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癌治療の在宅サポートを行うケアチーム! “Thyme Care” のシリーズB-II資金調達【5/28発表: 米国デジタルヘルスニュース】

毎週投稿している米国デジタルヘルススタートアップの資金調達ニュースですが、前回は、栄養士の母親と妹からアイデアを着想した "Food as Medicine" サービスを提供する “Fay” のシリーズA資金調達ニュースをご紹介しました。

今回ご紹介する米国スタートアップ は"Thyme Care"です。同社は、癌のケアマネージメントサービスを提供する2020年設立のスタートアップです。このカテゴリーは、最近米国でちらほら若いスタートアップが取り組んでいる領域です。

今回の資金調達はシリーズB-IIラウンドに相当し、このラウンドでは米国最大規模の健康保険会社であるAetnaを傘下に収めているCVS社のCVC、CVS Health Venturesなどが戦略的出資をしております。健康保険会社との戦略的提携を通じて事業を拡大している同社が、CVSのCVCから評価されて資金調達ができたことは、お金だけではなく事業の成長機会も得られたと言っていいのではないでしょうか。

過去のラウンドでは米国有力VCでもあるAndreessen HorowitzやBessemer Venture Partnersが参加しています。これまでの調達金額は$80Mを超える金額になっています。



About "Thyme Care"

:米国
創立年:2020年
資金調達ラウンド:シリーズB-II
主な投資家:Andreessen Horowitz, Bessemer Venture Partners, CVS Health Ventures
総調達金額:約 $25M
サービス:Cancer Care Management
事業モデル:B2B2C - 民間保険会社等を介して個人にサービスを届けるモデル。患者さんは加入している保険を通じて無料で同社サービスを利用可能

米国における癌治療の課題について

米国では癌が死亡原因の第2位を占めており、その致死率の高さに加え、治療の複雑さから患者さんや保険会社に対して極めて大きな経済的負担を強いています。癌治療の患者一人当たりのコストは急速に上昇しており、心臓病や腎臓の治療といった他の疾病分野を大きく上回っています。

現在の癌治療は、関係するすべての人々にとって困難な課題です。

まず、患者やその家族は、診断から治療、そしてアフターケアに至るまでの全ての段階で、多岐にわたる情報を収集し、最適な治療法を選択するために複雑な医療システムを理解しなければなりません。これは精神的・身体的・金銭的な負担となり、治療の継続や生活の質の維持が困難になることがあります。

医療従事者にとっても、癌の治療は非常に高度な専門知識と技術を要します。新しい治療法や薬剤が次々と開発される中で、それらを効果的に組み合わせ、各患者の個別の状況に応じた最適な治療計画を立てることは容易ではありません。さらに、患者ごとに異なる病態に対して迅速に対応する必要があり、そのためのリソースや時間が不足していることもしばしばです。

さらに、保険会社にとっては、癌治療のコストが年々増加する一方で、その支払い能力を維持することが大きな課題となっています。高額な治療費や新薬の導入に伴う費用負担が増大する中で、どのようにして持続可能な医療保険制度を維持し、すべての患者が必要な治療を受けられるようにするかが問われています。

このように、米国の癌治療は多岐にわたる課題を抱えており、それぞれのステークホルダーが協力し合い、効果的な解決策を模索していくことが求められています。

これら課題解決を行おうとしているのが同社サービスです。

サービス概要

同社は、テクノロジーを活用した自前のケアチーム提携先の医療機関・医療従事者とのシームレスな統合を実現することにより、病院・クリニックにおける医療サービスに加えて、病院外でのケアナビゲーションを可能にしました。

この自前のケアチームは、既存の医療従事者にとって代わるものではなく、既存の医療従事者チームの新たな仲間、という位置づけであることが特徴です。リソース不足が大きな課題となっている医療機関にとって、同社サービスを使うことで医療スタッフが増えることは喜ばしいことですし、それによりこれまで時間がなくて在宅のケアまで手が回らなかった既存の医療従事者の課題感を解決できるのではないでしょうか。

また、従来、フィー・フォー・サービス / Fee for Service(治療の効果に関わらず、医療を提供した分だけ費用を請求するモデル)が主流ですが、同社はバリュー・ベースド・ケア / Value based Care(価値に基づく医療、コスト削減や治療効果などのアウトカムベースで支払いが発生するモデル)を推進しています。

つまり、医療費を抑えながらも高いアウトカムを出すことができる医療の推進を、同社サービスの市場投入によって実現させることで、患者さん、既存の医療従事者、そして保険会社のすべての関係者のニーズを満たすサポートをしています。

同社は、医療提供者、看護師、その他、非医療の部分で患者さんとやり取りをするケア担当者を含むケアチームを抱えています。このケアチームが、24時間365日体制で、臨床的なアドバイスの提供や、患者さんからの質問に答えたり、必要なリソース・情報やサービスを紹介します。

同社ケアチームが利用する患者さん情報を把握するダッシュボード
出典:同社ウェブサイト
同社ケアチームが利用する患者さん情報を把握するダッシュボード②
患者さんの背景に応じて緊急性の高さを可視化する。
出典:同社ウェブサイト


サービス内容には以下が含まれるそうです。

  • 現状の治療等の全体理解のサポート

  • 癌専門医を見つける手助け

  • クリニック外でのサポート

  • 医療機関訪問の間の臨床ケア

  • 癌と共により良く生きるための支援

  • 自立を支援するためのリソース・コンテンツ等の提供

患者さんはスマホ画面で情報の入力を行う。
過去24時間にどの程度辛い嘔吐・吐き気があったかを回答する画面がこちら。
出典:同社ウェブサイト


バリューベースドケアを推進する同社の医療費削減データ

同社サービスを利用することで、利用者一人当たり、月平均約600ドルのコスト削減が実現されており、急性期治療費も15〜20%削減されるそうです。さらに、同社サービスの利用者満足度は97%に達しています。

この月平均約600ドルのコスト削減についてのデータは、同社が2023年にアメリカ臨床腫瘍学会 (ASCO:American Society of Clinical Oncology)で発表したデータに基づくようです。これによると最も全体にインパクトを与えているのが、不要な入院費用を避けることに成功したことで生まれたコスト削減のようです。

同社が2023年ASCOで発表したデータの一部。
最上部が削減した医療費の総額(約月600ドル削減)を示す。
出典:ASCO2023データ

事業の現在地

参加している健康保険会社等を通じて、現在、31の州で50万人以上が利用可能です。また、多くの癌専門医療施設およびプライマリケア施設との提携を通じて、既存の医療従事者を中心に据えた癌治療の包括的サポートを、同社は行っています。

同社サービスが利用可能な州(紫色の州)
出典:同社ウェブサイト
同社が提携している癌専門の医療機関
出典:同社ウェブサイト

最後に

同社は、患者の生活の質を向上させることを目指して、技術と人間の力を融合させた先進的な癌治療サポートを提供しています。

24時間365日のアクセスと、臨床的なケアを診療の合間にも継続するアプローチは、患者に安心感と自立をもたらします。これにより、患者は家庭で安全かつ自立して生活しながら、より良い医療を受けることができます。

おしまい。

※このブログ記事は、個人的な趣味で書いているものであり、あくまでも情報シェアのみを目的としています。

参考記事・リンク


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