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学校に1人しかいない保健室の先生の1日

おそらく、ほとんどの人が1度はお世話になる「保健室の先生」。手当をして、優しい言葉をかけてくれる、そんな保健室の先生が「職業」としてどんなお仕事かをご存知でしょうか?今回は、小学校で現役の保健室の先生として勤務されている飯泉さんにお話を伺いました。

ー保健室の先生って、どんな1日を過ごされているんですか?

朝、出勤すると子どもたちもワァーって登校してきて、もう走り回っていて、もう転んでる子がいる。そんな感じでスタートします。そしてあっという間に、保健室の一番の繁忙タイムである中休みと昼休みに突入します。

体育の授業や休み時間で、転んだ子にぶつかった子、ドッジボールが顔に当たった子、お腹の痛い子、いろんな症状の子どもたちでとにかく溢れかえっていて「並んでー!」と言っています。

ー朝から激しいですねw

そうですねw
子どもたちには、教室や校庭、図書館みたいに、保健室は自由に行き来できる場所だと思っていて欲しいんです。そして実際にそう伝えています。なので「用事ないけど来たー」ってただフラッと来てくれる子もいます。トランプを持ってきて、私とやるのかと思いきや、保健室にいるほかの子たちと遊んでいつの間にか輪が広がっていたり。

ー凄く楽しそうですね。午後になると雰囲気は変わりますか?

午後には、お昼ご飯を食べて気持ち悪くなっちゃった、頭痛や腹痛など具合の悪くなったという子たちが増えてきます。熱を計って休んでもらい、良くならなければ担任の先生や保護者の方に伝えたり、この辺りはみなさんのイメージ通りです。

具合が悪い背景にも、実はいろんなケースがあります。算数が苦手で授業の度に来ているとか、前日の習い事が忙しくて寝不足なだけとかいろいろあるので、丁寧なヒアリングが重要ですね。

ーみんなの下校後はどんなお仕事をされてるんでしょうか?

そこからは自分の事務作業です。怪我をして病院に行った子の保健申請や、子どもたちの健康データ管理、あとは「ほけんだより」などの手紙を作ったりしています。

加えて「校務分掌」というお仕事があります。これは保健室の先生だけではなくて、教員全員で分担して行う、学校の運営に必要な仕事です。学校ごとに異なりますが、部署のように分かれ、よく聞く「生活指導」の先生はそういった校務分掌のお仕事です。

私は避難訓練などの行事の準備と手伝いもしていますね。警察の方との事前調整とか。子どもたちが帰った後はそういった事務作業をしています。

ー子どもが怪我したり具合が悪くなったときに、保護者の方に連絡を取るのも保健室の先生ですか?

そこは担任の先生と分担しています。細かい症状や、状態は私から伝えることが多いですね。

以前は看護師をしていたこともあるので、その経験を活かして、児童が病院で受診することになった場合、医療機関での伝え方についても工夫して保護者の方に報告します。

ー「看護師」というワードが出ましたが、保健室の先生になるにはどのような資格が必要なんでしょうか?

資格は「養護教諭」です。看護学部をはじめ、いわゆる”先生”になるので教育系の学部でも取得可能です。公立の学校だと、保健室に勤務するには「養護教諭」の資格は必須です。私立の場合、学校によっては「看護師」資格のみで、養護教諭の資格は必要ないこともあります。

勤め先は私立なんですが、私は看護師・保健師・養護教諭という3つの資格を持っています。

ー「養護教諭」の資格取得のために教育実習にも行くんですか?

教育実習には行かなくても、「学校保健」の授業とカリキュラムなどを取って学べば、資格を取得可能です。

私は「保健師」の市区町村実習を取っていたので、教育実習を選択できなかったんです。実習をせずに現場に出るのは不安だったので、アルバイトとして公立小学校の補助員を務めました。

ー学校には身体測定と健康診断がありますよね。察するに大変な業務なんじゃないかと思っているのですが…

養護教諭の一大イベントです!w
準備段階でやることが意外と多いんですよ。事前問診をして、業者や学校医との調整、会場準備に教員との打ち合わせもあります。

あとは当日のスケジュールの組み立てですね。何時から何時までが何年生で、この時間はこの検診、そんなパズルをします。検査項目もたくさんありますよ。身体計測・内科・耳鼻科・眼科・歯科、尿検査、視力検査、あと学年によっては心電図や聴力検査などなど。

検査が終わったら、今度はその結果のデータ入力と管理があるので引き続き大忙しです。そしてこの業務には、実はタイムリミットがあります。「学校保健安全法施行規則」に従って、新学期が始まって6月30日までに診断結果を報告しなければなりません。当たり前と言えばそうですが、学校は基本的に法律で動いています。

これら全部をだいたい1人でやるんです。”私の学校が”ではなくて、ほとんどの学校において、保健室の先生が1人でこなしていると思います。

ー想像以上に大変そうですね…

でもこういった経験のお陰もあって、スケジュール調整とか自分の業務管理という部分では、かなりスキルアップしたんじゃないかと思っています。

というのも、私の前職「看護師」のお仕事は、基本的にデイリーだからなんです。勤務に入ってまずは情報を確認する。受け持ちは基本、毎日変わります。何時に点滴、何時に検査、明日は手術だからその準備、とその日中に絶対終わらせないといけないことがほとんどです。

なので、月間や年間でスケジュールを立てて、それを管理するというスキルは養護教諭になってから習得しました。デスクワークは、ある程度自分でコントロールできますし、今日は定時退勤してリフレッシュしよ!なんてできるのも嬉しいです。

ー保健室はお悩み相談もできるイメージがありますが、最近の子どもたちはどんなことに悩んでいるんでしょうか?

