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「知らない悪」を、変えよう。『スタートアップで働く』「はじめに」公開!

日本のスタートアップ黎明期から市場を見てきたトップヘッドハンターであり成長産業事業を推進するフォースタートアップス株式会社の社長・志水雄一郎による初の著書が、2023年8月に発売となります。
このnoteでは、冒頭の「はじめに」を公開します。


はじめに

「知らない悪」を、変えよう

転職やキャリア形成に関心のある人だけでなく、今はそれらをまったく意識していない人にも、僕がよく伝える言葉がある。

「知らない悪」だ。

目の前の状況を、世界のビジネスパーソンの現実を、未来の見通しを、ただ「知らない」というだけで、あなたの人生の進み方は大きく変わってしまう。
僕は、「知らない」ままで未来の可能性を狭めてしまうことを「悪」と表現している。逆に言うと、知ってしまえば、無視できなくなるともいえる。あなたの頭は、誰に言われるまでもなく、ひとりでに先行きを考え始めてくれるだろう。

僕は、一人でも多くのビジネスパーソンやこれから仕事を始める学生たちに、「知らない悪」を知ってほしくて、「知らない悪」を乗り越えてほしくて、本書を書くことにした。

この本は、世界における主流の成長産業である「スタートアップ」へのキャリアチェンジを促すことを念頭に置いている。

スタートアップという企業体に明確な定義はないが、革新的な技術やビジネスモデルの事業を営み、社会に新しい価値をもたらしながら、短期間で急成長を遂げる意欲を持つ企業群を指す。ネットやテレビのビジネスメディアで、そのフレーズを聞かない日はないと言っていいほど、あらゆるところでスタートアップは取り上げられている。日本政府は2022年をスタートアップ創出元年として位置づけ、今後5年間でスタートアップへの投資額を現在の10倍となる10兆円規模まで拡大することを視野に、2022年末に「スタートアップ育成5か年計画」を策定した。

しかし、情報の受け取り手によって、抱くイメージはまちまちなのが現状だろう。未だにスタートアップを、みずからのキャリア形成においても「ギャンブルだ」「仕事先として不安だ」と思い込んでしまっているケースも少なくない。

僕は今、あえて「思い込んでいる」と書いた。それも「知らない悪」の一つだからだ。理由は後述するが、もはやスタートアップで働くことはギャンブルでも何でもない。むしろ、あなたが個人として持つ可能性を将来にわたって広げ、世界のスタンダードと目線を揃えるためにも、知っておくべきことがたくさんある。

この本を通して、あなた自身がスタートアップで活躍できている像が見え、キャリアの選択肢の一つとしてスタートアップへの転職や起業が検討できるようになれば、本書の役目は果たしたといえるだろう。

今、日本の経済状況に対して、悲観的な声が絶えない。しかし、まだ取り返せると僕は信じている。正しく言うと「今すぐにでも始めれば」という条件がつく。ビジネスパーソンが志向するキャリア、仕事と働き方の関係、従来型の教育で刷り込まれた思考の脱却など、様々な観点はあるが、まだまだ間に合う。

それは「知らない悪」を乗り越えた、あなたの人生そのものにも当てはまる。スタートアップという世界を知ったうえで、今歩んでいる自分の人生やキャリアを再度肯定することができれば、明日からの仕事の意義は、まったく違ったものになるだろう。

ずっと失敗続きだった僕は、スタートアップで変われた

僕も、あるタイミングで「知らない悪」に気づき、生き方を大きく変えたことが今につながっている一人にほかならない。
僕の名前は志水雄一郎。2016年9月に株式会社ネットジンザイバンク(現在のフォースタートアップス株式会社)を設立し、代表取締役社長として経営に務めてきた。2020年3月には東京証券取引所マザーズへの上場も経験した(現在は東証グロース市場)。

こう書くと立派に見えるかもしれないが、僕の人生は失敗の連続だった。高校3年生のときは夏季模試の偏差値が37しかなかった中、奇跡的に現役で大学に受かったところまではよかったのだが、結局、就職浪人した末に5年通った。
働く場所として拾ってもらえたのは株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)。ただ、営業職の成績は振るわず、実力もなく、給与も上がらず、借金までして「人生が詰んだ」とさえ思った。
そこでようやく尻に火がついた。「自分が凡人であれば、他人より倍の努力をすれば人並みくらいにはなれるかもしれない。そのうち確率が上がって、いずれトップを獲れるはずだ」と励むと、20代後半からトップセールスの一人として結果を残すことができた。

