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【おすすめ本】きみの幻に恋をする(ビオイ=カサーレス/モレルの発明)

(本記事はネタバレを含みます!)

今週もこんにちは。関東は秋晴れで気持ちのよい一週間でした。

今回の一冊は、アルゼンチンの作家ビオイ=カサーレスによる1940年発表の「モレルの発明」。幻想文学に括られることが多いですが、SFでもありラブストーリーでもあり、ちょっと判定が甘いなと思うけど、作者の親友ボルヘスは「これは完璧な小説である」と絶賛しています。

▼▼今回の本▼▼

簡単なあらすじ。ひとりの男がヴィリングスという無人島を訪れ、ひそかに暮らし始めます。蜃気楼なのか、二つの太陽と二つの月が見える島。ところがある日、彼はだれもいないはずの島にひとりの女性を発見します。

(…)もっとも最近の驚くべき出来事というのは、この丘に正真正銘の人間が現れたことなのである。(…)毎日夕方になると、岩の上にひとりの女が現われて夕日が沈むのをじっと見つめている。

ビオイ=カサーレス. モレルの発明. 水声社, 1990. p.33.

彼はこの女性フォスティーヌに恋をします。どうすれば仲良くなれるのか。彼女はいったいだれなのか。男が悩むうちに島には次々と他の人間が現れる。でも、だれもが男を無視するのです。まるで彼が存在しないかのように。いったいなぜ?

真実は思わぬものでした。彼女をはじめ、島にいた人間は、モレルという男が発明した特殊なカメラと映写機によって記録されたホログラムだったのです。男が恋した女性はなんと、記録された過去の映像だったのでした。

それでも、男は恋する気持ちを捨てられず、葛藤します。

そうであるなら、生きていることは私には耐えがたい。フォスティーヌとともに生活しながら、彼女がきわめて遠い存在(注:映像のこと)だとわかっているというこの責苦に、いったいどうやって耐えつづけていけるというのだろう?

同上, p.163.

フォスティーヌを求めて旅だつという胸のうずくような希望さえ捨ててしまえば、私は、ひたすら彼女を眺めつづけるという浄福のなかで運命を受け入れることができるのだ。

同上, p.170.

映像はそこにいる。存在はそこにいない。恋とは何だろうと考えさせられます。映像を好きになるなんて馬鹿げていると言うのは簡単。でも僕ら人間は片思いも、推しのアイドルにリアコもする。相手とコミュニケーションが成立することが恋の必要条件ではないなら、僕らはその人の何を好きになるのでしょうか。

細部のつくりの粗さや映写機の設定などツッコミどころは多いですが、味わい深い一作です。

▼▼前回の本▼▼


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