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ゲーム屋人生へのレクイエム 54話

前回までのあらすじ。プロダクトマネージャーになって本格的に家庭用ゲームの仕事にどっぷりつかり始めたころのおはなし

「どうだい。ゲーム開発のはなしもちょっとマジになってきただろう」

「はい。でも、専門的なはなしになると難しくて読者のみなさんが退屈するんじゃないかと思うんですが」

「そうか。タローの為のはなしなんだが、みんなが退屈になっては申し訳ない。俺もストーリー性が希薄になってきたんじゃないかと思っていたんだ。ではちょっと趣向を変えよう」

「はい。そうしましょう」

「うむ。マネージャーになってプロジェクトを何本か片付けたころのはなしだ。俺の勤める子会社は絶好調とまではいかないけど家庭用ゲームの売り上げが好調でしっかり利益を出していたんだ。だが、本社では雲行きが怪しくなってきてね」

「どういう事ですか?」

「業務用ゲーム部門の不振が経営に重くのしかかってきてね。自社で運営していたゲーセンの機械を売りはじめたのよ。これはやばいと思ったよ」

「何でやばいんですか?」

「ゲーセンは機械があるから客が来る。その機械を売るという事はどういうことかわかるでしょ」

「機械がないとお客が来なくなる。そうとわかっていても機械を売る。あ!お金が無いからですね」

「そう。簡単に現金化できるゲーセンの機械を売るという事はゲーセンの経営を捨てるということだよ。ゲーセンを経営していれば日銭が稼げる。現金収入が毎日あるという事は会社にとってはありがたい。けれど機械を売ってしまったらそれはできない。それだけ金に困っているという事だよ。銀行の貸し渋りも始まってボーナスも出ないんじゃないかとか噂が広がり始めてね。悪い噂はあっという間に業界に広がるもんだよ」

「やばいじゃないですか」

「うむ。経営好調の子会社の売り上げをかなりきつく本社が吸い上げるようになってね。本社も子会社もキャッシュフローがかなり厳しくなってしまったのよ」

「キャッシュフローってなんですか?」

「商売して手元に残る現金のことだよ。これが少ないとほぼ借金で会社経営しなければならない。いわゆる自転車操業だ。本社も子会社も銀行頼みの経営に陥ってしまったのよ。本社では希望退職を募集し始めてさ。これはいよいよやばくなってきたって思ってね。とは言え、俺は簡単に会社に見切りをつけてどこかへ転職することはできなかったのよ。就労ビザで働いているからね。就労ビザの話は28話で説明したぞ。

世話になった事業部長や社長への恩と義理もあったしね。でもだからといって自分がクビにならないという保証はない。クビになったらまたあのゴロゴロ生活に逆戻りだ。42話あたりで散々やったあのはなしだよ」

「あの頃はゴロゴロしまくってましたよね。夜逃げの支度もあったし」

「おう。そしてついにリストラの話が子会社でも出始めたんだよ。それは驚愕なはなしだった」

「何ですか驚愕なはなしって」

「次回に続くぞ」

「じらしますね」

「長編連続小説だからな」

続く
この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。

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