保健室の先生の教育:子どもたちにはフタをしない明日使える知識を
ほとんどの人が1度はお世話になるであろう「保健室の先生」。小学校で現役の保健室の先生として勤務されている飯泉さんに、お仕事事情についてうかがいました。
「保健室の先生」がどんな1日を過ごされているかの詳しい解説は下記からお読みください。内容的にこの記事から読まれても問題ありません。
ー今のお仕事をされていて、日常生活にも出てしまう”癖”ってありますか?
具合が悪い方へのヒアリングが、小学生向けになりますねw
「トイレ行ったの?」「朝ごはんちゃんと食べた?」とか。というのも、大人が病院で症状を説明する時って、
という感じになるんですが、これを子どもが言うと、
になるんです。だから何が原因なのかは聞かないと分かりません。
ちょっとした不調かな?という症状の裏に、緊急性の高い疾患が隠れていることもあります。日々、沢山の子どもたちが保健室に来ますが、必ず丁寧にヒアリングするようにしています。
ー沢山の子どもたちのケアをしていると、絆創膏や消毒液などの在庫管理も大変そうです。こういった備品の発注もされているのですか?
はい、私がやっています。そういう業務が結構好きみたいで、新しい素材の衛生用品を入れてみたり、道具の整理整頓をしたり、割と楽しくやっています。
子どもたちの反応や、傷の治り具合も見られるので、ガーゼやテープなど良いものに出会えるのも嬉しいポイントです。
ー確かにどの保健室も、備品はビシッと揃いキレイに整理されているイメージです。ほかの学校の保健室の現場を見ることってあるんですか?
そうですね、研修で他校に行くこともあります。あとは保健室の雑誌を定期購読しているので、そこでほかの保健室の様子をチェックしていますね。
ーなんと。保健室の雑誌があるんですね!
「健康教室」と「健」という雑誌です。数少ないこの2つはとても貴重です。緊急対応の事例とか、食の安全についてや保健教育、先生の知りたい最新医学についてなど様々な情報が掲載されています。
養護教諭って基本的には学校に1~2人なので、自分の仕事をなかなかアップデートしづらい環境なんですね。先輩や上司が同じ空間にいるわけではないですし。
一方、医療現場は「処置ひとつ」とっても変化の多い職場です。私が看護師だった3年前と比べ、もう現場は色々と変化しているでしょう。いつの間にかひと昔前の処置をしている、なんてことにならないよう雑誌や勉強会から情報を得ています。
ー確かに、目次を拝見すると「応急処置アップデート」というコラムがあります。
こういう風に止めると剥がれにくいなど、絆創膏の巻き方一つでも全然違うんです。例えば、ひざを擦りむいた子に絆創膏を貼る時の注意点。ひざを伸ばした状態で貼っちゃうと、曲げた時に剥がれるんですよね。
剥がれにくくすることで、子どもたちは何回も保健室に来ずにすみますし、私も貼り直さなくてよくなるのでありがたいです。
ーなるほど、そうなんですね。
ー話は変わりますが、看護師から保健室の先生になられた飯泉さんは、医療系の映像コンテンツってご覧になるんですか?
観ます観ます!医療の世界が好きなので、ドラマや映画はよくチェックしています。映画だと『風に立つライオン』という作品が好きですね。
大沢たかおさん主演の、アフリカの医療体制を良くしようとした男性についての映画です。この映画の主題でもあり、医療の根源にもある「人を助けたい」という思いに寄り添った作品に、私は心動かされることが多いです。
ドラマですが「Dr.コトー診療所」もそうですね。より良くしたいという理念や信念に基づいて、目の前の課題に取り組む姿勢に感動します。
ー「Dr.コトー診療所」は新作映画がまさに公開されますね。
そうなんですよ!とても楽しみにしています。
医療現場を描いているものでは、洋画の方がよりリアルだと感じます。とはいえ医療系のものは、ツッコミながらもエンタメとしては大好きです。スタッフロールでは、どんな方が監修に入られているのかをついチェックしちゃいますね。
ーそうなんですね。私も、エンドロールは情報の宝庫なのでめちゃくちゃ集中して観ています。
ーここ最近、特に洋画で見かけるようになったのが「COVID Coordinator」というクレジット。撮影現場でのコロナ対策をされている方だと思うんですが、最初に見つけたのが『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』という映画。皮肉にも映画の内容は全然ウイルスを防げないっていう…
それはちょっと面白いですねw
日本にも、映画やドラマ、TVCMの撮影現場でコロナ対策をする仕事はあるんです。看護師が、感染対策や体調不良者への対応などのアドバイスをします。
コロナに限らず、イベントや旅行に帯同する看護師を派遣するというサービスもありますし、それに登録しているフリーランスの看護師さんも、実は結構いらっしゃいます。
ー保健室の先生と言えば「ほけんだより」です。内容はどのように考えているんでしょう?
