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企業事例で「経営スタンスの4象限」を理解する『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』【無料公開#28】

8月28日発売の『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』。マクドナルド・メルカリ・SHOWROOMで事業と組織の成長を加速させてきた著者が、カルチャーを言語化し共有化するための手法をご紹介いたします。組織運営に悩む経営者、人事担当者、マネージャー、すべてのはたらく人に向けて、「新しい組織論」を無料公開にて連載いたします。
カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方

企業事例で「経営スタンスの4象限」を理解する

では実際の企業がどの経営スタンスに当てはまるのか、そして企業はどういった変遷を辿っているのか、具体的な事例を挙げて検討してみましょう。

たとえばトヨタ自動車は、豊田喜一郎氏が実質的に創業した後、創業者一族などが経営に携わってきました。

しかし1990年代の後半からは奥田碩氏や張富士夫氏など生え抜きの優秀な社員が社長を務めるなど、②チームリーダー経営を進め成長を続けてきました。

(経営スタンスの4象限についてはこちら)

ただ、リーマンショックで連結営業赤字に転落した後の2009年、創業家出身の豊田章男氏が社長に就任し、レクサスやプリウスの海外市場展開を強化。

2018年には豊田章男氏が「自動車をつくる会社」から「モビリティカンパニー」へのモデルチェンジを表明し、「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」の開発など、縮小傾向の自動車市場から新たなビジネスを生み出そうと思い切った戦略に取り組んでいます。

これはある意味、②チームリーダー経営から①カリスマリーダー経営へとシフトしていると言えるかもしれません。

また、前述の通り、アップルはスティーブ・ジョブズという偉大なカリスマリーダーによって低迷期を脱し、iPhoneやiPadといった優れたプロダクトを生み出しました。

彼亡き後、CEOに就任したティム・クックは、卓越したオペレーションとピープルマネジメント力を発揮。Apple WatchやApple Payなど多様なサービスを生み出し、組織のダイバーシティを推進し、女性を登用するなど、①カリスマリーダー経営から③複数リーダー経営へのシフトを成功させていると言えるでしょう。

カルチャーは、正解があるわけではなく「好きか嫌いか」だとお伝えしました。

そして、それはこの4つの経営スタンスも同様です。

①~④のうちどれがより良いかという議論ではなく、自社が組織運営するうえでの勝ち筋として、経営者・経営陣が「こうしたい」と思うものを選択的に選ぶことが必要です。

そしてこれは、上述のように移行することはありますが、複数を同時に選択することはできません。

なぜならば、4象限の軸として「変化─安定」「中央集権─分散」と反対する概念を対立軸に置いているので、構造的な矛盾が発生するためです。

たとえば、①カリスマリーダー経営のスタンスを取っている会社が「権限委譲を進めたい」と考えたとします。

組織規模が大きくなればこうした議論が出てくるのはよくあることなのですが、権限委譲を本気で進めたいならば③複数リーダー経営への移行をする覚悟が必要です。

「権限委譲を進める」と言いながら、任せたリーダーの決定について、カリスマリーダーが後からトップダウンで覆すようであれば、権限委譲は成り立ちません。

結局はカリスマリーダーに依存した組織になります。これはカリスマリーダー経営が悪いということではなく、トップダウンで意思決定することを残したいのであれば堂々と①カリスマリーダー経営のスタンスを取ると決めればいいのです。

組織にカルチャーを浸透させるには、組織にまつわるあらゆる活動が同じ方向性で一本化されていないと整合性が取れず、浸透しきれません。耳触りのいいフレーズを集めた〝いいとこ取りのカルチャー〟はあり得ないということです。

つまり、経営としてのスタンスをここで明確化することが、自分たちが目指すカルチャーをつくることの大事な一歩目となるのです。


著者プロフィール

唐澤俊輔(からさわ・しゅんすけ)

Almoha LLC, Co-Founder

大学卒業後、2005年に日本マクドナルド株式会社に入社し、28歳にして史上最年少で部長に抜擢。経営再建中には社長室長やマーケティング部長として、社内の組織変革や、マーケティングによる売上獲得に貢献、全社のV字回復を果たす。
2017年より株式会社メルカリに身を移し、執行役員VP of People & Culture 兼 社長室長。採用・育成・制度設計・労務といった人事全般からカルチャーの浸透といった、人事・組織の責任者を務め、組織の急成長やグローバル化を推進。
2019年には、SHOWROOM株式会社でCOO(最高執行責任者)として、事業成長を牽引すると共に、コーポレート基盤を確立するなど、事業と組織の成長を推進。
2020年より、Almoha LLCを共同創業し、人・組織を支援するサービス・ツールの開発を進めつつ、スタートアップ企業を中心に組織開発やカルチャー醸成の支援に取り組む。
グロービス経営大学院 客員准教授。


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