見出し画像

ドイツ人, イギリス人, フランス人・・・理想の上司はナニ人?

自分の歴代の上司を数えてみたら、計12人いて、うち外国人が8人で国籍の数では6ヵ国になります。
その中でもとくに私の life に影響を与えたドイツ人, イギリス人, フランス人の上司たちについて書きます。
勤め人に上司は付き物。フリーランスの方にも上司的存在はいるのではないでしょうか。
それぞれの国籍の上司に特徴はあるものの、上司に国境はありません。
上司をもつすべての人に読んでいただきたい、と思いながら書きました。

あなたが上司に求めるものは何ですか?

大前提として、上司とは鬱陶しい存在です。
多くの人間にとって、自分を束縛する者として最初に親がいて、次に学校の教師たちがいて、社会に出てやっと解放されるかと思ったら、上司という最強に厄介な他人が登場します。

部下をもったことのある人なら同意してもらえると思いますが、ほとんどすべての上司は「良い上司」になろうと努力します。
「良い上司」とは、部下を正しい方向に導き、部下の成長を親身にサポートし、部下のキャリアパスに責任をもつ上司、といったところでしょうか。
それで上司・部下関係がうまくいっているケースもあるでしょう。
しかし、ほとんどの上司は部下に鬱陶しがられるものです。

それは、部下が上司に求めるものが、じつは微妙に異なるからです。
私の場合、上司に求めるものは以下のようなことです。

◎基本的に、手も口も出さない
◎本当に困ったときだけ、助けてくれる
◎良いところを評価してくれる(悪いところのダメ出しはしない)

それ以外のことは何もしないでほしいんですよ。
こちらが求めてもいないのに、指導とかアドバイスとかやめてほしい。
悪い点とか指摘されても、「んなこた、わかっとるわい」としか思えない。
次の異動先とかキャリアパスとか将来像とか勝手に決めつけないでほしい。

私だって最初はほぼ新卒で日本の会社に就職した人間なので、そりゃ入社直後は社会人の心得やら仕事のイロハやら叩き込まれましたよ。そのことには感謝しています。
でもね、ある程度自立できるようになっても、学校の先生が生徒を指導するかのごとく上司が部下を扱うのってどうなのよ?

こっちは早く一人前になりたいのに、その成長意欲を殺ぐような口出しばかりして、オマエは過保護の親か?

いい大人を子供扱いする日本の会社で、私は悶々としていました。

師として多くを学べたドイツ人

ビジネスパーソンの成長期とも言える30代前半、私はドイツ人の上司をもちました。

Peter(ペーター)
ドイツ支社CFO。当時40歳。ケルン出身。技術系学部卒。MBAホルダー。
第一子(娘)が産まれたばかり。(急に)子煩悩。イケメン。

ペーターは、ファイナンスとITに強く、「効率的」という言葉がピッタリくる人でした。
彼にとって「効率的」とは、無駄な仕事をしない、常に最短ルートを選ぶ、社内政治に関わらない、といった行動のことです。

ケース1
ドイツ全土の顧客から上がってきたリベートのデータが間違いだらけで、数字をチェックしなければならないことがありました。

ペーター「一件一件チェックするなよ」
私「はあ?なんで?」
ペーター「時間がかかりすぎるだろ」
私「じゃあどうすればいい?」
ペーター「大口顧客の数量の大きい製品から見ろ。80% 合ってればいい

ケース2
イタリアにある得意先と支払条件の見直し交渉が難航したときのこと。
交渉相手はエレナという粘り強い女CFOでした。

私「〇〇社が30日の支払いサイトを譲らない。これで4回目のメールだ」
ペーター「交渉相手は誰だ?」
私「エレナ」
ペーター「ちっ。エレナはメールじゃ埒があかんよ」
私「じゃあどうする?」
ペーター「いま電話する。こっちの与信枠を教えてやろう。サイトが30日になったら限度額を超えるから出荷が止まるぞって言えばエレナも困るだろ」

ケース3
人事部長と法務部長が、メールでのバトルから大冷戦状態になったことがありました。立場的に劣勢の法務部長ステファンは、CFOのペーターを味方につける裏工作に出たようです。

私「ステファンが来たらしいね。ウワサになってるよ(笑)」
ペーター「ああ。だいぶ追い詰められてたな。仲裁してくれ、だって」
私「HRは・・・」
ペーター「HRのアンナも来たよ。さんざんステファンの悪口言ってた」
私「で? CFO氏はどうするのかな?」
ペーター「何もしない。俺関係ないし。話聞いてやったんだから十分だろ

人として尊敬できたイギリス人

私がもったイギリス人の上司は3人いて、3人とも仕事ができ人間的にもできた人たちでした。その中で最も付き合いが長かった1人について書きます。

Helen(ヘレン)
オランダ支社VP。当時43歳。ブリストル出身。ACCA(英国公認会計士)。
15歳年上のダンナ(主夫)、コロンビア人の養女3人、大型犬(ラブラドール)2匹と暮らす。フランス語・オランダ語も堪能。赤髪ベリーショート。

ヘレンは、公認会計士という強力な資格をもちながら、ヒューマンスキルとリーダーシップにも長けた人でした。
といっても、スーパーウーマンという感じではなく、謙虚で周囲に気遣いができるサーバント型のリーダーです。

