羽生結弦選手は〝超ファーストペンギン〟です。
フィギュアスケート・羽生結弦選手。
僕が22年間、放送作家の仕事を通して見てきた中で、唯一無二の存在感を放つアスリートです。
理由は、その言動。
〝超ファーストペンギン〟とでも言いましょうかねー。
天敵がいるとわかっている海へあえて真っ先に飛び込み、えさをもぎ取ってくるような。そして、すぐ次の海へ真っ先に飛び込んでいくような。
恐怖に打ち勝つほど強くなる。それを肌で知っているペンギン。
印象に残っているのは2013年、福岡で行われたGPファイナルで初優勝した際のインタビュー。
羽生選手はこのとき限界ギリギリの攻撃的プログラムについて、こう言っていました。
フィギュアスケートは採点競技ですから、技の難度だけ高くても、完成度が低いと減点されてしまいます。そのため、戦略として難度を少し落として、完成度を優先するのがセオリーといえます。
しかし、羽生選手は難度を最高にした上で、さらに完成度も最高を目指すべきというのです。
また、こんなこともありました。
2014年の中国杯では練習中にほかの選手と衝突。足元はふらつき、顔面蒼白、頭にテーピングを巻きながら強行出場したことが。
大事な五輪シーズン、この試合で無理をする必要はなかったのに、最後まで演技をやり切った。
自らを奮い立たせたのは「ここで逃げなかったら、諦めなかったら、また限界を突破できる」と考えたからではないでしょうか。
〝挑戦〟をこれだけエネルギーに変換できるアスリートはそういないと思うんです。
その羽生選手、今回の北京五輪でもとんでもないことに挑戦しました。
史上初のクアッドアクセル。
金メダルを獲得したネイサン・チェン選手をして「神の領域」と言わしめた最高難度の大技です。
結果、成功はしなかったものの、4Aは認定。世界はその偉大な挑戦を絶賛しました。
ところが。
きのう『報道ステーション』が行なったインタビューで、羽生選手はこう言ったのです。
僕にとっては衝撃でした。
「命をかけて練習してきた」「正しい努力をしてこれた」と発言してきた羽生選手。それでも、結果を出せなかったらダメなんだと。
今は「よく頑張った」と自らを褒めるのではなく、ひたすら「悔しい」……。
ペンギンはえさを獲るために海へと飛び込むわけで、えさを獲れなかったら意味がない。
ここに〝超ファーストペンギン〟の矜持を見た気がしました。なんという誇り高さか!
まさに唯一無二の存在感を感じた瞬間でした。