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AIx理学療法士によるデジタル理学療法 を提供する“Sword Health” のシリーズE資金調達【6/4発表: 米国デジタルヘルスニュース】

非定期で投稿している米国デジタルヘルススタートアップの資金調達ニュースですが、前回は、癌治療の在宅サポートを行うケアチーム! “Thyme Care” のシリーズB-II資金調達についてご紹介しました。

※今回および過去の記事の全て、公開情報を基に作成しています。

今回ご紹介する米国スタートアップ は"Sword Health"です。同社は、人工知能と理学療法士による介入を組み合わせたデジタル療法を提供する、2015年設立の企業です。

同社提供のサービスイメージ
【出典】Yahoo!financeによる同社についてのニュース記事

彼らのプラットフォームは、痛みの管理、怪我の予防、および身体活動の促進を目的としています。特に、遠隔地・自宅でもアクセス可能な理学療法を提供し、個々の利用者のニーズに合わせたカスタマイズされたプログラムを提供しています。

また、強い慢性的な痛み向けの「Thrive」、比較的軽度な慢性痛のケアを行う「Move」、女性の出産や更年期に伴う骨盤底筋のゆるみから生じる尿漏れ等の症状対策に特化した「Bloom」など、多様なソリューションを提供しています。

Sword Healthは、今回のシリーズE資金調達ラウンドで1億3000万ドルを調達し、評価額が30億ドル(6/14の為替で4,500億円以上)に達しました。

CEOの発言によると、同社は資金には非常に余裕があり、間もなく黒字化を達成できる状態であるため、事業のための新たな資金調達の必要性は感じていないとのことです。

では、どんな理由で主に調達したかというと、このラウンドで調達した1億3000万ドルのうち1億ドルは、現在および元従業員、初期投資家が保有する株式の流動化・現金化をサポートするために行ったとのことです。

設立から約9年が経過することと、USのデジタルヘルス市場での過去2年間におけるIPOが停滞していたこともあり同社もIPOをまだしておらず、従業員や初期投資家が株式の流動性を得ることが難しくなっていたこと、が主な理由の様です。

過去のラウンドでは米国の有力VCでもある Khosla Ventures, General Catalyst, Founders Fundが参加しています。特にKhosla VenturesはシリーズAから今回のEまで、Founders FundはシリーズAからDまで継続して出資・支援してきていることが確認できました。
これまでの調達金額は$350Mを超える金額になっています。

About "Sword Health"

:米国
創立年:2015年
資金調達ラウンド:シリーズE
主な投資家:Khosla Ventures, General Catalyst, Founders Fund, Sozo Ventures etc…
総調達金額:約 $350M
サービス:デジタル理学療法
事業モデル:B2B2C - 企業の雇用主または民間保険会社等を介して個人にサービスを届けるモデル。患者さんは加入している保険を通じて無料で同社サービスを利用可能

サービス概要

同社の提供するデジタル理学療法のプラットフォームは、リアルタイムのフィードバックと個別最適化された理学療法プログラムを通じて、筋骨格系の痛みや女性特有の骨盤底筋のゆるみに関わる尿漏れ等の症状の改善をサポートします。

このサービスは、理学療法士と同社のAIの合わせ技によって、従来の理学療法士との対面かつ医療機関で行う治療よりも、多くの方に利用してもらうことができ、かつ、自宅でいながら利用者ご自身のスケジュールに合わせて行うことができるのが利点の一つです。

AIと理学療法士の組み合わせによるAI Care
【出典】同社ウェブサイト

同社サービスは数多くあるのですが、その一部について見てみましょう。

「Thrive」は、慢性的な関節痛や腰痛、強いレベルの慢性痛に対応する最も臨床的に厳格なデジタル理学療法です。Thriveは、理学療法士とAIの組み合わせで、自宅の快適さと便利さを保ちながら、対面の理学療法と同じ効果を提供します。メンバーは個別化されたリアルタイムフィードバックを受けて、手術や救急外来の受診を回避することができることがあり、それにより年間1人当たり3012ドルの医療費を節約できます。

タブレットで自分の動作を画面上に映し、同社技術のモーションキャプチャで指導通りに正しい動きができているのかを確認したり、リアルタイムでフィードバックを受けることができます。

