事例から学ぶ大企業とスタートアップのサービス開発プロセス。
オープン6周年を迎えたDMM.make AKIBAは、スタートアップ150社を含む600社、4,000名以上の会員、スポンサー企業、地方自治体、国内外のパートナー機関、ベンチャーキャピタルなどを含む広いネットワーク・コミュニティを形成しています。
中でも、新しいビジネスを始めようとしている方や始めたばかりの方に多くご利用いただいています。
そこで今回はゲストスピーカーをお招きし、サービスの開発プロセスにフォーカスしたオンラインイベントを昨年12月17日(木)に開催しました。
このnoteでは大企業ながらスタートアップのように迅速な開発プロセスを採用しているパーソルキャリアの例と、スタートアップの支援を行っているB.C.Membersの例をご紹介していきます。
1- パーソルキャリアのサービス開発プロセス。
1-❶リーン・スタートアップで迅速に開発する。
まず初めに、様々なサービス開発を経験し、現在パーソルキャリアの新規サービスの立ち上げを担当している三口さんに、どのようにサービス開発を行っているのか伺いました。
三口 聡之介(みくち・そうのすけ)さん
パーソルキャリア株式会社 /
サービス企画開発本部 サービス開発統括部 エグゼクティブマネジャー
京都大学在学中に、株式会社ガイアックスの設立に参画。その後、 KLab株式会社で携帯アプリケーションの開発に従事したのち、楽天株式会社に入社し、プロデューサーとしてMyRakuten などを担当。2013年から株式会社百戦錬磨に参画、 取締役に就任。
2013年にとまれる株式会社を設立、 代表取締役社長に就任した。
その後、ベンチャー企業複数社を経て2018年2月、パーソルキャリア株式会社に入社。 サービス開発統括部のエグゼクティブマネジャーを務める。
「転職サービス『doda(デューダ)』などを手がけるパーソルキャリアは、皆さまのキャリアオーナーシップを支援することをミッションとしています。
中でも私が統括しているサービス企画開発本部は、既存の領域以外の、『はたらく』を自分のものにするサービスをつくっています。
組織構成で特徴的なのはUXデザイン部にサービスデザイナーとUXリサーチャーが所属していることです。
通常、私たちが新規サービスを立ち上げていく際はBMLフィードバックループ(*1)を回転させながら成長または撤退させていきます。
*1:『リーン・スタートアップ』の中で提唱されているフレームワークでBuild(構築)-Measure(計測)-Learn(学習)の略。
アイディアをユーザーに届けられる製品にすること(構築)→製品を使ったユーザーからの反応を計測すること(計測)→計測したデータから方向転換するかどうかを学ぶこと(学習)を素早く回すこと。
審査会を通した後に〈デザイン(プリプロダクション)フェーズ〉でサービスの設計を行います。
BMLフィードバックループを回して、よいサービスができればサービスオーナー(SO)がフィードバックします。
次に〈実装(本開発)フェーズ〉に進むとエンジニアが中心になって開発を行い、またSOがフィードバックし〈グロースフェーズ〉で成長させていきます。
必要があれば〈デザインフェーズ〉や〈実装フェーズ〉に戻ってまた回転させていくという手順です。」
1-❷撤退を意識することの重要性。
「パーソルキャリアでは2021年度に24のサービスを同時開発できる組織を目指しています。
『doda』に並ぶパーソルキャリアを代表するサービスを2つ生み出し事業化またはスピンオフさせていきたいと考えています。
〈デザイン(プリプロダクション)フェーズ〉で16のサービスをつくるというのは、一見無謀のようにも思われますが、紙芝居のようなプロトタイプでよいので試験的にユーザーに実際に触ってもらって評価する、ということをしています。1つのサービスを2週間から1ヶ月で評価するので、月に1、2個のサービスを検証していくことができます。
定説的に言われていることですが、新規サービスは5〜10%ほどしか上手くいきません。
そこで、〈デザイン(プリプロダクション)フェーズ〉で多くのサービスを検証し、ユーザーの反応がよいものだけを〈実装(本開発)フェーズ〉に上げていくことで、成功確率を高めています。
