるなど、その仕掛けが大規模でした。

I:実際にこれほどの大仕掛けだったかどうかはともかく、「兼家の陰謀」を強く印象づける演出になりましたね。

大河初登場の「寛和の変」

I:さて、「寛和の変」が大河ドラマで描かれるのは初めてです。明智光秀が織田信長を討った「本能寺の変」などは十数回大河ドラマで取り上げられています。本能寺の変についてその真偽はともかく詳細に記されているのが『信長公記』。本能寺の変を初めてドラマで取り上げるとなると、『信長公記』をなぞるだけでも臨場感あふれる場面を演出できるかと思います。

A:はい。しかし、戦国ものが多い大河ドラマでは、本能寺の変も何度も描かれ、毎回同じというわけにはいかないので、帰蝶(濃姫)がともに戦ったり、祈とう師とともに本能寺で最期を遂げたり、銃を手に応戦したり、あるいは信長が自ら頸動脈を切ったりと、さまざまな演出が加えられるようになります。寛和の変も複数回取り上げられる事件になると、さまざまな演出が加えられると思うのですが、今回は「初」ということで、大筋「史実」に沿って展開されました。

近世に自然科学が急激に発展する以前の人類は世界中で呪術や宗教に依存していたと考えられますが、呪術や宗教を生業としていた人々は一種の詐欺師であった(かもしれない)と脚本家(大石静)は解釈しているのかもしれません。

陰陽師がもてはやされるようになって以降、小説や映画やアニメの中で陰陽師が魔法使いやスーパーヒーローのように描かれることは珍しくありませんが、『光る君へ』ではユースケ・サンタマリアがキャスティングされた時点で怪しげな人物であることが確定していたようです。

オンエアから2週間以上が経ち見逃し配信(NHKプラス)も終了してしまったので、第8回で描かれたやらせ(霊感商法?の先駆け)の場面を下記に引用します。


第8回 招かれざる者
読経
祭文
お前は誰だ?
何のために、ここに降りてきたのだ?
命を返せ、子を、子を返せ! 子を...
よしこ。
弘徽殿の女御様か。
返せ! 返せ! 返せ!
弾指
亡き忯子様の霊が
右大臣様に取りついておりました。
それは、まさか、忯子が
成仏できていないということか?

仏僧が気合を入れて読経する。安倍晴明(陰陽師)は四神(青龍・朱雀・白狐・玄武)に祈りを捧げる。すると寄坐(よりまし)が倒れる。

「お前は誰だ? 何のためにここに降りてきたのだ?」そう問われると、「……返せ……」と呻いている。「何を返してほしい?」「命を返せ……子を返せ、子を返せ!」「お前の名は?」「忯子!」弘徽殿の女御か! 驚愕する一同。道長が“忯子”に掴まれて倒されてしまう。晴明がパチンッと指を鳴らすと、ようやく鎮まる。

なぜ忯子が父を恨むのかというと、道隆の顔色が紙のように白くなっている。父上にそんなつもりはなかった。腹の中の子だけ流れればよかったのに、忯子まで……と、罪の意識に苛まされている。すっかり恐れ慄く兼家の息子たち。

花山天皇も祈祷には興味津々。晴明が忯子が取り憑いていると語ったと聞くと、成仏できていないことに驚く。なぜ成仏できないのか。右大臣を恨んでいるからか。そう言い出し、花山天皇は忯子を憐れみ泣き出す。「右大臣こそ死ねばよい、死ね、死ね、死ね、右大臣!」そのような言葉を言うとますます忯子を世に留めてしまうと言われ、ようやく我に返る花山天皇。亡き忯子を思い、涙するほかない。精神状態がますます悪化しているようだ。 




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