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激情[前編]

中学時代から音楽に夢中になり、中年になった現在でも、変わらず虜になっている。これだけ長く聴いていると、疎遠になったバンドやジャンルも存在するが、原体験となるような凄まじい衝撃を受けた音楽は、何年経過しても色褪せない。
中学時代でいえば「GUNS N' ROSES」。高校時代は「Sonic Youth」と「MAD3」。専門学校時代はサイケデリック、ガレージパンクのコンピレーションアルバム『Nuggets』。社会人になってからは「Anderson .Paak」だ。

音楽に触れはじめたばかりの中学時代は、チャートにランクインする楽曲が全てだと思っていたが、洋楽を聴くようになり音楽観が砕かれた。レンタルショップで偶然手に取ったGUNS N' ROSESの『Appetite for Destruction』に心臓を鷲掴みにされ、ハンマーでどつかれたように脳天が激しく揺さぶられた。それまで聴いていた音楽がチープなものにしか感じなくなり、ショックを受けた。アクセル・ローズのシャウトやスラッシュのギターのリフに興奮したが、それだけではない。なにもかもが突き抜けていて、しびれっぱなしであった。
音楽だけではなく、ロックといえば“革ジャン”と“ダメージジーンズ(当時はただの汚いジーンズという認識)”というアイコン的なファッションにも憧れるようになる。汚いジーンズは持っていたので、革ジャンさえあればロッカーになれると浮かれていたのだが、地元の田舎町にそんなハイカラなものはない。中学生の自分にできることといえば、すでにあるものでアレンジをするほかなく、革ジャンに対抗し、なぜかネルシャツを2枚重ね、安全ピンを控えめにひとつだけ刺した。本当はもっと豪快にピンをぶっ刺したかったのだが、親とヤンキーの目が怖くて断念した。
ネルシャツの柄と柄が衝突し、殺し合うだけで明らかに変であったが、謎の強迫観念が2枚重ねを貫いたのだ。“常識破り(=ロック)の2枚重ね”という安易な発想だと思うが、僕のファッションはちぐはぐになるばかりで、悲惨さを極めていく一方であった。
洋楽に夢中になると同時に音楽誌から情報を収集し、その後もハードロックを聴き倒した。そして時代をさかのぼり、クラシックなロックを中心に名盤を探し求めるようになる。

高校時代になるとブリットポップ、グランジのブームに乗り、新たなジャンルに染まりはじめた。特に英国の音楽には、カルチャー面でも強い影響を受ける。革ジャンや破れたジーンズがファッションの最高峰だと信じていたが、フレッドペリーやアディダスのジャージ、モッズスーツをまとってパフォーマンスをするミュージシャンに魅了された。もちろん中学時代と同様で、それらになりきる財力とセンスはない。その頃に原付の免許を取得したのだが、古着のモッズコートと、ベスパのパチものみたいなバイクを買うので精一杯だった。あとは『My Generation』を爆音で聴きながら、ピート・タウンゼントのようにぐるぐると腕を回すことしかできない。
古着のモッズコートはサイズの選択肢がなく、極端にぶかぶかだったし、カリカリな体型だったのでやたらと違和感が目立った。着ぐるみのようなゆるさと、くたびれたパチもののバイクが、モッズとは程遠い雰囲気をにじませていた。
アクセル・ローズにもなれないし、ポール・ウェラーにもなれない。もはや、誰に憧れているのかさえも分からない、カオスな風貌になり果てていた。

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