プログラム実施中のイメージ
【出典】同社ウェブサイト
治療の開始からどのように理学療法士とAIが協力しながら、
プログラムを支援してくのかについてのフロー図
【出典】同社ウェブサイト
従来の理学療法よりも、治療開始後8週目での効果(痛みの軽減、可動範囲の拡大など)は
30%上回っているとのこと
【出典】同社ウェブサイト


続いてご紹介する「Bloom」は、妊娠、産後、更年期などの全てのライフステージで、尿漏れ、消化器の問題、骨盤痛に苦しむ女性を支援します。

骨盤底筋群は、膀胱、直腸、子宮などの骨盤内に収まる臓器を支える筋肉の集合体であり、排尿や排便、性機能、出産などの重要な役割を果たします。この骨盤底筋の問題が尿漏れ等に繋がってしまうのです。

BloomはFDAをパスしたBloom Podという医療機器を使用し、骨盤底筋の収縮力、持久力などをリアルタイムで検知・分析し、フィードバックを行います。この医療機器とアプリによるデジタル理学療法により、骨盤底筋トレーニング等を行い、女性特有の諸症状の解決に貢献します。

Bloomの利用者は、アプリと骨盤底筋の状態をセンシングできる
医療機器・Bloom Podを使ってプログラムを実施する
【出典】同社ウェブサイト

こちらだけではなく、その他にも様々な機能や技術があるのですが、デジタル理学療法の提供を通じて、臨床的なアウトカムと医療費削減のアウトカムの両方のエビデンス構築を行い価値を証明し続けているのが同社です。

医療費削減データ

同社は、医療費削減において顕著な効果を証明してきました。同社のデジタル療法プログラムの利用を通じて、手術、救急の受診、鎮痛剤の使用を削減することで、利用者・従業員の医療費を大幅に削減しています。

例えば、筋骨格系の障害および関連する慢性疾患のケアにおいて1人当たり年間約3,000ドルの医療費削減を達成可能、そして、 高額な手術の発生率を50%削減、などの様々医療費削減データを着実に積み上げています。

主力製品の一つ・Thriveのデータ
【出典】同社ウェブサイト


Sword Healthの事業の現在地

Sword Healthは、米国、カナダ、ヨーロッパ、オーストラリアでデジタル理学療法を提供しています。

特に注目すべきは、同社が全米50州とカナダにて、1000万人以上の顧客企業の従業員をカバーしている点です。また、同社サービスは合計で1万社以上の企業に提供されており、主要なクライアントにはCisco、Domino’s、Highmarkなどが含まれます。

また、同社は37の特許を保有しており、デジタル理学療法において市場で唯一のFDAをパスした製品を提供しています。これにより、競争の激しいデジタルヘルス市場で独自の地位を築いています。

最後に、2023年度の収益は約2億ドルに達し、2024年末までに収益化を見込んでいるとのことです。同社は非常に強固な資金ポジションにあり、新たな資金調達の必要性は感じていないとしています。さらに、2025年にはIPOの可能性も示唆されており、さらなる成長と市場拡大を目指しています。

シリーズAからEまで継続して参加しているKhosla Venturesの創業者のX投稿によると
2023年のARRは約$200Mまで伸びたとのこと
【出典】Vinod Khosla氏のXでの投稿

最後に

先日、PHTIというデジタルヘルス製品の臨床的利点と医療経済的な影響、医療の公平性、プライバシー、セキュリティへの影響を分析している組織から、Sword Health含めて理学療法士とデジタルの組み合わせによりデジタル医療を提供している製品は、臨床的(エビデンスレベルは高くはないが)にも医療経済的にも、従来の治療法よりも効果が高い、という結果が発表されました。

Swordは真ん中のカテゴリーに属する
【出典】PHTIレポート

今後もエビデンスを出していきながら、EmployerやHealth Planからの信頼を勝ち取り多くの方にソリューションを届けるだけではなく、既存の医療従事者も巻き込んだより医学的な治療プロセスにも組み込んでいけるようになると良いかもしれませんね。

おしまい。

※このブログ記事は、個人的な趣味で書いているものであり、あくまでも情報シェアのみを目的としています。

参考記事・リンク


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