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バリューを設定することは、「何を捨てるか」を定義すること『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』【無料公開#14】

8月28日発売の『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』。マクドナルド・メルカリ・SHOWROOMで事業と組織の成長を加速させてきた著者が、カルチャーを言語化し共有化するための手法をご紹介いたします。組織運営に悩む経営者、人事担当者、マネージャー、すべてのはたらく人に向けて、「新しい組織論」を無料公開にて連載いたします。

ビジョン・ミッション・バリューと企業活動の関連性

本書では便宜上、ビジョン型をベースに議論を進めます。

このビジョン・ミッション・バリューのピラミッドに企業活動を代入するとすれば、一般的に次のような図式になります。

コメント 2020-09-01 105416

企業活動の最たるものは事業活動ですが、事業活動は基本的にビジョン・ミッションから具体化された「ゴール」と、ゴールを達成するための「ストラテジー(戦略)」と「タクティクス(戦術)」、ストラテジーとタクティクスを遂行するための「オペレーション」を決定し、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(実行)のPDCAサイクルを回すことです。

これらは相互に作用し合い、PDCAサイクルの過程で検証され、より精度を高めていきます。

この際、ミッションとバリューと照らし合わせながら、適切な意思決定を行っているかどうかを判断していくわけです。

けれどもここで一つの疑問が湧きます。ピラミッドを見てみると、バリューは最下位概念に位置付けられています。

果たして、バリューはあくまで企業活動を「下支え」するものと言っていいのでしょうか。

ここで指摘したいのは、バリューが「ミッションを達成するうえで必要な行動指針」であると同時に「何を捨てるべきか」を定義していることです。

総花的なバリューではなく「何を捨てるか」が重要

バリューを設定する際、つい陥りがちなのは、あれもこれも「重要だ」と考えてしまい、総花的なバリューになってしまうことです。

たとえば、「カスタマーファースト」というバリューを挙げておきながら、「利益の追求」という考え方もバリューに入れていたとします。

あるとき、その会社のカスタマーサポート部門にお客様から電話でクレームがあり、「返金してほしい」と言われたとしたら、電話を受けた担当者は返金するべきでしょうか。

「カスタマーファースト」が大事であればすぐに返金してリカバリーすることを選ぶでしょう。

「利益の追求」が大事であれば、簡単には返金の道は選ばずに、他の方法でリカバリーすることを考えるはずです。

となると、バリューにこの矛盾する双方が含まれている場合、社員はバリューに基づいた判断ができず、上長に確認せざるを得ないでしょう。

あるいは「グローバルな成長に挑戦する」と「地域社会に貢献する」という2つのバリューを掲げていたとします。

そして国内外に店舗展開を広げていくなか、世界的な景気後退によって急激に売上が縮小し、早急に事業を建て直す必要が出てきたとします。

そういったとき、国内市場と海外市場、どちらに注力すべきなのか。この2つのバリューが共存している以上、すぐに判断することは難しいのではないでしょうか。

バリューは企業活動における行動指針であるとともに、何を捨て、何を選択するか優先順位をつけることでもあります。

経営戦略論の大家であるマイケル・ポーターの言葉に「戦略とは捨てることである」というものがある通り、バリューは本来、こうした究極の選択のとき、迷いなく意思決定をするための判断軸となるべきものなのです。

つまり、総花的で耳触りのいいバリューを設定しても、判断軸として機能しないため、組織においてバリューが意味を成さないこととなります。

バリューを設定することは、戦略と同様に「何を捨てるか」を定義することであり、経営戦略と同等に重要かつ会社の命運を担う両輪となるのです。


著者プロフィール

唐澤俊輔(からさわ・しゅんすけ)

Almoha LLC, Co-Founder

大学卒業後、2005年に日本マクドナルド株式会社に入社し、28歳にして史上最年少で部長に抜擢。経営再建中には社長室長やマーケティング部長として、社内の組織変革や、マーケティングによる売上獲得に貢献、全社のV字回復を果たす。
2017年より株式会社メルカリに身を移し、執行役員VP of People & Culture 兼 社長室長。採用・育成・制度設計・労務といった人事全般からカルチャーの浸透といった、人事・組織の責任者を務め、組織の急成長やグローバル化を推進。
2019年には、SHOWROOM株式会社でCOO(最高執行責任者)として、事業成長を牽引すると共に、コーポレート基盤を確立するなど、事業と組織の成長を推進。
2020年より、Almoha LLCを共同創業し、人・組織を支援するサービス・ツールの開発を進めつつ、スタートアップ企業を中心に組織開発やカルチャー醸成の支援に取り組む。
グロービス経営大学院 客員准教授。


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