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カルチャー・ガイドが「自ら考える組織」を育てる『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』【無料公開#25】

8月28日発売の『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』。マクドナルド・メルカリ・SHOWROOMで事業と組織の成長を加速させてきた著者が、カルチャーを言語化し共有化するための手法をご紹介いたします。組織運営に悩む経営者、人事担当者、マネージャー、すべてのはたらく人に向けて、「新しい組織論」を無料公開にて連載いたします。

カルチャー・ガイドが「自ら考える組織」を育てる

カルチャー・デッキやカルチャー・ブックなど、企業によってさまざまな呼称はありますが、こういった文書はいわゆる「カルチャー・ガイド」と総称できます。

これはあくまで、社員が業務を遂行するうえで参照するガイドラインのようなもので、ルールや制度でガチガチに固められたものではありません。

同質性が高く、意識せずとも「あうんの呼吸」で進んでいた企業でも、転職者が増え、それまで企業が歩んできた道のりを知らない人が増えてくれば、暗黙知のなかで共有されていたカルチャーは曖昧になってきます。

カルチャー・ガイドはそれを形式知にすることで、共有しやすくしたものです。

「ガイドライン」と「制度・ルール」の違い

カルチャー・ガイドのような「ガイドライン」と、就業規則など「制度」や「ルール」との違いはなんでしょうか。

たとえばわかりやすいところで言うと、副業禁止制度。日本の大企業の多くはこれまで、一律に社員の副業を禁止してきました。

労働法上、主たる雇用主が従業員の総労働時間を管理しなければならないという管理監督責任としての問題もありますが、それ以上に、「会社に雇われているのに、100%の力でコミットしないとは、何事か」「副業に取り組んでいると本業に支障をきたすのではないか」という懸念が影響しているのでしょう。

では、たとえばこれまで外注していたプロダクトやマーケティングのデザインを、よりスピーディに対応するため、インハウス(社内)デザイナーを採用する必要が出てきたとします。

幸い、エージェント経由でスキルセットを持っている人が見つかったものの、その人は「個人の仕事も続けたい」と言っているとすれば、副業を禁止している企業はどうすればいいのでしょうか。

制度やルールに答えを求める企業であれば、「ウチは副業禁止だから、あなたを雇うことはできません」と突っぱね、優れた人材をみすみす手放してしまうかもしれません。

あるいは「なんとかあなたを雇えるように、制度変更を検討したい。でも人事や法務部門に確認して、経営陣にも承認を得ないといけないから、ちょっと時間がほしい」などと社内調整に数カ月かかり、結果その人に「他社からもオファーをいただいたので、内定辞退させてもらえませんか」と、フラれてしまうことになりかねないのです。

一方、明確なシェアドバリューを指針とする企業で、カルチャー・ガイドに「個人の成長は企業の成長につながる」と書いてあれば、「個人の仕事も続けて大いにスキルアップを図って、当社にもその知識を還元してください」と、すぐに現場のマネージャーが意思決定し内定を出すことができるはずです。

制度やルールには考える余地がありません。「これはこう決まっているから」と思考停止し、それを守ることが目的となってしまいます。

いわゆる「手段の目的化」です。

それさえ守っていれば確かに行動は揃いますし、踏み外すことはありません。

ですが、前例ベースの仕事となり、新しい発想を生み出す余地が制限されます。

ましてや昨今のように人口が減少する社会においては、市場自体が縮んでいますから、過去と同じことをしていては売上が下がる一方です。

もう、前例に倣っていては成長できない時代が来ているのです。

さらに言えば、コロナ禍のような想定外の環境変化への対応は確実に遅れてしまいます。

「ガイドライン」には「考える余地」がある

かたやカルチャー・ガイドのような「ガイドライン」は、仕事のクオリティを一定に保ち、スピーディに遂行するためのガイドラインではありますが、「考える余地」があります。

どんなビジョンを実現し、どんなミッションを果たすためにこの仕事をしているのか。

その際に重要なバリューは何なのか。

「自ら考える組織」を育てることにつながるのです。

そのため、物事の優先順位や大切にすべきことが社員一人ひとりにインストールされることになるのです。

結果として、本質的な仕事に集中し、リソースを傾けることができるため、仕事のスピードアップにもつながります。

この激動の時代に必要なのは、社員一人ひとりがリーダーとしてスピーディに判断できる力を身につけること。そしてそれができる環境を整えることなのです。


著者プロフィール

唐澤俊輔(からさわ・しゅんすけ)

Almoha LLC, Co-Founder

大学卒業後、2005年に日本マクドナルド株式会社に入社し、28歳にして史上最年少で部長に抜擢。経営再建中には社長室長やマーケティング部長として、社内の組織変革や、マーケティングによる売上獲得に貢献、全社のV字回復を果たす。
2017年より株式会社メルカリに身を移し、執行役員VP of People & Culture 兼 社長室長。採用・育成・制度設計・労務といった人事全般からカルチャーの浸透といった、人事・組織の責任者を務め、組織の急成長やグローバル化を推進。
2019年には、SHOWROOM株式会社でCOO(最高執行責任者)として、事業成長を牽引すると共に、コーポレート基盤を確立するなど、事業と組織の成長を推進。
2020年より、Almoha LLCを共同創業し、人・組織を支援するサービス・ツールの開発を進めつつ、スタートアップ企業を中心に組織開発やカルチャー醸成の支援に取り組む。
グロービス経営大学院 客員准教授。


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