今の小学生の子たちは忙しそうです。塾や習い事をたくさんしていて、自由に遊びを選択できる余白があるのかなと、心配になることもあります。

「病院行った方がいいよー!」って言うと、「今日は塾だからいけないよ〜。」なんて返されることも。遊ぶ時間がないという悩みもチラホラあります。子どもには余白の時間が大切です。

ー悩み方が大人とあまり変わらないですね…

自由な時間の中で、自分の”好き”を発見したり、深めたり。子どもの仕事は、遊ぶことです!

ー暗くなるまでただただ遊んでいたいですよね。

インターネットが普及していなかった時代は、教科書とノートを学校に置いて帰ったら、お家で勉強はできないですよね。今では、ICT化がコロナをきっかけに加速したことで、オンラインで塾の授業に参加したり問題を解いたりしているみたいです。

パソコンやスマホを駆使して、色んなスキルをどんどん身に付けないといけない時代になり、文部科学省のGIGAスクール構想によって児童1人1人にPCやタブレットが配布されています。子どもたちに求められることが凄く多い時代なんですよね。同時に教員も、使い方など情報のアップデートが常に求められます。

PCやタブレットが配布される一方で、推奨されるスクリーンタイム(画面を見る時間)があります。好奇心旺盛な子どもが、自分で我慢するのは難しいですよね。大人がしっかりと使い方を教え、管理することが大切です。

SNSについても同様です。「犯罪に巻き込まれるリスクがあるから」と、むやみに制限するのではなく、「こんなケースは危ないから、こうやって安全に使おうね」って、学校や家庭で使い方を練習できるのが理想的だと思います。

ー今はもうパソコンにがっつり触れるカリキュラムなんですね。

インターネットやSNSが当たり前の時代の子どもたちは本当に凄い。アンケートを取って、そのデータを基にグラフを作ってパワーポイントでプレゼンをしていますから。自分でプログラミングしてゲームを作っている子もいます。

得意なスキルを伸ばせられる子がいる一方で、そういうICT化が苦手な子もいるのも事実です。それぞれの個性と得意がぐんぐん活かされて、伸ばせる学校・社会であってほしいと願います。

ー修学旅行とかにも一緒に行かれるんですよね。

はい。私が同行する場合、保健室には臨時の看護師さんに来てもらうという体制を取っています。

宿泊行事の準備では、事前に健康調査票を配布したり、保健資材などの物品をパッキングして宿泊先に送ったり。普段からお薬を服用してる子や持病がある子、その内容についてをスプレッドシートなどにまとめて把握しておいて、一緒に行く先生たちにも共有します。

環境変化は、実は結構な負荷がかかることなので、念入りな準備が必要です。意外と宿泊に行く前が肝心だったりするんですよね。

ー「旅行」と言いつつ、それを楽しむ余裕はなさそうですね…

体調を崩した子と保健室にいたり、アクティビティに参加していないことは多いです。体調不良の子はひとりみんなと離れ、とっても残念な気持ちだと思うんですね。少しでも特別な時間になったらいいなと、一緒にできることを探したりしています。

旅行中は、子どもたちと寝食など生活を共にして、普段学校で見ている姿とは違う一面をみられるので凄く楽しいです。

思ったより寂しがり屋なんだな、普段は大人しいけどリーダーシップ発揮してるな、とか。余暇の時間を一緒に過ごせるので、仲が深まることが多いです。コミュニケーションをとる機会も増えるので、宿泊に行くとその学年と仲良くなれますし、私は凄く好きですね。

ーなんかちょっと安心しました。少しの気持ちの余裕もないまま旅行しているのかと思いました。

もちろん、緊急対応が必要な時もあります。

でも、忙しめな急性期の病院で働いていたこともあって、緊急対応の際も結構冷静ですね。アドレナリンが出ているかも?看護師時代の経験が生きていると思います。

ー緊急対応もされていたような看護師時代から今の養護教諭になって、働き方のどんな部分が変わりましたか?

夜勤が無くなり休みが増えたので、シンプルに生活リズムは凄く良くなりました。あと、看護師には自分の手が数ミリ動いただけで、下手するとその人のその後の人生を左右してしまうかもしれないという場面もあります。もちろん今も命に関わる仕事なんですが、緊張感の種類が違います。

目の前の命を救う仕事から、子どもたちの生活や命を守り、健康に生きていくための教育に携わってるので、常に長い未来を想像している感覚です。

「成長発達」に重点を置く、教育現場。
「目の前の命」が最優先の、医療現場。

どちらの仕事も経験できた私だからこそ、どちらか一方にだけ偏るということはせず、養護教諭をやっていきたいなと思って働いています。

ーありがとうございました。

ー引き続き「保健室の先生」業界のお話や、飯泉さんのお仕事スタイルについて深掘りしていければと思います。

(写真:若槇由紀)

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