見出し画像

392 定額働かせ放題です

はじめに

文部科学省が、NHKの報道を批判する声明を発した件に関して、報道の自由を阻害する大変に問題な行動であると考えます。また、多くの教職員が定額働かせ放題の状況であるという事実を把握していないことも明らかになりました。
今日の教育コラムでは、文部科学省のこうした行動について少しお話してみたいと思います。

過去最多

ここ数年、1年未満で学校を辞める決断に至ってしまう新任教諭の人数は、年々増え続けています。その内、精神疾患を理由に辞めた人数についても過去最多になってしまいました。
この原因は、休めない、長時間労働、などなど労働時間や環境、業務内容からくる多忙感にあります。
文部科学省はなぜ、「定額働かせ放題」という報道番組での発言に対してここまで遺憾の意を表し、メディアを叱責するのでしょうか。それは、真実を語られては困るからなのかもしれません。
公立学校教員に残業代を全く出さないのはなぜなのでしょうか。指揮命令下にない業務であるため、残業かどうかが判断しにくいという論理を用います。基本的には、時間外労働を命じることが無いように校長などに向けて指示が出ているのですが、実際は毎日が残業です。
例えば、勤務開始時刻より前に学校に来て、放課後も会議の後に翌日の授業の準備をして帰るといった生活を送っていれば、黙っていても残業になるわけです。労働した時間に対して対価を得るという当たり前のことは、警察官にも消防官にもそして公務員の多くに当てはまります。

どうしても残業代を出したくない文部科学省

今回、文部科学省は残業代の代わりに「教職調整額」を4%から10%に一律に上乗せして支給することを定めた給特法を2025年の通常国会に改正案として提出する方針です。
義務教育段階の教職員の給与は国が3分の1、自治体が地方交付税などを活用して残り3分の2を負担しています。調整額を10%とした場合の負担は、全体で約2100億円となり、財源の確保が課題とされています。もしこれが実際の労働している時間、つまり残業代として支給されたら財源はさらにかかるわけです。そこで一律のベースアップを代わりに進めたいというわけです。
しかし、問題の本質をお金をあげれば解決すると考えている点に問題があるのです。
残業代にすることで、学校の管理職の意識が変わります。限られた予算の中で運営していくわけですから、教育の質と予算の関係性を見直す意識も生じるでしょうし、時間の中で最大限のパフォーマンスを求められるような意識も生まれるでしょう。
なにより、学校を所管している機関の意識が変わります。教育委員会なども本気で労働時間を減らそうとするでしょう。
文科相の諮問機関、中央教育審議会の特別部会は、こうした日本の教育が今崩壊の危機にある状況に気が付いていないのか、それとも気づいていながらも、抜本的な改革をするだけの力が無いのか、いずれにしても現状の案では、期待はずれであることは間違いないのです。

政治的な圧力がゆがめる報道

文部科学省が、NHKを批判しある種の圧力とみられてもおかしくないような言葉を用いている点について最後に見ていくことにします。下の文章の画像は文部科学省がNHKに対して抗議文として示したものです。

文部科学省がNHKに出した抗議文の一部

文部科学省は、この文章の中でも述べていますが、NHKは教員の給与に関する現行の仕組みや経緯、背景について触れていないと指摘しています。
また、定額働かせ放題の枠組みという言葉は、一面的に、教育界で定着しているかのように国民に誤解を与えるような表現だとも指摘しています。
また、教職調整額の仕組みを維持しようとする中央教育審議会の考え方や議論の内容についてもさらに触れるべきであるとしています。こうした報道の在り方に口を出すことがそもそも圧力に当たる可能性があり、報道機関の独立性を危ぶむ可能性があるのです。
報道機関がどのように事実を取材し、報道するかという行為に対して国家権力が口を出し、ましてや十分な取材や多くの国民が教員の多忙な状況や残業代のない状態を知っているにもかかわらず中央審議会でその実態を解消しようとしないわけです。

先日、国境なき記者団が2024年の報道自由度ランキングを発表しました。調査対象の180カ国・地域のうち日本は何と70位で昨年の68位からランクダウンしました。主要7ヵ国の中では断トツの最下位です。今回のような国家権力が圧力をかけていると疑われてもおかしくないような行為を続けていては、報道の自由という社会を見る目が失われる可能性があります。
今後日本では、記者クラブ制度がメディアの自己検閲や外国人ジャーナリストへの差別につながっているといった問題も含めて、より公平で正確な報道の在り方が求められるように思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?