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【「はじめに」公開】望月安迪 著『目的ドリブンの思考法』

望む成果を得たいなら、まず「目的」から始めよ
本書は、デロイトトーマツで上位数パーセントの人材に限られる最高評価を4年連続で獲得した気鋭の戦略コンサルタントによる、望む成果を得るためのあらゆる業界・職種に通底する思考の「型」をまとめた一冊。
このnoteでは、本書の冒頭「はじめに」を公開します。


はじめに

”何のために”をめぐる物語

 いま、あなたは仕事で〝何を〞しているだろうか?

「新商品の企画をしています」
「来月の顧客訪問リストをつくっています」
「来期の生産計画を見積もっています」
「新システムの業務フローを設計しています」
「新しい人事評価制度を策定しています」
「来年度の新卒採用計画を作成しています」……

 いま、仕事で〝何を〞しているのか――多くの人はおそらくそれほど悩まずに答えられるだろう。

 僕自身、大学院を修了して、現在も勤めるコンサルティングファームで働き始めたとき、自分が”何をやっているか”くらい分かっているつもりだった。クライアントから課題を相談され、その解消に向けたプロジェクトを組成し、計画されたタスクに日々取り組んでいく。それがコンサルタントの仕事じゃないか――。そのはずなのに、なぜか思うような成果が出せない。

 たとえば、会議の議事録の作成。会議の現場に出席し、発言のメモを一生懸命にとり、会議後に録音を聴き返してもいる。議事録として精度高くまとまっているはずだ。そう考えて、できあがった議事録を同じチームの先輩コンサルタントに意気揚々と見せてみる。
 だが、返ってくるフィードバックは期待に反して手厳しいものだった。

「この会議の決定事項は、どこを見たら分かるの?」
「この議事録じゃ、次のアクションとして何をすればいいか、ぱっと見で分からないな」
「内容がバラバラで、これじゃ会議に出席していない人が読んでも理解できないよ」

 あるいは、市場調査の仕事でもそうだ。ニュース記事を集め、業界レポートを読み解き、有識者インタビューから生の情報も入手した。収集できた情報量としては申し分なく、グラフも活用して、視覚的にも訴える資料に仕上げた。今度こそどうだ。

「これがこの市場の規模と成長率なんだね。それで?」
「業界シェアは分かったけど、これで何を言いたいの?」
「競合他社のことはよく分かった。で?」

 やはり反応は冷ややかだ。「内容だって公開情報以上のものも盛り込んだし、調査レポートとしてよくまとまっているはず。なのに、なぜ?」。自分の仕事が評価されない理由を疑問に思いながら、結局クライアントへの報告書に採用されなかったスライドは数しれない。それらの資料にどれほどの努力や時間をかけたとしても、悲しいかな、成果への貢献はゼロである。

“ 何のために”やっているのか、それが問題

 いったい、何がよくなかったのだろう?
 当時の自分をいま振り返ってみると、答えはとてもシンプルに思える。

「”何のために”その仕事をやっているのか」

そのことを、分かっていなかったからだ。

たとえば、”何のために”議事録を作成するのか。それは、会議に出た人あるいは出ていない人がその会議の討議内容、決定事項、アクションを確認し、共通認識を得るためだ。そのことを理解していれば、会議の決定事項やアクション事項を議事録の最上部に持ってくる、討議の内容も大きな話題から詳細な話題に階層化して書き分ける、といった対処ができるようになる。
 市場調査だってそうだ。業界レポートを読み、有識者にインタビューを行い、その情報を分析にかけてまとめる。作業としてはそんなものだ。では”何のために”? それは、戦略立案に向けた示唆を出し意思決定に寄与すること。自社が活かせる市場の機会は何か。対処を打つべき脅威は何か。どの地域から攻め込むべきか。どのように競合に対して差別化を図るか。そうした”何のために”を満たす示唆が欠けていては、どれほど情報をビジュアルにまとめたところで意味はない。

 問題は、”何を”やっているかではない。”何のために”やっているのか――それを理解できていなかったことに問題があった。


仕事で失敗したければ、目的を忘れ去ってやればいい

 ここから、「仕事で成果を出す」ということに対して一つの教訓が得られる。

“何のために”が分からないままにガムシャラに働いても、成果は決して出ない。

 そもそも、僕らの仕事は「作業」そのものに意味があるわけではない。その作業を通じて生まれる「価値」の部分にこそ意味はある。議事録の作成も、PCのキーボードをかたかたと叩いて数枚の書面を出力する作業それ自体に本質的な意味はない。大事なのは、「それを人々が読むことで共通認識を醸成できた」という価値の部分にある。
 市場分析も同じだ。地域別の市場データをグラフ化したり、市場セグメントを分類したりする作業自体に意味はない。「自社にとって進出すべき地域(あるいはセグメント)は○○だ」と意思決定に寄与して初めて価値は生まれる。

