今起こっている「緊急事態」は何か。
今日から、3度目の緊急事態下に入りました。
今、何の「緊急事態」が起こっているのか。
もちろん、政府により宣言された緊急事態は、コロナの感染状況、医療体制のひっ迫状況が緊急事態ということです。
一方で、飲食業・観光業をはじめとする産業への打撃も緊急な状況です。
そして、この2つの緊急事態は二項対立的に語られがちで、不幸な対立も生まれています。
でも、ここでは、その話ではなく、そこに挙がってこないもう1つの、深刻な緊急事態について警鐘を鳴らしたいです。
それは、生活困窮家庭の緊急事態です。
社会の底が抜けるという緊急事態です。
(*写真は、「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」さんと連携して、ひとり親家庭へ東北の食材をお届けさせて頂いた際のものです。)
何が起きているか
ここ1年ほど、一人親支援、生活困窮者支援に最前線で取り組んでこられている「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」さん、「もやい」さんとご一緒させて頂き、定期的にミーティングをする場を持たせて頂いていますが、毎回、その報告の深刻さにショックを受けるとともに、自分の不勉強、この課題に取組めていないことに忸怩たる思いです。
先週のミーティングで共有頂いた、「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」さんによる一人親家庭に対する最新のパネル調査(今年3月実施)では、2月中に「米などの主食が買えないことがあった」と答えた割合が36.2%(「よくあった」「ときどきあった」の合計)に達しています。
そして、衝撃だったのは、小学校のお子さんの「体重が減った」と答えた家庭が、全国で7.4%、東京では9.3%という数字です。ものすごいスピードで成長していくはずの小学生の体重が減っているのです。この日本で。
https://note.com/single_mama_pj/n/n99b318466f42
また、「もやい」さんが毎週行っている新宿での食料配布は、年が明けての2度目の緊急事態宣言以降、配布を受ける方の数が例年の3倍に急増しているそうです。
これこそ、緊急事態です。
ビジネスの業績が悪化した時、真っ先に切られるのは非正規雇用。このコロナ危機によって、非正規雇用の方々、その割合が高い(そして特に小売業・飲食業・サービス産業など打撃を受けた業界の割合が高い)一人親世帯の方々の家計状況が急速に悪化しました。
そしてこれは、一過性の問題ではなく、構造的な問題です。
そもそも、この国の貧困問題、構造的な格差の拡大は、コロナ危機以前から深刻です。
資本主義システムの下、もはや先進国ではトリクルダウン(富める者が富めば貧しい者も自然に豊かになる)は起こりません。2000年から2019年の間で、この国の富裕層(資産規模1億円以上)の世帯数は83.5万世帯から132.7万世帯に増加、保有資産は171兆円から333兆円へとほぼ倍増しました。一方で、相対的貧困率はOECDでも悪い方で、16.1%とアメリカ(17.2%)にほぼ近い数字となっています。子どものいる世帯についても、日本の子どもの7人に1人は相対的貧困状態にあるという、危機的状況でした。
そして、この数字は、コロナ禍で確実に悪化しているでしょう。一方で、コロナ危機に入ってから、株価はバブル期以来の高値をつけています。
社会の底が抜けるだけでなく、これでは、社会が壊れます。
にもかかわらず、コロナの感染状況、飲食店や観光業の苦境に比べて、この生活困窮に関する緊急事態への社会の関心はあまりにも低い状態。
"ニュース"ショーもワイドショーも、コロナの感染状況と飲食店・観光業の危機についてはセンセーショナルに報じますが、この生活困窮の問題については無関心です。相も変わらず、下世話な「スキャンダル」の方が圧倒的に優先順位が上です。(正直テレビニュースもワイドショーもほとんど見ておらず、データを取ったわけでもないので、ここはチラ見と二次的な情報による印象・憶測になります。ファクトとして誤っていれば指摘ください。)
社会の底が抜け、「食事を1日1食に減らしている」という一人親がたくさん生まれているといった事態の深刻さと、社会の関心(またはその完全な欠如)の乖離が、あまりにも大き過ぎます。
これはリベラルか保守か、とかいった単純な二項対立で片づける問題ではなく、主義主張を超えた、厳然と目の前にある危機、です。
何をすべきか
この「もう1つの緊急事態」に対する具体的な施策については、この問題に全然取り組めていない自分が述べるよりも、まずは、この問題にずっと取り組んできている、「もやい」の大西理事長の提言をご覧ください。https://note.com/ohnishiren/n/n2c92d9f65caf
