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156 衣替え


はじめに

今日の教育コラムでは、四季があり、季節によって天気や気温が変化する日本では、季節ごとに衣類や持ち物を替えるという習慣があります。特に夏冬の季節の変わり目に衣類を改めることを「衣替え」といいます。
私もYシャツを半袖から長袖に替えて授業をしています。スクールのカーペットも少し暖かいものに替えたりと衣替えをしてみました。学校に通う子どもたちも制服の衣替えが行われ始めたようです。

世界の衣替えはどう?

世界の中でも日本ほど四季がはっきりしている国はないというほどで、季節に応じて気候が変化し、それに応じて衣服も自然と変化します。ですから、衣替えという習慣は、自然環境に由来していると言えます。
歴史的に見れば、日本で衣替えの習慣が始まったのは、平安時代の宮中行事からだと言われています。着物の種類や着こなしが多様化していったのは江戸時代で、涼しさのため暖をとるため様々な用途に合わせた衣類もこの時代に誕生しました。
そんな日本では、季節に合った服装を着こなすのが当たり前ですが、外国では日本ほど季節感をファッションに反映しません。冬でもTシャツ一枚で歩いている人がいてもごく当たり前の風景の一つだと言えます。
季節に左右されることなく、海外の国では自分の体調や好みや場面に合わせて服装を選んで着こなすのが一般的です。
海外から日本を訪れる方とお話しするとこうした季節感を大切にする日本人の感覚を素敵だと思ってくれる方が多いのもこうした違いにあります。気候というものに対して理にかなっている衣服を身に付けることは、大変機能的な物を好む日本人には気質として合っているのかもしれません。

更衣(こうい)とクールビズ&ウォームビズ

今では、衣替えはクールビズとウォームビズと言った方がよいのかもしれませんが、もともと平安時代には更衣(こうい)と呼んでいました。
平安時代の更衣は、旧暦の4月1日と10月1日にそれぞれ冬から夏に、夏から冬に、衣装を替える儀式として存在していました。つまり、暑い寒いの対応以外に儀式的な意味があったということです。
では、どのような意味があったのでしょうか。そこには、医学の発展していない時代ならではの考えがありました。平安時代の頃も今もそうですが、季節の変わり目は、気温の変化に体が追い付かず、体調を崩しやすくなります。これは、今も昔も同じです。
当時、季節の変わり目に風邪などひくと、ひどい人は命を亡くすことも少なくなかったのです。そこで、平安時代の人々はこの季節の変わり目に何か悪いものが存在していると考えたわけです。そこで、衣替えという更衣を行い、神事の一つとして大切にしたのです。次第に貴族の文化から一般の生活をしている者にも浸透していきました。
さらに、鎌倉時代になると衣服の交換だけではなく、身の回りのもの、例えば畳やすだれ、屏風などの身の回りの調度品も衣替えの対象になっていきました。さらに、江戸時代になると、年に4回の衣替えが武家には義務付けられるようになりました。このルールは、幕府によって定められたほどでした。

そして今

現代社会では、サステナブルファッションといった考え方が広がりつつあります。安くて手軽なファストファッションが定着していた平成時代、大量生産大量消費は、製造時のエネルギーや大量廃棄の問題などから、環境負荷が大きいものでした。その環境への負荷を重くとらえた現在、衣類の生産から着用までの環境負荷に考慮した「サステナブルファッション」の取り組みが広がりつつあります。これは、良いものをできるだけ長く切るという考えで、日本の伝統的な衣替えで、衣類をきれいにして収納し、また次の季節に出して大切に着るというプロセスにも通ずるものがあります。
また、収納と言えば、シェアリングエコノミーサービスという考え方も注目されています。衣類そのものや収納するスペース自体を個人で所有せず、貸し借りしたり共有したりするサービスです。季節に合わせて好きな衣類を借りたり、入れ替えたりできるファッションサブスクなどで、これも新しい衣替えのスタイルかもしれません。
季節ごとの衣類をもつということはたくさんの衣類と収納スペースを必要としますので、このような取り組みに注目する人が多くなっているのかもしれません。
日本の風物詩である衣替えは、儀礼的な意味合いを持ちながら、その時代の世相や気候を反映させながら1300年以上も続く伝統行事になったのだと考えると、なんだか大切な習慣のように思えてきます。

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