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「もう薔薇を盗むしかない」

装苑の2021年1月号に掲載された、くどうれいんさんの文筆が心に残った。

テーマは「あなたにとってロマンティックはなんですか?」。
ここで著者は、「薔薇泥棒事件」について書いていた。

その事件は昨年の6月岩手県で起きたもので、満開の薔薇園に咲いた花が4割ほど刈り取られ、何者かに持ち去られた。

これに対してくどうれいんさんは、こう書いていた。(一部抜粋)

岡崎京子は「自分の人生に納得いかないぶんだけロマンチックになる」というようなことを言っていた。このニュースは薔薇だからロマンチックなのではない。犯人が「もう薔薇を盗むしかない」と思うに至るまでの人生やその蛮勇がロマンチックなのだ。人生を棒に振るような思い切りの良さこそが本当のロマンチックであると思う。

薔薇が好きでたまらなかったのか、憎くていても立ってもいられなくなったのか。はたまた誰かにプレゼントしたかったのか、命を狙われ命令されてやったのか・・・

刈り取ったのが4割なのは、それで十分だったのか、途中で罪悪感に駆られたのか、ただ持ちきれなくなったのか・・・

本当のことはきっと誰にもわからない。
だけどその「薔薇泥棒」が抗えない何かによって動かされたことはわかる。

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「もう薔薇を盗むしかない」
この短い1文から、私は強烈な衝動に突き動かされた人間の心情を想像した。そしてとても胸が高鳴り、不謹慎だがうらやましいとさえ思った。

私の性格は、わかりやすく控えめだ。
初対面はもちろん、ある程度知り合った仲でさえも無意識に当たり障りの無いことを言ってしまう。人に頼み事ができない。
肝心なことを口でうまく表現できなくて、自分をさらけ出せない。

だから周囲の人間のことや後先を気にせず、身体の中からこみ上げる強い想いに身を任せる姿が自分にとってはひどく刺激的だ。

私だって好きなことや知りたいことに対しては凄く貪欲で、正直だと思っている。見たいものや行ってみたいところがあれば遠くても行くし、大好きなものにはとことんお金をつぎ込む。

だけどそれらは大抵自己完結に近くて、人を巻き込むまでの行動を起こしたことは多分ない。そんな勇気がないからだ。

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くどうれいんさんが言う、
「人生を棒に振る思い切りの良さ」は確かに「ロマンチック」だ。

それは多分人間臭さを思わせ、生きた人間を感じさせるから。
どう考えてもマズいけど、やらずにはいられない。
そんな人の姿はとてつもなく魅惑的に写る。





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