撤退ラインを予め決めておくことで、ポテンシャルのある立案に時間を割くことができます。どんどん企画を立案していくためには、いつも撤退を意識することが重要です。
現在11個のサービスを開発していて、すでに除却・撤退したサービスもあります。
すでに開発しているサービスとして、今の自分と同じ条件で働く人を比較して、未来の働き方のイメージづくりを手助けするアプリ『マイポテ』、転職後の“はたらく”を支援するサービス『CAREER POCKET』、中途・新卒入社の定着サポートサービス『HR Spanner β版』などがあります。」
1-❸立案から事業化までの企画開発プロセス。
「実際にこのようなフローで企画開発を行っています。
企画立案を行った後、審査会を通ると〈デザイン(プリプロダクション)フェーズ〉に進み、実際にユーザーにプロトタイプを体験してもらいます。
この際、単純なアンケートだけでなくデプスインタビュー(*2)を行うなどの方法をとっています。
よかったプロトタイプだけがMVP(*3)開発に進みます。次にPSF(*4)を確認します。このとき、必要があれば修正プロセスに移行します。
PMF(*5)まで進むと検証を何度も回し、上手くいけばグロースさせて事業化する、という流れです。この流れをおよそ3ヶ月で行います。」
*2:深層面接法。定性調査で用いられる手法で、対象者とインタビュアーが1on1で対話するインタビュー調査。
*3:Minimum Viable Productの略。『リーン・スタートアップ』の中で提唱されている考え方で、検証可能するために最小限の製品のこと。
*4:Problem Solution Fitの略。『リーン・スタートアップ』の中で提唱されている考え方で、ユーザーが抱える問題を解決している状態のこと。
*5:Product Market Fitの略。『リーン・スタートアップ』の中で提唱されている考え方で、PSFで検証したソリューション(製品)が市場に受け入れられる状態のこと。
1-❹デザインスプリントを取り入れて迅速に検証する。
「〈デザイン(プリプロダクション)フェーズ〉では『デザインスプリント』というフレームワークを採用しています。
2〜5日間で起案からプロトタイプの開発、ユーザーに体験してもらってインタビューするところまで行っています。
2種類のデザインスプリントに分けて考えています。
初めの頃はPDSを中心にした進め方をしていましたが、最近では早い段階でユーザーの声を聞いた方がよいと判断しSDSを中心に採用しています。
すでにプロダクトが構築されているような場合はPDSが向いていて、ユーザーの意見を取り入れながら新規サービスを立ち上げる場合はSDSの方が向いていると気づいたからです。プロジェクトに応じて組み合わせて採用しています。
上図は1から立ち上げるサービスの場合に実際に行っているデザインスプリントの例です。初期段階からユーザーにインタビューを行ってクイックに開発から振り返りまで行います。
デザインスプリントでは個人ワークが重視されているので議論になりづらく、よいアイディアに投票していく形式で進行します。議論になると思考が戻ってしまうので、発散と収束を繰り返して一方通行で進めています。
7名ほどのメンバーがオンラインで参加していて、MiroやMuralをホワイトボードのように使用しFigmaやKeynoteでプロトタイプをつくっています。
デザイナーだけでなくエンジニアも参加してプロトタイプを1日で完成させます。参加者はできるだけバラバラの役割にしていて、法務や営業も参加することがあります。
また、デザインスプリントを行う際に何度もユーザーテストをしてしまうと、"IKEA効果"とも呼ばれますが手間隙をかけることで実際以上に価値があるように思えてしまいます。正しく撤退するためにもPSFに至るまでに判断する必要があります。企画が可愛く思えてくることはよいことではないです。」
1-❺まとめ。
「パーソルキャリアでは大手企業ながら『リーン・スタートアップ』や『デザインスプリント』というスタートアップの開発手法を取り入れています。
〈デザイン(プリプロダクション)フェーズ〉を設け、エンジニアやデザイナーの視点を入れたことで、エンジニアの企画に対する理解度が深まり開発スピードが上がりました。