この後にもいくつも失敗してきた。マネジメントの難しさやチームとの不和から心を病み、精神科へ通っていた時期もある。しかし、心に死の不安を抱えながらも、そこから抜け出すために事業計画書を作って取り組んだのが、現在も続いている転職サイト「DODA」(現doda)の立ち上げだった。
新規事業が軌道に乗り、リベンジを果たしたと思っていたが、40歳という区切りの年に大きな転機を迎えることになる。管掌していた事業で起きてしまった問題の責任を取る形で、それまでの仕事から大きく変わって、いわゆる「窓際族」のような立場に置かれてしまったのだ。

あらためて自分のキャリアについて考えた際、ある「日本の将来」を予見する調査データを見て、頭を殴られたような思いがした。
昭和の時代に生まれ、学びが足りなかったのかもしれない。僕は、ずっと「日本は豊かな国で、日本人はプライドを持てる集団だ」と信じて生きてきたが、その調査結果では「日本は衰退する、実は日本人はそれほど豊かではない」とデータが訴えかけていた。

なぜ、高等教育を受けながらもこの事実を今日まで知らなかったのか。
なぜ、それなりに大学で学び、それなりに仕事をしてきたはずなのに、「日本は豊かである」という考えに、疑問を抱けなかったのか。
なぜ、これほどの課題がありながら、僕は解決に努めていなかったのか……。

自分が生を受けた意味さえ問われるような現実を前に、今まで向き合ってこなかったことを恥じ、僕は40歳から「社会課題や未来課題の解決に努める人生にしよう」と覚悟した。
「自分の存在は社会のものであり、自分の時間も社会のものである。だからこそ、みずからがこれからの未来を変えていく存在にならなくてはならない」と生き方のルールを定めた。

成長産業領域に特化したヘッドハンター(私たちはヒューマンキャピタリストと呼んでいる)として努力し、それなりに成果を出した後に、仲間たちとともにフォースタートアップスを創業した。フォースタートアップスは「世界で勝負できる産業、企業、サービス、人を創出し、日本の成⻑を支えていく」という考え方のもとに、ビジョン「for Startups」を掲げている。主たる事業には、成長産業領域におけるヒトの支援(人材支援)とカネの支援(資
金支援)を軸としたハイブリッドキャピタルと、産官学民が連携したオープンイノベーションを通じたスタートアップエコシステムの構築を推進している。

高回転で課題を解決しながら、上場会社と成り得る仕組みをつくり上げることに苦心しつつも、想定より時間がかかってしまったが、創業から3年半、国内企業としては異例のスピード上場も果たした。

インプットなくして、アウトプットはできない

ここまでの僕の経験からいえることは、大きく二つある。
一つは、どれほど失敗の連続を経てきた人間であっても、日本国内で上場企業の社長になれるチャンスがあるということ。
もう一つは、「知らない悪」と向き合い、みずからの「視座・視野・視点」のコントロールを行えれば、人生や未来は変えられるということだ。

「視座・視野・視点」のコントロールを行うために重要なことが、さらに二つある。
まずは、インプットを習慣づけること。
僕自身は40歳までインプットを疎かにしてきたせいで、自分がやるべきことを見つけられず、情熱を持てるものもなかった。しかし、インプットにより明確な社会課題に気づけたことが、すべての道のりのスタートになっている。
そして、「インプットなくしてアウトプットはできない」と心得ること。天才であればインプット量が小さく、無の状態からでも何かを生み出せるかもしれないが、一般的にはインプットのレベルによってアウトプットの質が決まる。僕のような凡人は、人一倍インプットして、初めて良いアウトプットができるものだと思っている。

また、インプットした事柄によって、社会や世界に「自分のものさし」をつくり、現在地をプロットすることも大切だ。その結果、みずからがちっぽけな人間だと思えたなら、それはむしろ世界の広さを知ったことになる。
広い世界でやれることはまだたくさんあり、人生はますます楽しめるのだと感じられれば、アウトプットするためのモチベーションも高まる。これも「視座・視野・視点」のコントロールの一つといえる。

人間が選択できる最も美しい行動は挑戦だ

そもそも現在の社会環境において、人生はどのように形成されるのかについて、僕たちはもっと逆算思考で向き合わなければならないと考えている。

たとえば、誰しもが避けられないお金の観点で見てみよう。
日本は世界で最も平均寿命が長い国だといわれ、健康であれば90歳や100歳まで生きることもある。それまで生きるとしたときに、「自分がどういった人生を歩みたいのか、どのような生活水準を担保したいのか」を逆算すると、どれだけのお金が必要なのかもわかってくる。
さらに、必要なお金を、生きるであろう年数分で割れば、どれくらいを年収として稼ぐのか、株式などのキャピタルゲインを狙うのか、資産運用で補填するのか、また、遺産相続で確定しているのか……といった逆算もできてくる。
この逆算が成立しないような生き方を選んでしまうと、望むような老後には届かず、大きな苦労をする確率が高まってしまうだろう。収入が止まったとき、もしくはみずからが満足いくレベルで働けなくなったときに、生きていく残りの年数に対する課題が出てくるわけである。