また、「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」さん、「もやい」さんへの寄付をお願いします。
https://www.single-mama.com/
https://www.npomoyai.or.jp/
■「感染症対策」・「産業経済対策」・「生活困窮対策」のトライアングル
私からは、自分がこの生活困窮家庭の問題に取り組めてきていない忸怩たる思い・反省をもって、この問題に対する社会の優先順位を上げるための枠組を提起したいと思います。
コロナ禍への対応についての目下の議論は、「コロナを抑え込む」と、「経済を回す」については議論されますが(いずれももちろん大事です)、「生活困窮者を救う」、もっと言えば「死なせない」という視点が抜け落ちています。
政府もメディアも世論も、コロナ禍へのあらゆる対応を検討する際に、コロナの予防と医療という「感染症対策」(①)、飲食業・観光業をはじめとする「産業経済対策」(②)とともに、「生活困窮対策」(③)を大きな柱として常にアジェンダに乗せ、この3つの柱のトライアングルで具体的施策を議論・検討・実行していくべきと思います。(マクロ経済で言うところの、「政府」「企業」「家計」のトライアングルのイメージ。)
公共政策は、すべからく、最も脆弱な人々の視点をもって形成されるべきです。ワクチンの接種を高齢者から優先的に始めるのと同じことです。経済対策も、まず、この生活困窮の緊急事態に手を付けなければなりません。
例えば、コロナにより学校の閉鎖を検討する際には、感染症対策の観点だけでなく、生活困窮家庭への影響も必ず考慮に入れるべきです。(大阪市では今回の緊急事態下でも給食の提供の継続が決められ、賛否両論ありますが、この観点が政策決定にしっかり入ったことは大事な点だと思います。)
この点、3月の緊急対策において、困窮子育て世帯への給付金が、「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」さんはじめとする方々の呼びかけで決定されたことは素晴らしい成果です。決まったなら早急に、机上ではなくテーブルの上にキャッシュを届けるべきです。
■ソーシャル団体一斉行動
民間の側でできる具体的な行動の提起としては、この生活困窮者層の緊急事態について、少なくとも、社会課題の解決を目的として活動している団体はすべて、何らか具体的取組を行う、ということを提起したいです。
社会には課題が山積しています。
誰も、どの団体も、すべての問題に関わることなどできません。むしろ、数多ある、あり過ぎる課題の中から、どの課題にフォーカスするかを判断し、特定の課題にリソースを集中してインパクトを追求します。それ以外の課題については、傍観者とならざるを得ません。社会課題の解決も、基本的にはリカード先生の教えにしたがい、分業だと思います。
私も、東北、とりわけ福島の食産業の課題、そして福島12市町村のまちづくりの課題にフォーカスをしていますが、それでも課題が巨大すぎて、めまいがするほどです。人生をかけて取り組んでやっと乗り越えられるかという勝負です。強い関心や問題意識があっても、なかなかその他の課題にまで直接当事者として関わることは難しい状況です。
ただ、この生活困窮家庭の問題については、もはや誰も傍観者でいられない、まさに緊急事態です。この国の社会を壊さずに維持できるかという問題だと思います。
これはもう、「ビジネスモデル」とか、「スケーラビリティ」とかいう問題ではなく、(ましてや「定款」などという形式主義にとらわれず)、その緊急性と重大性から、社会課題の解決を目的とする団体であれば、具体的な取組に踏み切るべき課題だと思います。
現実的には、全ての団体が具体的なプログラムを主体的に実行することはリソース的に難しいかもしれません。であれば、少なくともアドボカシー(発信)だけでも行うことはできるのではないでしょうか。あらゆるソーシャル団体がそれぞれ、同時多発的に(敢えて一つにまとめず、それぞれが)この緊急事態について発信をするだけでも、少なくともこの社会の優先順位を今、変えられるのではないかと思います。
終わりに
言うまでもなく、超少子高齢化社会です。言うまでもなく、この国の未来は、その「少子」にかかっています。私たちは、その超「少子」の7人に1人を相対的貧困状態においています。そして、コロナに突入し、急速にその状態は悪化しています。この緊急事態を放置した先に、この国の再生などないはず。
そして、今、企業によるSDGs(持続可能な開発目標)の「17の目標」の追求が盛んです。この国でそんなに多くの人がSDGsの「誰一人取り残さない」という精神を本当に追求するなら、この生活困窮者の緊急事態が放置されてはならないはず。
以上、3度目の「緊急事態」下への突入に際して考えたことです。自戒を込めて。
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