 議事録作成や市場分析くらいの話ならまだいい。新規事業開発、大型M&A、大規模ITシステム導入、全社組織再編など、企業の命運を左右するような一大案件においても、「何のためにこれをやるのですか?」という素朴な問いへの答えに窮する場面は少なくない。
 むしろ取り組みの規模が大きいほど、”何を”の対応に圧倒され、”何のために”に目を向ける余裕が失われてしまう。「これほど大きな話、いまさら後戻りはできないのだから、”何のために”を問うなどご法度」という空気が醸成されるのもむべなるかな、だ。
 しかし、そのように目的を忘れ去ったままにしておいてよいものなのか。

 あえて、皮肉な言い方をしよう。“仕事で失敗したければ、目的を忘れ去ってやればいい”。目的はいわば、その仕事が目指す価値そのものだ。目的を忘れた仕事にいかほどの労力をかけたところで、成果が伴うことは決してない。シビアな言い方だが、それは「仕事をやっている気になっているだけ」であり、そのような仕事から価値は生まれない。

〈目的─ 目標─ 手段〉をつなげて描く成果創出のストーリー

 だがそんな皮肉を言って、そのまま話を終わらせることを僕らはよしとはしない。前に進むための推進力を得るために、この皮肉を丸ごとひっくり返してやろう。すると、仕事で成果を生み出すための次の原則が見えてくる。

“目的をつねに意識の主軸に置けば、仕事は成功する”

”何を”ではなく”何のために”から始めること。最初の「目的」が明確であれば、そこに目がけて仕事のやり方を最適化し、成果に直結させることができるようになる。目的を頂点として仕事を駆動することが成果創出の原則であり、「目的ドリブン」で考えることのエッセンスはそこにある。

 この本で明らかにしようとするのは、この成果創出のつながりとは一体どのようなものなのか、それはどのようにしてつくればいいのか、ということだ。その正体をここで少しだけ先にお伝えすると、成果創出のつながりは〈目的 ― 目標 ― 手段〉という三層ピラミッド構造によって成り立っている
 すなわち、こういうことだ。

  • 目的(Why):何のために

  • 目標(What):何を目指して

  • 手段(How):どのように達成するか

 これら3つの階層がつながるとき、何が起こるか。僕らは次のようなストーリーを語ることができるようになる。

「この仕事の『目的』はこうだ。それを果たすためには、期限までにいくつかの『目標』を達成する必要がある。その達成に向けて、具体的な『手段』としてはこう考えている。それらを実行に移すことで目標を達成し、最終的に目的の成就を目指していきたい――」

 このことは、目的を成し遂げるための筋道、成果創出のストーリーに他ならない。戦略とは「目指す姿を実現するための筋道を描いたもの」であることを思えば、こうした成果創出のストーリーを編み出すことは戦略的思考そのものであるといえるだろう。

ストーリーの構想はリーダーに課せられた“非連続な責務”

 ストーリーは、つねにその書き手を必要とする。では、このような成果創出のストーリーは誰から生まれてくるのだろうか。

 将来の目的を見据えながら、そこに至る中継地点の目標をセットし、具体的な実務の進め方まで一貫して考え、それをしみじみとしたストーリーに落とし込むこと。その一連の考察は、入社して日の浅いメンバーには荷が重い。となれば、この成果創出のストーリーを描く人物は、彼ら彼女らを導くリーダーをおいて他ない。
 一方で、そうしたストーリーを一貫して描くことは、実務に習熟したリーダーにとっても平易なことではない。もっといえば、成果創出のストーリーを描くときには、ただ実務をこなしていたときとは”違う筋肉”を使うことが求められる。特に、一般社員からリーダー格へと上がったばかりの人にとって、それはこれまで取り組んだことのない“非連続な責務”だ。
 これまでは、単に言われた仕事を言われたままこなすだけでよかった。しかし昇格の日付を境にして、それまでぶら下げていた一般社員の看板が一瞬にしてリーダーの看板へと付け替えられるとき、求められる役割、期待される振る舞いはがらりと変わる。

 だからといって、日付が変わるのと同じ速さで、自分自身をカチリと切り替えられるものだろうか。これからは仕事の価値が何であるかを自分で決め、その実現の道筋を自分で引かなければならない。いまの自分との間に横たわるその断絶は、看板を付け替えるだけでなんとかなるものではない。

“非連続な責務”を乗り越えるための戦略的思考の「型」

 そのような”非連続な責務”をいかに乗り越えていくか、そして自身としてどう価値発揮をしていくのか――その思いを持った読者のために、この本は書かれている。

 この本には、僕がこれまで一コンサルタントとしてコンサルティングの現場で考え、実践し、磨いてきた方法論を体系化して詰め込んである。いや、これまで数々のプロジェクトの実地で鍛えてきたものだからこそ、僕はこれを「方法論」といった(頭で理解するような)呼び方ではなく、体得することで自身の思考や行動を突き動かす「型」と呼びたい。それはまさしく、最小の労力で最大の成果を生み出すための戦略的思考を、誰もが身につけられるよう仕立て上げた「型」だ。