新規のサービス開発では特にユーザーの声を重視したことで迅速に検証と開発を行うことができるだけでなく、開発する人のモチベーションが高くなっています。」
2-スタートアップの開発プロセス。
2-❶開発コストと制限したプロセス。
次に、スタートアップの開発支援を行っているB.C.Membersの野尻さんにお話を伺いました。
B.C.Membersはスタートアップに向けたUX/UIの設計開発からデジタルコンテンツまで総合的なコンサルティング支援を行っています。
野尻 澪勇(のじり・れなと)さん / 株式会社B.C.Members CTO
B.C. MembersのCTOとしてベンチャーへのテクニカルアドバイ ザリーを中心に社内システム開発およびクライアントシステム設計 ・開発、サーバシステム設計・開発を担当。 CGコミュニケーションズ株式会社にて3Dプリンター販売・ 保守を経て株式会社meleapにてARゲーム開発を担当。 その後セブン・ドリーマーズ・ ラボラトリーズ株式会社にてハーネス・ 電源ユニットを中心にハードウェア設計も担当。 2018年より現職。
「B.C.Membersの設計フェーズは4つに分かれています。理想的な開発サイクルはパーソルキャリアさんのように課題が見つかったら改善していくというサイクルを回していく方法です。
ただし、スタートアップでは大企業のように資金や人材が潤沢にないのでそうもいきません。そこで、B.C.Memebersでは回すべき箇所を制限しています。
上図にあるようにMVPフェーズのみを回しています。スタートアップはビジョン(理想)をピボットさせてはいけないと考えているからです。
生活に必要なサービスが世の中にありふれている中でスタートアップをなぜやる必要があるのか、その理由が変わってしまいます。スタートアップはビジョンをどうしたら的確に届けられるか、ということに注力するべきだと考えています。」
2-❷理想設計を考えること。
「BRAIN MAGIC様の理想設計をコンサルティングした際の例をご紹介していきます。
理想設計を行う際はクリエイティブシンキング(*6)で、〈やるべきこと・やりたいこと〉をとにかく羅列します。
次に、ロジカルシンキング(*7)で〈なぜやるのか・どういう意味なのか・どうなりたいのか〉ということを深掘りします。
深掘りして出てきたキーワードをシステムシンキング(*8)で取り出して1つの理想にまとめていく、という手順です。
*6:枠組みにとらわれずに自由なひらめきやイメージを重視する思考法のこと。
*7:物事を体系立てて一貫した筋道の通った合理的な思考法のこと。
*8:物事をシステムとして捉えて要素同士の繋がりと関係を明らかにして全体を把握する思考法のこと。
MVPフェーズで試作を重ねていると様々な要望(機能・品質)が生まれます。このとき理想からかけ離れることなく、作り手視点ではなくユーザー視点の機能なのか、ということを議論する必要があります。
理想(ビジョン)をつくる期間で1ヶ月、MVPを回すのに1〜3ヶ月で開発しています。また、スタートアップの場合は適切な外注をできる人を確保することが大事です。」
2-❸まとめ。
「スタートアップの場合は資金や人材が限られているので全ての開発サイクルを回すのではなくMVPだけ回転させることが多いです。
理想設計をきちんとすることで理想からピボットすることなく一貫して必要な開発だけをすることができます。ユーザーからも共感されやすくなります。」
さいごに。
パーソルキャリアではテックメディアとして「techtekt」と「TECH Street」を運営しています。ぜひこちらもご覧ください。
B.C.Membersでは「世界を変えるアイディアを実現し、未来を創る」ことを目指すために、新たな事業アイディアについての様々な無料相談を受け付けています。UI/UXデザインから開発、事業の計画から資金調達までお気軽にお問い合わせください。
DMM.make AKIBAでは大企業からスタートアップ、個人の方まで様々な会員が活動しています。オフィスとしてのご利用や機材の利用など、お気軽にお問い合わせください。
無料で施設見学ツアーに参加することも可能です。
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