クイーンズ・イングリッシュを話すので、私にとってはスピーキングの先生であり、シンプルでロジカルな英文を書くのでライティングの先生でもありました。
幹部の扱い方上司としての心構え、また仕事以外のことでもヘレンの行動から多くの気づきを得ました。

ふたりでマンチェスターに出張したときのことです。
私たちはファイブスターの真っ当なホテルに宿泊していたのですが、そこの警備員が嫌味な男で、アジア顔の私にだけしつこくパスポートの提示を求めてくることが何度もありました。

夕食時に軽い雑談としてそのことを話したら、ヘレンの顔が強ばりました。
夕食を終えると、ヘレンはホテルのマネジャーのところへ行き、
「私の連れが侮辱を受けたようです。このようなホテルに宿泊できません」
と、丁寧なクイーンズ・イングリッシュで言いました。

マネジャーは慌てて例の警備員を呼びました。
ヘレンは警備員に事実を確認したうえで、
「私の連れに謝罪していただけますか?」

そのホテルでの宿泊日数はあと3日ほど残っていたのですが、急遽私たちはその日のうちにチェックアウトして、別のホテルに移りました。

私「そこまでしなくてもよかったんじゃね?あの警備員きっとクビだよ」
ヘレン「それでいいの。UKが外国人を差別する国だと思われたくないから。それに、部下を守るのは上司の義務だから」

「ああ無情」を教えてくれたフランス人

最後はフランス人の上司です。

Laurent(ロラン)
スイス本社VP。当時47歳。パリ出身。グランゼコール卒。元コンサル。

フランス語はRの発音が独特で、Laurentはほとんど「ロホン」と聞こえますが、ここでは一般的な「ロラン」で表記します。

ロランは、最悪の上司でした。
まず、人の話を全く聞かない。自分の主張を一方的にまくし立てる。
それに、理論家で分析好きで、理想主義の完璧主義。常軌を逸した分析手法や業務プロセスを独断で決めて押しつける。ムダな仕事を増やしまくる
さらに、人としての配慮ゼロ。公衆の面前で部下を叱責したりやり込めたりする。

ロランがVP(日本の会社で言えば部長格)になってから、かなりの人数の同僚たちが辞めました。
私自身は比較的被害に遭っていないほうだったのですが、執拗な精神攻撃がジワジワ効いてきたようで、あるとき妻に異変を察知されました。
妻の勘だったらしいのですが、「最近、なんか暗いよ」と言われ、これはマズいと思いました。

そこで、意を決した私は、元上司のヘレンに相談することにしました。
ヘレンは、ほぼ1日かけて私の話を聞いてくれました。
そして最後にひと言、思いもよらないアドバイスをくれました。

ヘレン「転勤願いを出すべきだと思う」

私「・・・・・・簡単に言うねえ(苦笑)」
ヘレン「いいえ、簡単じゃないから言ってるの。Laurentのことは私の耳にも入っていた。何人か辞めていったことも聞いてた。じつは、あなたのことも心配してたんだよ。私に相談してくれてありがとう」

私「戦っちゃダメかな?」
ヘレン「やめたほうがいいと思う。あんな男のためにあなたのキャリアを棒に振るべきではない。あなたは会社を辞める必要はない。手を挙げれば、欲しいところがあるはずだから。例えば・・・アジアパシフィックとかね」
私「なんか逃げるみたいでイヤだな」
ヘレン「逃げるのは最終にして最強の選択肢だよ(笑)」

私がスイスから香港に転勤したのは、その2ヵ月後のことでした。

日本人の上司に警告します

一般的に、アソシエイト(非マネジメント職)の仕事のクオリティは世界でも日本人がピカイチだが、マネジメント職になるとそれが逆転する、と言われます。

しかし、それは日本のマネジメント職が悪いのではない、と私は考えています。
上記のように言われてしまうことには2つの側面があると思います。

1) 日本はアソシエイトが優秀すぎるから、マネジメント職は少々無能でもなんとかなってしまう(無能だと言っているのではありません)
2) マネジメント職の能力の問題ではなく、マネジメントのスタイルに問題がある

日本企業の「管理職」と言われる人たちは、プレイヤーとして優秀だった人たちであり、その大半はマネジャーとしても優秀でしょう。

日本企業の(本来優秀であるはずの)マネジャーが無能な管理職に堕落していく負のスパイラルは、新卒一括採用というマヌケな制度を起点とします。

経験もスキルもない新卒者ばかりを採用する
⇒ 部下を育成する責任と負担が重すぎる
⇒ 「育成」と称して、何でもかんでも部下にやらせようとする
⇒ マネジャーが自分でやるべき本来の仕事をしなくなる
⇒ 自分の存在意義をアピールするために、部下を「管理」し始める
⇒ 仕事の成果ではなく、残業時間や働き方でしか部下を評価できなくなる
⇒ 無能な管理職の出来上がり

部下をもつ日本人上司の皆さん、悪いのはあなたではありません。
日本の制度に起因する歪なマネジメントスタイルがあなたをダメな管理職にしている可能性があります。
理想の上司になるのはあきらめましょう。

そのかわり、せめて次のことくらいは肝に銘じてください。

◎部下を「管理」しようとするな。あなたの部下は、いい歳した大人だ。
◎部下の仕事のやり方に口出しするな。プロセスくらい好きにさせろ。
◎しかし、事が起こったときには、部下のことは体を張ってでも守れ