季節に合わせた内容とか、最近の子どもたちの様子を見ていて気付いたことがメインになります。石鹸の減りが悪いな…と思ったら「しっかり手を洗いましょう」などですね。
ー石鹸の減り具合が分かるんですね。凄い…
石鹸の補充も私の仕事なんで、気付きますねw
手洗い場の床が水浸しだったら「ハンカチ持って来よう」、寒くなってきたら「カーディガンを持ってきて温度調節をしよう」みたいな感じです。子ども達に対してもそうですけど、保護者の方への啓蒙も考慮して「ほけんだより」を作っています。
ーここまで教えていただいたような業務以外に、特に注力していることがあれば教えてください。
「教育」に関わりたいと思って養護教諭になったので、性教育や健康教育、予防教育などの「保健教育」に力を入れています。
教科書の内容も少しずつ変わってきましたが、異性同士で結婚をし、家庭を築いて、子どもが生まれて、家族ができます、それがベーシックです、という考えが日本ではまだまだ一般的ですよね。
パートナー関係は異性間だけではありませんし、子どもを産むのか養子を迎えるかも選択することができます。妊娠を希望しても子どもができるか、そして健康に生まれて育つかどうかも分かりません。ご家庭ごとにいろんな形や選択肢があるんです。
問題なのは、そうした事実を見聞きする機会が少ないこと。
色んな家族のかたちや可能性があるということを、小さい時に聞いたり、見たり、教えてもらったり。病気やハンディキャップを持っている方と、学校生活を共にするなど接する機会があれば、子どもは自然と心配りができるようになると思います。
ひとそれぞれ得意不得意がある。できるところを認め合い、苦手なところはフォローし合う。そんな風に多様性を尊重できるようになると思うんです。なので、「保健教育」にはとても力を入れています。
ー小学校でなら学年ごとでも教えてあげられることは変わりそうですね。
4年生には二次性徴の授業や、5,6年生にはけがの手当という単元があります。大事なのは、今後生きていくために必要な、実際に役立つ知識を持ってもらうことです。
それに派生して、普段の手当でも「明日から使える知識」を意識して処置しています。ただ絆創膏貼るより「このキズは1回水で洗っておいた方が良いね」や「鼻血はこうやってギュッと押さえて何分だよ」とか。
「絆創膏は、お風呂に入る時は1回剥がして、水で綺麗に洗ってから新しいのを貼るんだよ」みたいに、ただ全部やってあげるのではなくて、私がいない下校後やお休みの日でも、どういった処置をすると良いのかという説明を心がけています。
保健室に来る前に傷を水洗いをしてきたり、「鼻血出たから下向いてつまんだよ!」と実践してくれる子もいます。そういった成長がみられると嬉しいですね。
ー担任の先生にはなかなか話しづらい相談を、保健室の先生にしているというイメージもあります。
相談に来てくれる子はたくさんいますよ。
保健室はいろんな情報が集まってくる場所でもあります。誰と誰がケンカしたとか、授業が変更になったよ、とかも子どもがすぐに教えてくれます。
二次性徴の授業を担当していることもあり、心や身体の相談ごとも多いです。生理や身体の変化について、話しやすい存在になれたらいいなと思います。
性教育に関しては、「フタをするより、正しい知識を。」というモットーで。つい言葉を濁してしまいがちな内容でも、ちゃんと理解してもらえるように真摯に向き合います。
保健室にある色んな本の中から、子どもたちが「性」に関するページを見つけると「裸だ!エロだ!こんなのだめだよー!」なんてキャーキャーする子も時にはいます。でも、
こんな風にちゃんと伝えれば、子どもたちは素直に、真剣に聞いてくれます。正しい知識を持つと、冷かさなくなるんです。キャー!と言っていても、興味を持ってくれているタイミングは、実はチャンスだったりします。
「大人になれば分かるから。」「そんなこと聞いちゃいけません。」と大人が変に隠しても、子どもたちは知りたいので、インターネットで検索すると思います。そうすると、トップに出てくるのは大体アダルトサイト。
ー確かにそうですね。
アダルトサイトで得た知識って、ファンタジーの部分も多いですよね。性の知識は生きる上で大切なものなので、正しい知識を、丁寧に伝えていきたいです。
例えば「ちんちんキック!」ってふざけている子にも、
と優しい言葉で、でも、リスクをきちんと伝えます。そうすると、
って本当にストレートに理解してくれるんですよ。素直ですね。年齢が低いほど、スッと入っていくと感じます。幼少期からの性教育は大切です。
これからも隠さず正しい知識を伝え続けていきたいです。
(写真:若槇由紀)
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