象を避け、馬に乗り、車いすを押して、ヒッチハイクする『世界の果ての通学路』
学校生活そのものと同じくらい、登下校の時間にも思い出があるんです。友だちの家の庭に入ったり、駄菓子を買い食いしたり、冬には大きいつららを振り回してライトセーバーに見立てたりと、私には毎日が大冒険でした。
さて今回、ご紹介したいのはそんな登下校の時に通る「通学路」についての映画です。そんじょそこらの通学路ではありません。『世界の果ての通学路』です。
私と比べ物にならないほどの大冒険を日々、通学路でしている世界の4人の子どもにフォーカスしたドキュメンタリー映画になっています。
象の群れを避けるケニアの兄妹
ケニアのジャクソン(11歳)は、国旗を揚げる当番なので朝5時半に妹を連れて家を出ます。学校までの距離は15km。
朝ごはんを食べている時も「象の群れを避けていく行き方は?」と、父親と危険を回避するルートのおさらいをしています。「学校まで無事につきますように」とお祈りをしていざ出発。身体の小さい妹は、少し大変そうにお兄ちゃんについて行きます。
小高い丘に登って、そこから象の群れがどこにいるのかをよーく観察し、その日はどのルートを通って学校に行くのかを決めるのです。
ヒッチハイクするモロッコの女の子3人組
モロッコのザヒラ(12歳)は、勉強熱心な女の子。この映画で出てくる子供たちの中では学校までの距離が22kmと一番遠く、登校は毎日ではなく毎週月曜日。
同じ家に住むおばあちゃんに「出発はいつ?」と聞かれ「明日よ、神が許せばね」と答える会話からも、学校というものの存在と意味合いが日本とは大きく異なることが分かります。
途中で同じ学校に通う友達と合流して3人で向かいますが、友だちの1人が足首を痛めて、歩くスピードが遅れ始めてしまいます。このままでは遅刻してしまうと、近くの町でヒッチハイクしようと試みることに。
馬で登校するアルゼンチンの兄妹
パタゴニアに住む11歳のカルロスは、まだ小さい妹を後ろに乗せて18kmの通学路を馬で通っています。崩れやすい砂の傾斜地も器用に降りるなど、当然ながら馬に乗るのは非常に上手です。
途中で妹が「前に座らせて」とおねだりし、「ダメだ、ママが怒る」と断るという兄妹のやり取りは、日本にもあるような光景でなんだか微笑ましい。落ち着いてるからつい忘れかけてしまいますが、彼らはまだ小学生なのです。
学校へは徒歩で通っている子と、馬で通っている子とがいるようで、校舎には、駐輪場のようなイメージで馬をつないでおく場所があり、そういったインフラの違いも垣間見えるのが面白いポイントになっています。
車いすを押して進む三兄弟
最後に登場するのが、インドに住む13歳のサミュエル。彼は足が不自由で、1人では歩けない。なので4kmの通学路は、車いすに乗せたサミュエルを2人の弟が押して通っています。
距離だけでみるとほかの子どもたちよりは短いですが、舗装されていない道を車いすで進むので、なかなかハードな道のりです。
途中、ショートカットのために川に入って失敗したり、大型のトラックが道をふさいでいる場面に遭遇したり、海辺に住んでいる影響かサビサビになってしまっている車いすが壊れたりと、とにかくハプニングだらけの通学路となっています。
この4組の子どもたちの視点が、順番に切り替わりながら映画は進んでいきます。ここで紹介した以上に、彼らの通学路では色んな事が起こり、「続きはどうなるんだ?」と思いながら、また別の子の視点へと変わっていく。続きがどんどん観たくなる、ストーリー映画の群像劇のような面白い構成です。
更によかったのは、この映画は登校だけで終わらず、苦労して登校した彼らが学校で勉強する姿も見られるということです。生き生きとした姿勢から「学ぶこと」の素晴らしさを再認識させてくれます。
ただし忘れてはいけないのが、この映画では描かれない下校のこと。学校が終わった後に来た道を帰り、そしてまた登校してくるのです。彼らにとっては当たり前のことかもしれませんが、頭が下がります。
ケニア、モロッコ、アルゼンチン、インドの素晴らしい自然の風景が楽しめるのもこの映画の魅力ですが、自然ドキュメンタリーと違って、その「絶景」は主役ではありません。
そこに住む子供たちの、時に危険を冒しながら登校する姿が心に残る、そんなドキュメンタリー映画になっています。
頭ではわかっていても、日本に住んでいるとなかなか腹の底で感じることが難しい「学校に通えるのは当たり前のことではない」という感覚。それを思い出すにはもってこいな映画でした。
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