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ゲーム屋人生へのレクイエム 99

的は見えないけど矢を放って転職を決めたころのおはなし

「面談終わってアメリカに戻ってきたでしょ。転職するって決めたけど、どうやって社長に辞めるって言おうか悩んでね」

「恩があるって言ってましたもんね」

「そう。失業直前に拾ってもらった恩がある。辞めたら恩を仇で返すことになるんじゃないかとか、いろいろ考えたけどストレートに本当のことを伝えようって決めたんだ」

「何て言ったんですか?」

「ある日本のゲーム会社がアメリカに子会社を作ることになってそこの責任者となることになったので会社を辞めさせてください。って言った」

「社長の反応はどうでした?」

「ふうん、いい話じゃないか。やってみるべきだ。って言ってくれた」

「話のわかる人ですね」

「うむ。そしてこうも言った。

社長としてオファーを受けるんだったら給与は絶対に妥協するな。社長業は重責だ。誰でもできるものじゃない。自分を安く売ってはいけない。自分の価値は自分で決めろ。

って」

「へえー。退職を認めてくれてアドバイスまでくれたんですね」

「そうなんだよ。そして退職する日には祝い金までくれたんだよ」

「すごいですね。どうしてそこまでしてくれたんでしょうね」

「わからん。だが、間違いなく言えるのはこの人の器はとても大きかったってことだね。

商売をやってると、時には狸おやじになってとぼけたりしてたけど、まじめに働く社員に対しては誠実でやさしい社長だったよ。

あの社長から学んだ経営のノウハウは一生忘れないね。本当に尊敬に値する経営者だったよ」

「いい出会いでしたね」

「そうだな。いい出会いでいい別れだった」

「それはそうとVの子会社の話しはどうなったんですか?」

「おお、そうだった。Gを辞めて翌日からVの仕事を始めたんだけど、事務所がないから家で働くことにしてね。それとAで一緒だったKをPRマネージャーとして雇った」

「まさかGから引き抜いたんですか?」

「いや、Kはずいぶん前に転職して全く違う仕事をしてたんだけど、新たにゲームの製作販売の仕事をやるって言ったらぜひ手伝わせてくれって言って押しかけてきたんだ。

そして俺の家で俺とKの2人でゼロから会社を始めたんだ」

「通勤時間もゼロですね」

「そうだ。パジャマで仕事をしても誰からも怒られない。これはいいって最初は喜んだけど、すぐに嫌になった」

「どうしてです?」

「昼間のうちは通常の仕事をこなしてたんだけど、夜になるとメールやら電話やら会議の招待やらじゃんじゃん飛び込んでくるようになったんだ」

「なんで夜なんです?」

「それは日本の本社は日本時間で仕事をするからだよ。こっちは昼、夜と働き続けることになって、家が会社だから逃げ場も無くって大変だったよ」

「Gの社長が言ってましたよね、社長業は誰でもできるものじゃないって」

「そうだ。ひょっとして自分を安く売ってしまったのではないかと不安になったぞ」

続く

フィクションです

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