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「待つ」というコミュニケーションの始め方 ー話せてこそわかり合えるを疑ってみる学習支援ー

発達障害をはじめ「学校生活に特別なニーズがある子どもたち」を対象にした学習教室、スタジオplus+で学習支援員をしている島根です。

子どもたちへの支援を考えていると、子どものことを知るためにどう関係性を構築し、信頼を育んでいこうかと思い悩むことがあります。そうしたとき、支援者である自分自身が「相手を知ること=話すこと」という考えに囚われそうになることに気がつきます。

コミュニケーションをたくさんとることだけが信頼関係の構築方法ではないこと、またそれができるからといって信頼の証とは限らないことを思うと、支援者側の思い込みを捨て、様々な視点で物事を捉えることの重要性を痛感します。

こうした考えに至るのには、ある生徒の存在がありました。
今回は、子どもの成長を支援する過程で、言葉や話すコミュニケーションだけに縛られずに、どのような時間を一緒に過ごすことができるのかを考えたある生徒との日々をご紹介します。

ほとんど言葉を発さないAくんとの出会い

自閉スペクトラム症の傾向と場面緘黙(家などでは話すことができるが、学校などの特定の状況では声を出して話すことができないことが続く状態)を持つAくんとは3年ほど前に出会いました。

Aくんは算数や計算は得意で、国語や漢字に苦手さを感じていました。出会った当初は慣れない環境や講師との信頼関係が出来ていなかったこともあってか、机にマジックで落書きをしたり、わからない問題や間違え直しがあるとプリントを破ったりと、学習に向かうのが難しい日々が続きました。

今までの私は、生徒の好きなことや今日の出来事など、様々な会話を通して生徒自身のことを知り、関係性を築いていくことが多くありました。そのため、直接コミュニケーションをとるのが難しい状況にあるAくんと、どのように関係性を構築すればよいのか、焦る気持ちが募っていました。

しばらく時間が経っても学習のペースが安定せず、学習に取り組めない日も多々ありました。当時は、何とかコミュニケーションを取ろうと、Aくんに色々な質問をしたり、筆談で返事を促したりしましたが、Aくんとの関係性に大きな変化は見られませんでした。

たくさんコミュニケーションが取れる=関係性が築けている、は本当か

Aくんとの接し方で煮詰まっていた私は、改めてどうしたら子どもが「安心できる・信頼できる」と思えるのかという視点に立ち返って今までの支援を振り返りました。

その時、自分が「言葉によるやりとり」や「子どもとたくさんコミュニケーションが取れる」=「関係性が築けている」という考え方に囚われているのではないかと感じました。

子どもに関する情報をたくさん知っていることは関係性構築のためには大事なことです。ただ、子どもたちの個性が様々であるように、関係性の築き方も色々な方法があってよいのではないかと思いました。

会話によるコミュニケーションばかりに頼らず、毎週一緒にただ時間を過ごす。その中で子どもにとって「安心して話せる」と思えるタイミングが整うまで焦らず、待つこと・寄り添うことが今は必要なことなのではないかと考えました。

その後、Aくんが安心できると思えるタイミングまで待つように心がける日々が始まりました。

具体的には、「言葉によるコミュニケーション」や「質問」の機会を増やすよりも、授業の中で自然に起こる出来事に注意を向けました。

また、子どもの好きなこと・興味のあることを引き出すよりも、日々の支援の中で本人の特性を理解したり、その特性を保護者や学校の先生に伝えたり、学習する教室の環境調整を行ったり、出来たこと・頑張ったことに対してポジティブなフィードバックをし、ネガティブな行動に対してはなぜその行動をしたのか筆談で理由を聞くなど、授業の中で起こった出来事一つ一つに向き合い、接するようになりました。

日々成長している子どもたちのタイミングを待つ

Aくんと出会って2年近くが経った頃、気がつくと、毎週落ち着いて学習時間を過ごすことができるようになっていました。

その後も徐々に苦手意識のあった国語のプリントに取り組めるようになり、間違えた問題の直しにも落ち着いて取り組み、一緒に解き直しもするようになりました。ときには、苦手としている単元の復習に自分から進んで取り組む姿も見られます。

長い時間をかけてAくんと向き合い続け、約3年の月日が流れていました。現在は教室の中でもご家族とは口頭でやり取りをする様子も見られるようになりました。 また、お休みの日の出来事や学校行事に関しても筆談や首を振る等の手段を使って講師とのコミュニケーションを楽しむことができています。

子どもたちは、確実に日々成長を重ねています。

子どもたちの様子をよく見て理解しようとするのと同時に、支援者である私たちの方が、無意識のうちに「一般的にはこう」とされ得る考えに囚われていないかを確認する必要もあります。
子どもに変化が見られないからと焦らずに、その子のタイミングが整うまで待つこと、そしてその間を一緒に過ごすことが大切なのではないでしょうか。 

子どもたちの成長を長期的な視点で見守り、日々の小さな変化を様々な視点から捉え、子ども自身やご家庭など子どもを取りまく人たちに気づきを伝えていく。その積み重ねが信頼関係に繋がり、やがてはその子のタイミングが訪れたときに変化として現れるのではないかと感じています。



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