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”日本的自粛”による映像/広告系フリーランスのワーストケースシナリオと生存戦略

新型コロナの流行は、どうやら何度も波がある。

Spanish Flu(スペイン風邪)のときもそうだったし、一回で終わるとは思えない。もはやパンデミックなのだから、一回で終わらないという前提に立つほうが自然。

一旦この状況を棚上げして自己中心的に考える。経済のこと、要は金のことだ。

虫の目になる。自分は30代。フリーランスで映像やクリエイティブをつくることで食っている。生活のエンジンは”発生案件による収入”であり、広告業界に足を突っ込んでいる。

案件の入金タームは、案件が発生したときから3~6ヶ月先である。とすると、5月現在の自分は去年の自分が食わせている計算である。「自粛が落ち着いた+半年」見ておかないとヤバい。

鳥の目になる。広告および映像系における”自粛”の影響は計り知れないと思う。おそらく想定より長引くと思う。

データとかではなく、日本の国民性や取り巻く文化がそうさせると思っている。だらだらと長引く”日本的自粛”が起こる可能性が高いと思う。

ここでいう”日本的自粛”というのは、医療的な自粛ではなく、世論的な自粛である。おそらく日本は特に、世の中の批判を恐れた”リスクゼロ”の方針を年単位で取るだろうと予想している。

コロナ前から、日本国内の意思決定は”失敗を避ける”癖があると思う。なるべく失敗の可能性を避ける方向に舵を取る。例えば、その提案は(ほぼ)100%ウケるのか?みんな的にいいのか?みたいな。

対外向けの良し悪しならいいが、社内や関係各所への調整時点でさえもある。別に悪いと思っていない。そういう傾向が”強い”というだけ。

雑に言うと、100%と誰かがGOを言い切るまで判断をしない、のである。見切り発車をしない。責任を取る誰かの到来を待つ傾向がある。

日本において”出る杭は打たれる”文化は拭えない。ましてや今回、人命がかかる判断である。出る杭となる人はほぼ現れないといっていい(てか出る杭になる必要もないし)

今回について言えば、リーダーの判断ミスが人の命を奪うのである。いくら経済が死ぬと言っても、直接手を下していないとなれば”自粛”のほうが責任を負うリスクが少ない。

「今回はとりあえず止めときますか・・」という状況が頻発するだろうし、それが自然の流れだ。それが何を表すか。大規模な広告業界のリセッションである。

そして考えた。多分こうなるだろうという雑なシミュレーションである。

日本国内の企業におけるシミュレーション

仮説1:  新型コロナへの治療およびワクチンができるまでの期間が1年以上、生活者が日常に戻るレベルには2年程度(2022年まで)かかるだろう。(=インフルエンザのように意識レベルで慣れるまでの期間)経済活動は急に戻らない。ゆっくりと戻っていく。それも2022年以降に本格的に戻りだすだろう。
仮説2:  欧米・中国などは早々に自粛を解除。色々理由を言いつつ見切り発車するだろう。日本国内も政府の方針としては他国に追随。しかし、企業や自治体単位で市民からの炎上リスク回避のため”日本的自粛”を継続。おそらく1年以上かかるだろう。(2021年後半~)
仮説3: コロナ自粛派・コロナ共存派の争いがSNS中心に存在感を強める。そのため、主に大企業などはコンプラ的にという判断で、炎上リスクのある行動を控えるだろう。(大規模プロモーション、顧客・タレント等とのリアル接点を回避)
仮説4: 既存のイベントやコンテンツをリモート・オンライン化するが売上規模が減少(オンラインに生活者が対価を払うマーケットになっていないため)。既存の企業体制や人材のリテラシー不足・ばらつきにより停滞。既存コンテンツやIPの再利用が活発化。国内コンテンツ産業の縮小・人員整理
仮説5: 旅行・飲食・宿泊・イベントなど、人と人が”移動~集合~入れ替わる”ことで生まれた業界の壊滅的打撃。売上や人員規模は縮小。いずれにしても、ある程度参入障壁が低かった上記の業界が「リスクのある商売」へと変貌するだろう。

