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ゲーム屋人生へのレクイエム 103

販売委託契約を解除する為に本契約を締結したころのおはなし

「前回は契約解除のはなしをしたけど、契約期間中にPS3ゲームを彼らに販売してもらっててね。俺が会社に入る前に開発は完了してたから開発には何も絡んでなかったけど、新しい子会社はディスク生産の発注や宣伝広告費の支払いとかの業務だけをやってたんだ」

「売れたんですか?そのゲーム?」

「数はぼちぼち売れたけど赤字だった。正確に言えば最初から赤字になることは確定していたんだ」

「最初から赤字確定ってどういうことです?」

「それはね、日本で売るために使った開発費の大半を子会社におっかぶせたからだよ」

「なんでそんなことするんですか?子会社赤字になるじゃないですか」

「子会社は設立当時は連結子会社ではなかった。ということは本社の決算には子会社の業績は載らない。

本社で売る為に開発したゲームの開発費の大半を子会社が販売する移植版の開発費として子会社に支払わせることで本社の経費が少なくなる。

ということは本社の決算の見た目はぐっと良くなるよね。経費が減るということは利益が増えるということだ。株価も安定するということにつながるんだ」

「でも子会社が赤字になったら責任を取らされるんじゃないですか?」

「それは俺も心配したんだけど、専務はこの赤字については責任を問わないって言ったんだよ。不審に思ったけどそれ以上こっちは何も言えないので黙って従ったよ。

まあそれで赤字が確定しているゲームの売り上げはパッとしないというか、発売日の出荷だけは何とか数がまとまった感じだったんだ」

「売上ってすぐわかるんですか?」

「販売を委託している会社から毎日のように速報が届くんだ。どのお客の売り上げがどれくらいで、在庫がどのくらいあるかって。それを見れば売れるスピードが見えてくる。

それで、ああ、もう売れるスピードが止まったなって感じてた頃に販売委託の会社から連絡があったんだ」

「在庫をどうするかの相談ですか?」

「いや違った。大手電機量販店が追加発注をしたいと言ってきたんだ」

「でも売れるスピードは止まってるんですよね?」

「そう。その店の在庫は確かに少ない。けど追加発注をしても売り切れるとも思えなかった。どこの小売りも滞留在庫を抱えていたからね。

どうしようか考えたんだけど、相手の追加発注を断ったんだ」

「え?発注を断るって大丈夫なんですか?」

「販売委託先の社長から速攻で電話がかかってきた。大手電機量販店からの注文を断るなんて前代未聞だって怒ってた。

でも説明したんだよ。この追加注文分は間違いなくそっくり売れ残るって。売れ残ったらその在庫は全部引き取るか、その金額分値引きするしかなくなる。70話で説明したプライスプロテクションというやつだ。リンクを貼っておくぞ。

そんなことになるくらいなら最初から売らないほうがいい。そう説明したんだけど大手電機量販店のバイヤーを怒らせたくないって言い張ってね。じゃあ、売れ残っても在庫は引き取らないし、値引きもしないという条件なら売ってもいいって言ったんだ」

「オッケーしたんですか?」

「オッケーするわけがない。そんなことは絶対にバイヤーは受け付けないって言うんだ。でもこっちだってこれ以上赤字を膨らますことは出来ないから絶対に売らないって言ったんだ。そうしたらわかったって言って電話を切ったよ」

「バイヤー怒ったでしょうね」

「怒っただろうね。注文を断る会社なんて絶対にないだろうからね。でもこっちだって何をどれだけ売るか決める権利がある。いつもやりたい放題のバイヤーをしてやったりという気分になったよ」

続く

フィクションです

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