スタートアップで働くことは、こういったやりがいと経済合理性を両立できるキャリアとして、現時点では成功に最も近づけるチャンスがあると、僕は思う。

そこで、最も自由かつ前提とすべきチャレンジは「起業」だと僕は考える。
起業家はみずから旗を立て、みずからの言霊でミッション、ビジョン、バリューを語り、集った仲間とともにプロジェクトを推進する。雇用を創出し、社会や未来の課題を解決するためのプロダクトやソリューションを提供し、売り上げを出し、利益を上げる。その一部を税金として納めて、社会の発展に貢献する。さらに、成長の過程で株式上場などを果たせば、大きな資産を形成でき、税金を納められるだけでなく、その資産をもって寄付などを通じた慈善活動や、次なる起業家のサポート、人類が守るべきものを維持するための投資をすることもできる。まさにやりがいと経済合理性の両立だ。それらを最大値に持っていこうとするならば、起業家が最も輝かしい選択肢だと思う。

ところが日本では、家庭教育でも学校教育でも、起業という選択肢がキャリアの筆頭であることは教わらない。だから、誰もかつてのトヨタやソニーのような時代を代表する会社をみずから立ち上げようなどとは言い出さないし、そこを目指すこともしない。

スタートアップ先進国の一つであるアメリカでは、起業あるいはスタートアップでの挑戦は、日本と比べればずっとスタンダードな選択肢として受け入れられている。アメリカでスタートアップに踏み出す人が多い一番の理由は、「社会を変えられるから」といった目線の高い話もあるが、むしろ逆で「周囲にやっている友達が多いから」という目線の低さがあるようだ。スタートアップというキャリアが、社会の中でどれだけ一般的な選択肢であり、トレンドになっていることが大事なのかが伝わってくる。いずれ日本でも同様の認識を広めていきたいし、あなたもその一人として、加わってもらえたら嬉しい。
もちろん、誰もがリーダーとなれるわけではないだろう。そういった人にも、リーダーのもとに集まって、日本のビジネス史を揺るがすほどのビッグゲームをともにつくっていくことができる道が開かれているのだ。

人間が選択できる最も美しい行動は挑戦だ。

スタートアップは、最も自由かつ最大限に挑戦できる領域の一つである。
経営に携われたり、自分の意志を事業に込めたりと、ビジネスにおいても様々な経験が可能になる。大企業では、そういった経験は、能力が高く、昇格レースで上位に立たなければ成し遂げられない。スタートアップであれば、年功序列ではないから経営に挑戦できる機会をみずから生み出せる。仮に失敗しても挑戦者は称賛され、リベンジも十分にできる。さらに日本は少子高齢化で労働人口が減っていく国であるからこそ、働く場所が見つからないということはまずないだろう。

誰かが未来を変えてくれるのを待つのではなく、未来は自分で変えていける。「知らない悪」を知り、「知らない悪」を乗り越え、「自分にも何かが成し遂げられる」と一人でも多く挑戦していく。そうすれば、きっと人生も、社会も変わっていくと僕は信じている。
「何のために生きているのか」「私たちにはどれだけ素晴らしい可能性があるのか」「100年間生きたらどれほど素晴らしいことを世の中に残していけるのか」を考えていってほしい。

本書は、その挑戦を志すあなたへ手渡すためにつくった。

書籍情報

経営は大丈夫? 報酬は上がる?下がる? 自分に合うか心配…
不安が「だから挑戦したい!」に変わる
失敗しないスタートアップ転職ガイド

目次

第1章 なぜ、今、スタートアップなのか
第2章 スタートアップへ転職する「前」に知っておくべきこと
第3章 どのスタートアップに転職すべきか
第4章 スタートアップ転職の成功事例

著者について

志水雄一郎(しみず ゆういちろう)
フォースタートアップス株式会社 代表取締役社長
慶應義塾大学環境情報学部卒業、株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)にて転職サイト「DODA」(現doda)立ち上げなどを経て、2016年に株式会社ネットジンザイバンク(現フォースタートアップス株式会社)を創業、代表取締役社長に就任。2014-15年「Japan Headhunter Awards」にて「Headhunter of The Year」2年連続受賞、2016年に国内初「殿堂」入りHeadhunter認定。2019年より一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会ベンチャーエコシステム委員会VCナレッジ部会委員、2020年より一般社団法人日本経済連合会スタートアップ委員会企画部会/スタートアップ政策タスクフォース委員に就任。2021年に公益社団法人経済同友会、2022年に一般社団法人関西経済同友会に入会。

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