中長期的な生活者のニーズ対比

三密回避が最優先 ⇔ 三密状況を生み出す対象への攻撃・批判が高まる
自宅およびその周辺での巣ごもり優先 ⇔ 海外および遠方への移動などは避ける
ネットを通じた点と点を結ぶ需要が優先 ⇔ 人と人が集まる”面”を生かしたビジネスの縮小・停滞
家族・友人・同僚など”内側”の関係(責任所在が明らかな関係)を優先 ⇔ 外部業者など”外側”の関係は優先度下げる、二の次になる

冷静に見ると恐ろしい。

いろいろ羅列していくと、これまでの生き方を期待しないほうがフリーランスの生存戦略的に正しいのである。

その仮説から見て取れるのが以下。

広告業界のシナリオのフェーズ別分析

phase.01 : クライアント企業の売上減少・中長期経営計画の見直し、白紙化

→ 採用および企業イベント関連(いわゆる企業VP)への新規発注の削減および低価格化が進む。一方でネットイベント配信などは増加?

→ 旅行やイベントにおける動画撮影案件の短期的な消滅。オンラインイベントへの配信需要などへシフト?

→ 景気後退に対する消費意欲減退によって、生活必需品もしくは巣ごもり需要以外の消費財やサービスに対する広告支出は削減

→ クライアント企業の規模が大きければ大きいほど、社員を守るため自粛を続ける(≒外部の人間との接触を控える)と想定。上場企業であればなおさらIR的に問題となることは避けるであろう。

→ 一方中小企業は本業の売上が芳しくない。となると、広告・企業VPの案件発注は2年以上のタームで落ち込んでいくと想定したほうが自然。

→ それに伴い、実写撮影案件の減少および、企業単位で広告のインハウス化・リモート化が進むと思われる。

phase02.広告・映像業界等の既存の企業が、自己のビジネスを維持する方針へと舵を切る

→ phase01のクライアント企業の予算削減を受け、代理店および制作会社も売上が減少することは明らか。ビジネスを維持しようと規模が小さくても”取りに来る”。そもそも需要が少なくなるためだ。

→ クオリティよりも量を取りに来るだろう。チャレンジングな広告案件や映像表現はおそらく少なくなる(いわゆる賞狙いのやつ)。MVやライブなどエンターテイメントの案件も縮小。

→ 中長期的にネット系の案件へ大規模~中小規模の代理店が一斉に集まる。価格・質ともにレッドオーシャンになると思われる。

→ 三密回避のため、”タレント・セレブリティ to 消費者”のダイレクトなコンテンツが増える(zoomとかインスタライブとか)。初速ではZOOM云々などの企画でウケるがすぐ飽和するだろう。中長期的に企画の大幅改革が必要になるか?

→ 代理店の提案およびクライアント側のニーズを踏まえ、ネット配信やリモート案件を提案する方向。もしくは、アニメーション・モーショングラフィックスなど、人が極力介在しない案件へのシフトが加速。制作体制まで口を出されるようになる、対応コストの増加。

→ ドラマや映画など配信コンテンツは規模を効率化し、半年~1年後に再開するだろう。タレント・セレブリティの身の安全など制作コストが嵩む。そもそもタレント・セレブほど、緊急性がないので仕事を断るだろう。

→ スポンサーをつける前提のコンテンツづくりは衰退する可能性大。なぜなら不要不急だからだ。Netfilxやamazon primeのような視聴者課金型のコンテンツづくりへシフトか?(日本語圏のみでビジネスになると思えない)

→ 長期的に制作スキルを持った人材をクライアント企業に派遣する人材紹介が活発化するだろう。広告制作のインハウス化である。(=外の人でなく、内の人には抵抗がないため)

phase03. 新規の広告/映像ビジネスおよび人材や商材への投資減少、ベンチャー的な対象を保留・取り下げていく

→ 新規のコンテンツづくりは売上想定がたたないため、ほぼやらなくなるだろう。「VR×○○」だとか「ドローン×○○」だとかの新しい試みなどである。不確実性が1%でも高いものは避ける傾向になる。(ただし、生活者の課題解決分野は伸びるかも?ただの面白いクリエイティブはなくなる)

