すべては「編集」にはじまる『才能をひらく編集工学』【無料公開#2】
8月28日発売の『才能をひらく編集工学』より、本文の一部を無料公開します。「編集工学」とはなにか、「編集工学」におけるものの見方・考え方を知ることができる第1章「編集工学とは?」と第2章「世界と自分を結びなおすアプローチ」を公開予定です。今回は第1章より一部を公開いたします。
すべては「編集」にはじまる
「編集」という言葉から、何を思い浮かべるでしょうか?
雑誌・書籍の編集や映像の編集のような、何かしらのメディア情報を取り扱う職業的な技能をイメージされるかもしれません。
ここでは、「編集」という言葉をうんと広い意味で捉えます。
そもそもわたしたちは、ありとあらゆる「情報」に囲まれて生活しています。
起きた時の体の感じ、外の天気、でかけるまでの持ち時間、テレビから流れるニュース、朝食のメニュー、クローゼットの服と今日のコーディネート、いずれも「情報」であり、そういった雑多な情報をのべつ幕なしに「編集」しながら生きています。
ここで言う「編集」とは、こうした「情報」に関わるあらゆる営みのことを指すものです。
認知も表現も理解もコミュニケーションも、「編集」なしには成立しません。
起きて活動している以上、編集していない時間はないし、眠っている間ですら脳は編集を休まない。
意識するしないにかかわらず、わたしたち人間は「編集」という営みによって命を前に進めているのです。
「わたし」という生命体自体もまた、いまこの瞬間も無数の活動によって編集されています。
遺伝子や細胞や臓器や脳内物質にいたるまで、さまざまな「情報」の連携によって、「わたし」という生命が維持されている。
さらに言えば、人間だけが「編集」しているわけでもありません。
犬もバッタも海も山も、学校や会社や都市や社会も、複雑に絡み合った情報がなんらかの形で編集されて、その姿を表していると見ることができます
人間の技能である以前に、「編集」という営みはこの世界を構成する欠くことのできない要素なのです。
では「情報」はどこから来て、「編集」はいつから始まったのでしょうか
はるか昔、人間も生物も存在するもっと前に、情報は生命と共に生まれ、その「生命という様式」を前に進めるために「編集」という営みが始まりました。
原始の地球に飛来した何らかの情報コードが、生命のメタプログラムとなって、それを守るための生体膜をつくり、自らの内側と外側を分け、個体としての生命活動を始めます。
その営みの中での情報のプログラムとそれを扱う編集の仕組みの違いが、生物の種を多様につくり出し、それぞれを進化させてきました。
単細胞生物が多細胞生物へと進化を遂げたのも、人類が二足歩行を始めたのも、火を発見し衣食住を整えていったことも、すべてに情報の「編集」が関与しています。
このようにして、人類は、生物は、地球や宇宙は、編集の連続によって運ばれてきたと言えるのです。
ことほどさように、「編集」とは実に奥が深く懐が深い。どこまでいっても、その全容はなかなか捉えられません。
本書で考える「編集力」は、明日の仕事や暮らしに役立つ技能、という範囲にとどまるものではありません。
この世界のいたるところにある編集の営みを思い、新たなものの見方やそこにある方法を発見していくことを通して、ひとりひとりの中に思い思いに引き出されていくまだ見ぬ潜在力こそが、本書で取り扱いたい編集力です。
こうした「編集」の仕組みを明らかにして、人々と社会の力として応用していこうとする方法論の体系が「編集工学」です。
著者プロフィール
安藤昭子(あんどうあきこ)
編集工学研究所・専務取締役。出版社で書籍編集や事業開発に従事した後、「イシス編集学校」にて松岡正剛に師事、「編集」の意味を大幅に捉え直す。これがきっかけとなり、2010年に編集工学研究所に入社。企業の人材開発や理念・ヴィジョン設計、教育プログラム開発や大学図書館改編など、多領域にわたる課題解決や価値創造の方法を「編集工学」を用いて開発・支援している。2020年には「編集工学」に基づく読書メソッド「探究型読書」を開発し、共創型組織開発支援プログラム「Quest Link」のコアメソッドとして企業や学校に展開中。次世代リーダー育成塾「Hyper-Editing Platform[AIDA]」プロデューサー。共著に『探究型読書』(クロスメディア・パブリッシング、2020)など。
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