275 3歳児神話
はじめに
最近、教育に関する相談の内容に0歳児保育についての相談があります。内容は、0歳児保育は子どもに悪影響はありますかという相談が大半です。
答えは簡単で、0歳から預けて大丈夫ですと答えればいいのでとても答えやすい内容です。しかし、世間では、間違った風潮が一部に広がっています。
それが3歳児神話というものです。今日の教育コラムは、3歳児神話について少しお話ししながら、0歳から3歳までの保育所の利用についてお話してみたいと思います。
根拠のない神話
日本で広まった3歳児神話とよばれる話は、科学的には根拠のない神話です。この神話を広めたのは、イギリス出身の精神科医ジョン・ボウルビィです。第二次世界大戦後、戦争孤児や家族から離れた経験のある子どもの多くに、精神発達に遅れが見られたことを根拠にして、3歳までは、親が子育てをしないと愛着不足になり望ましい発達が望めないという考えが正しいようになったのです。
ボウルビィは、1951年の報告書で次のように述べています。この報告書は、WHOからの委託を受けて作成したものです。この中で孤児院などで乳児の心身の発達の遅れが多い要因は、母性的な養育が欠けていることであると述べています。当時の社会情勢は、今と違い世界各国で父親が働き、母親が家事育児を担うというスタイルが多く見られました。
特に日本ではその傾向が顕著でした。ですから、母親が3歳までは子どものそばにいなければいけないといった風潮を高めていきました。これは根拠のない話なのですが、あたかも正しいように理解され現在も子育てを女性にその大半を押し付ける日本の空気を作っている一つの要因になっています。
0歳児保育わるくないですよ
日本でも10年以上にわたる追跡調査もありますし、アメリカでも1万人以上に及ぶ3歳までの家庭での育児と保育所を使った育児には子どもの発達にそれによる悪影響があるかないかという因果関係はないことが確認されています。科学的な見地からも0歳児保育を利用することは全く問題ないのです。
よく私見として、0歳から保育園を領している人に対して、あんなに小さいのにかわいそうだというような言葉を発している人がいますが、むしろ各家庭の状況で無理をしてその精神的なしわ寄せが子どもに向いてしまうような状況であれば、保育園や保育所を上手に利用して、それぞれのライフスタイルに応じて子どもと向き合った方がよっぽど良い結果になることの方が多いわけです。
また、保育所の職員の方と子育てについて相談する機会も得やすいですし、子どもからしてもいろいろな人に依存して自分を支えてくれている人の愛情に触れることができるわけですから決して悲しいことばかりではないのです。将来、自立していくためには3歳までの時期に愛され自信を持ち人を信じる心を育むことは大切なのは事実です。ですが、それが母親だけがそばにいるということで育まれることと言うかたちで理解されているとすれば、それは間違っていると言わざるえません。
社会の仕組みとして
女性も男性も子育てに関わることが当たり前の社会が当たり前になる中で、共に働くこともあれば、子育てを優先することもあれば、たまに保育所を領したり、子育ての相談ができる集まりに参加したりと様々な家庭状況に対応できる社会のしくみや空気があることが重要なのだと思います。
日本の少子化問題の一つに女性の社会進出や男女問わず晩婚化などがよくあげられます。しかし、もしかすると3歳児神話に代表されるような、母親が子育てに全てをささげなければいけないというような、強烈なイメージが人生の大きな選択をためらわせているのかもしれません。
子育て支援を促進する仕組みや金銭的な支援など政府が様々な手立てを準備していますが、子育てに対する心のありようや世代間の受け止め方などがもっと多様になっていくことが重要なのではないかと思います。
三つ子の魂百まで
3歳児神話と三つ子の魂百までという言葉には、その使い方に違いがあります。三つ子の魂とは3歳頃までに形成される人格や性格のことを指します。
それが100歳まで根底にあり、変わらずに引き継がれていくという意味を指していることわざだと言えます。ことわざではありますが、実は科学的に証明されているのも事実なのです。乳幼児期に人格形成の基本が出来上がるということはこれは脳科学的にも確かなわけです。
しかし、この事実と3歳児神話を直接結びつけて、3つ子の魂100までだから、小さいうちは親が見なければいけないという考え方は必ずしも正しくないということなのです。子ども人格形成に様々な大人が愛情を注いでもいいわけですし、親が注いでもいいわけです。
つまり、最初の質問に対しては0歳児保育を利用しようと思うことは問題ないという答えにしかならないというわけです。大切なことは、親も無理せずに子育てをしていくことが大切だと思うわけです。