 これから伝える「型」を身につけることで、あなたも戦略コンサルタントと同じ手つきで成果創出ストーリーを描くことができるようになる。リーダーに課せられた”非連続な責務”を乗り越えるための力を、この本を通じて届けたい。

本書の構成と読み進め方

 本書の構成を簡単に示しておこう。

  • 第1〜3章
    目的・目標とは何か(それらの違いは何か)、それがなぜ大切なのか、〈目的 ― 目標 ― 手段〉の三層ピラミッド構造、目的・目標をどのように設定するか。

  • 第4章
    手段とは何か、なぜ手段は戦略の核心なのか、そのための「5つの基本動作」とは何か。

  • 第5〜9章
    「認知」「判断」「行動」「予測」「学習」の5つの基本動作をどう実践するか。

  • 終章
    本書の全体総括、思考〈問い〉の地図として。

 本書は一貫して、目的を頂点とした〈目的 ― 目標 ― 手段〉の成果創出ストーリーを描く技法を明らかにするものだ。「目的とは何か」という最も基本的な部分から始め、最終的には成果創出のストーリー=目的・目標達成の戦略を描くための技法までを網羅している。内容は幅広く多岐にわたっているが、じっくりお付き合いいただければ、成果創出のストーリーを描くためのスキル体系・技法が漏れなく身につくことを保証しよう。

また、各章にはその章のテーマに関わるCase Studyとそれに対するSolution(考え方と解答例)も設けている。具体的なビジネスの課題を通じて、その章で学んだ技法を実際にどう使えばいいのか、その実践の感覚が得られるはずだ。
 僕がいるDeloitteでは、Executable Strategy(エクセキュータブル・ストラテジー、実行可能な戦略)をその提供価値の根幹としている。絵に描いた餅の理論に意味はない。実践ができてこそ価値は生まれる。そのことを、本書でも大切にしたい。

さあ、前口上はこれくらいにして、"何のために"をめぐる物語を紐解いていこう。何事も目的から始めること。それはこの本が一貫して伝えるメッセージだ。続く第1章では、「そもそも目的とは何か」という話から始めていきたい。
"目的地を知らない船乗りに、追い風を捉えることはできない"(レオン・テック博士)のだから。

目次

第1章 まず、「目的」から始めよ
第2章 「目的」をどう設定するか
第3章 目的から「目標」への落とし方、そして実行へ
第4章 成果創出の「手段」とあらゆる仕事に通底する「5つの基本動作」
第5章 〈認知〉 最小の労力で最大の成果を出す「問題の見極め方」
第6章 〈判断〉 最良の結論に最速でたどりつく「判断の方法」
第7章 〈行動〉 無駄な動きなく最高の成果を得る「アクションの導き方」
第8章 〈予測〉未来の問題を先読みし先手を打つ「リスク予測法」
第9章 〈学習〉 既知から未知を知る「学びのレバレッジ法」
終章 新たな始まりに向かうための思考〈問い〉の地図

著者について

望月 安迪 Andy Mochizuki
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 テクノロジー・メディア・通信(TMT Division) シニアマネジャー
1989年生まれ。飛び級で大阪大学大学院 経済学研究科 経営学・金融工学専攻修了 経営学修士(MBA)
2013年、デロイト トーマツ コンサルティング(DTC)に参画。経営戦略策定・M&A案件を専門とするStrategy & M&Aユニットにも所属し、長期ビジョン構想、事業戦略策定、新規事業開発、企業再生、M&A案件のほか、欧州・アジアにおけるグローバル戦略展開、大規模全社組織再編プロジェクトにも従事。ファーム内で数パーセントの人材に限られる最高評価(Exceptional)を4年連続で獲得、複数回の年次スキップを経てシニアマネジメント職に昇格。監査・保証業務、リスクアドバイザリー、コンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリー、税務、法務部門を有するデロイト トーマツ グループ全体を対象とした「ロジカルシンキング」研修講師を担当、初年度で200名以上の受講生を受け持つ。他にもDTCのコンサルタントを対象とした「ロジカルドキュメンテーション」「仮説検証」の社内トレーナーにも従事し、新卒・中途入社社員の採用・人材開発にも携わっている。

ロングセラー『イシューからはじめよ』(安宅和人著、英治出版)をよんだ時と同じような感動を覚えました。
日ごろの業務の中で、目的は大事だとわかっていても、実際の作業やタスクに集中してしまうことが多くなっていました。
『目的ドリブンの思考法』を読んでからは、課題に対してすぐ具体的行動を考えてしまうクセがあったところを、「このプロジェクトの目的は?」を自身の中で整理してから実際の行動を考えられるようになりました。目的ドリブンの思考法は著者望月さんにとって一冊目のご著書になりますが、間違いなくロングセラーのビジネス書と肩を並べて売れる、そう確信しました。
すべてのビジネスパーソンにオススメの一冊です。
(営業部M)


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