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ゲーム屋人生へのレクイエム 32話

前回までのあらすじ。知人の子供にゲームクリエーターになるにはどうすればいいのか尋ねられた元ゲームクリエーターが自分の過去を語る。社長から突然ブラジルに子会社を作った話をきかされて驚愕してブローカーの商売は大変だと実感したころのおはなし


「社員5人雇って倉庫付き事務所をサンパウロに借りた」

「マジですか」

「マジだよ。ブラジルに会社を作ったと社長は言ったので登記だけしてこれから準備するものと思ったら、子会社の社長含め社員5人雇って倉庫付きの事務所も借りたって聞いて、気絶するくらい驚いたのよ。ブラジルの景気は悪くなってる状況で会社作ってそんなに急に投資して一体何がどうなったらそうなるのか訳が分からなくてね。


社長に聞いたのよ、これからどう商売するんですかって。そしたらブラジル子会社は社長を含めて4人のパートナーシップで作ったって言ってね。ブラジルに住む日本人と日系ブラジル人のパートナーでそれぞれすでにブラジルでゲーム関連のビジネスをやってる実業家で、金もある。彼らの販路を使ってゲームの商売をする。社長は商品の仕入れを担当することになったって。出資の割合とか詳しいことは聞かなかったんだけど、何か引っ掛かってね」

「4人でやれば失敗しても被害が小さいからですかね」

「うむ。そういう一面もあるが、リスクもある。4人の意見が一致しないときはどうするのか?出資比率に応じたリスクと利益の配分をするのか?とか。物事には必ず利点と欠点がある。常に両方を考えて行動しないといけないのよ。このパートナーシップの話には社長が得る利点はよく見える。ブラジルでなんでも売れるぞ。けれど残りの3人が得る利点となると、よく見えない。すでにブラジルで商売して仕入れも販路も持っているのになんで共同出資で会社を作るのかなって」


「言われてみればそうですよね」


「うむ。先行き心配したけど社長が自信たっぷりで、絶対うまくいくって、すごく喜んでたからさ、リスクがどうとか慎重に行きましょうよとか否定的なことが言えなかったのよ。言ったとしても聞き入れてくれなかっただろうけどね」

「社長には何か言ったんですか?」

「うまくいくといいですね、って言ったよ。皮肉ではなく、どうか失敗しないようにと祈る思いだったのよ。それで社長はアメリカへと戻ってさ。俺は日本でブラジル向けの商品を探すことになったのよ」

「この前も探していましたよね」


「うむ。28話の話だ」

「最近やたらとリンクを貼りますね」


「リンクを貼る方法を覚えたので使いたくてね。それでブラジル向けの商品だけど、さんざん探し回っておおよその会社はもう何度もあたってるからもう諦めかけてたんだけど、ある中小のメーカーに売れそうなものがあるって情報を掴んでね、すぐにアポ取って飛んで行ったよ。早速機械を見せてもらってね。子供向けのルーレットみたいなゲーム機で数年前に売り出したけど売れ行きイマイチで100台くらい売れ残って倉庫にあるという話でね。遊んでみたけどまあ、売れ残る理由がわかるような機械だったけど値段が合えばブラジルでも売れるかもっていう印象だったよ」

「買ったんですか?」

「まずは1台をサンプルとして買った。それをアメリカに送ってもらうことにした」

「値段は安くなったんですか?」

「在庫処分の値段だったよ。とは言えブラジルまで運ぶには運送費もかかるし関税もあるから、最終的にいくらで売るかは慎重に考えないといけないのでそこは社長にお願いした。とにかくやっと商品となるかもしれない機械がひとつ見つかったのよ」

「よかったですね」

「ここまではね」

続く
*この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体とは一切関係ありません。

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