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ゲーム屋人生へのレクイエム 108

オンラインゲームの失敗から多くを学んだころのおはなし

「初のオンラインゲームのリリースは社内では反対が多かったんだけど、いざやってみたらいい評価がたくさん寄せられてやってよかったと思ったんだよ」

「どうして反対したんですかね」

「どこでもそうだけど新しいことに懐疑的になるのはよくあることだ。未知のリスクを過大に怖がることも理解できる。

この会社は最先端の技術を使って毎年デカいタイトルの開発を受託していた割には保守的でね。いや、だから保守的になったのかもしれないな。安定を求めていたのかもしれない。とにかく極端にリスクを避けようとしてたな。

石橋をたたき壊して渡れなくして、ほら渡らなくてよかった、このとおり壊れただろうって言うようなひとがトップに多かったよ」

「リスクゼロのビジネスってあるんですかね」

「ない。絶対ない。あり得ない。どんなビジネスにもリスクは必ずある。それを可能な限り正確に把握してリスクとリターンのバランスをとることが重要だよ。リスクが小さいということはリターンも小さい。リスクが多ければリターンも大きい。言うのは簡単だがいざやるとなるととても難しい。

106話ではなしをしたパッケージゲームのリリースはまさしくローリスクローリターンのビジネスケースだった。最初から大きな儲けは狙わないで少ない利益ながらも会社の知名度を上げることを目的にしたんだ」

「どんなゲームをリリースしたんですか?」

「まずはDSのタイトルだった。このハードは脳トレとかの大人向けのタイトルが売れていたので大人向けのゲームをマーケットに投入することにしたんだ。携帯機だからちょい遊びできるパズルゲームを選んだ。音楽や、パッケージ、キャラクタ、フォントに至るまで全てのコンセプトを全部大人向けに統一制作して売り出した」

「売れました?」

「売れた。しかも黒字になった。日本でもリリースして欧州にライセンス販売もした。やったーって喜んだけど狙ってたものが外れたんだよ」

「黒字になってよかったのに、何が外れたんですか?」

「ゲームを買った客層の多くは大人ではなくて子供だったんだ。それで考えたんだ。子供は子供っぽい趣向のものより大人っぽいものを欲しがるんじゃないかって。背伸びするっていうのかな。売れたからいいんだけど。おまけにゲームの発売からしばらくたって子供の知育教材を選定する団体から優秀なゲームに選ばれて表彰されたんだ。本当にわからないものだよ」

「ゲームが教育にいいって表彰されることがあるんですね」

「たいていゲームは教育者から目の敵にされるものと相場が決まっているからこの時は驚いた。けどそれ以上に喜んだ。自分で企画から発売までディレクションとプロデュ-スをやった初めてのタイトルで黒字になるし表彰されるし、ゲームクリエータをやっててやっと報われたと思ったよ」

続く

フィクションです

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