→ 上記の流れに伴い、デジタルアートなど芸術性を伴うコンテンツやイベントはスポンサーがつかなくなる。新規のアーティストおよび芸術文化が衰退・消滅する可能性が高まる。(おそらく「そこに金使うなら、もっと使うところがあるだろう!」的なところは世論的にも徹底的に批判されるからだ)

→ 唯一あるとすれば、オリンピックに照準をあわせるという建前での取り組みである。しかし状況が読めないので避けるほうが確率的に自然である(そもそもオリンピックさえ開催ボラティリティが高すぎて、スポンサー降りる気がする)

phase04. 発注案件の予算減額と新規案件の減少

→ 広告業界も生き残る戦略を取るため、安くても発注を取りに行くだろう。それに伴い、制作する側のフリーランスへの案件発注金額も減額される。

→ 新規案件が短期~中期的に「配信関連・モーショングラフィックス・既存動画の編集」へとシフトする。企業VPやCMといった納品するタイプの制作案件は急激に落ち込み、長期的に戻っていくと思われる。

映像系/広告系フリーランスの生存戦略

ではどう生き残るのか。それは”越境”と”サバイブ”だと思う。

越境とは、数年前からめちゃめちゃファンのデザインファームTakramさんが提唱した言葉である。ポッドキャストもよく聞かせていただいています。

これはエンジニアさん向けの記事。業界が違くても響く内容。

要は、自分は何屋であるから○○が仕事です、と定義せず、もっと上流のことをやろう。そのために違う分野のスキルも身につけようということだ。

今回で言えば、特に映像/広告系フリーランスは”待ったなしの越境”が必要であると思う。Takramさん風に言うならBTC型人材へのシフトだ。

これは、映像ディレクターが編集もやりますとか、撮影カメラマンがディレクターもやりますという役割(ロール)単位での越境ではない。

極端に言えば、経営計画に映像ディレクターが関わるだとか、経営側が映像表現へのアイデアを発想するような越境である。

私は映像屋としてのキャリアが長くなってきたが、元々アプリを作っていたり企画してきたし、かなり回り道したキャリアである。こうして文字を書けているのも、元々ウェブライターをしていたことがあるからだ。

だから、越境することがどれだけ困難で・どれだけ大切か、肌で知っているつもりだ。でも今はそうしないと生き残れないだろう。私達フリーランスは火サスの崖でいえば、ギリギリに立っているのだ。追い詰められた容疑者と同じ。

複合的な要素を混ぜ合わせ、新しい色を作る力がきっとこの先求められる。既存のビジネスがこれまで通りでは潰れてしまう世の中へと変貌していくからだ。

そして”サバイブ”。どうにかして生き延びることだ。

プラスに考えれば、今回の原因はコロナによる”自粛”である。経済活動が止まっていることが原因だ。長期化濃厚だが、動き出せば徐々に戻ってくるだろう。

今は無駄なものを削ぎ落とし、コストを最小限に抑えてチカラを貯めるべきだ。

昔、JALも日産も復活した理由は、稲森さんとかゴーンさんとかが徹底的に無駄を削ぎ落としたからだ。大学で習った気がするだけでよく知らない。

僕らが生きていくために必要なもの、仕事をするために必要なもの以外は削ぎ落とす。できるだけキャッシュを手元に残す。

ここに地球最強の生物クマムシさんがいる。

地球最強のクマムシだって、ちょっと暑いダラダラした気温だと死んじゃう。超高温だと活動を止められるのに、中途半端だとそのまま生きようとする。そして力尽きる。

まとめ

まずは、越境するための勉強と試行。そして、クマムシのマネをして長めに”乾眠”する。まとまっていないが強制的にまとめる。わからないことは分からないのである。

何年後か先、”越境型クマムシフリーランス”になれたら、それはもう最強である。がんばる。

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