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ゴイゴイスー

今まで三十年ほど生きてきて何度か尋ねられた質問がある。

「どんな人がタイプなの?」

……これは即ち「交際する相手に求める条件」ということなのだが、そういう時、私は決まって『頭が良い人が好きです』と答える。

しかしながらそもそも「頭が良い」というのはどういうことなのだろうか。今まで自分でそう答えておきながら、その定義が曖昧であった。そこで色々と考えてみた結果、導き出した答えの一つが

『語彙力のレベルが自分と同等かそれ以上』

というものであった。

先に断っておくとこれは別に自慢でも何でもないのだが……恐らく私自身は比較的語彙力のある人間なのではないかと思っている。昔から好きな科目は国語だし、(今はめっきり減ったけれど)読書をする習慣もあったし、放送部で言葉に親しんできたし、一応大学でも日本語学の領域を専攻していた。それ故、少なくとも日常生活において使える言葉は十分すぎるくらい持ち合わせているように思う。

ちなみに豆知識として正確には「語彙」と呼ばれるものは二種類ある。一つは「理解語彙」で、これは耳で聞いたり本で読んだりした際に意味がわかる語彙を指す。そして更にその「理解語彙」の中から実際に会話や執筆等において使用することができる語彙を「使用語彙」という。その二つをどれほど持っているか、というのが所謂「語彙力」の有無の判断基準となる訳である。

話を元に戻そう。先述の通り、私自身は割合に語彙力があるのではないかと思うのだが、それ故に今までの人生で何度か「難しい言葉を使うな」と他者から指摘されたことがある。

例えば中学生の頃、私はクラスメイトにあまり馴染めず、休み時間も一人で塾の宿題をしているような生徒だった。まあ、正直私の通っていた中学校は民度の低い連中の集まりだったので馴染んだりはしたくなかったのだが(ばっさり)。そしてそんな私を見かねたのか、所属していた部活の同期がそれはそれはまあ偉そうに「つぐみ(筆者)は難しい言葉を使うからみんなと仲良くできないんだよ」と指摘してきた。

大人になっても、数年前に付き合っていた元彼から「あんまり会話で難しい言葉を使わないでよ」と言われたことがある。しかしながら旧知や元彼からそのような指摘をされても私の頭の中は「はてな?」でいっぱいになるだけであった。というのも、これまた自慢でも何でもないのだが、恐らく私は彼等がいう「難しい言葉」を全く難しいとは思っていないのである。しかも私は悪意を持って「みんなが使わないような言葉を使ってやろう」と思っている訳ではなく、無意識的に言葉を選んで話している。つまりは誰かに意地悪をしようとか見下そうとかいう気持ちは全くないのだが「この言葉はみんな知っているだろう」という前提を自身でも全く気付かないうちに作り上げていたという訳だ。

それに関しては全くの無意識とはいえ、相手にとっては理解不能な言葉を発している訳だから、私の話を聞いている側には負担も多いのかも知れない。しかしながら、正直、そこで「難しい言葉を使うな」と指摘するのは如何なものかと思ってしまうのもまた事実である。「私に対して平易な言葉遣いを求めるのはそれ即ち学習の放棄ではないか?」と思うのだ。

「井の中の蛙」とはよく言ったもので、比較的語彙力がある(と思われる)私も知らない、或いは使わない言葉を使って話す友人が大学には沢山いた。恐らく彼女達は私よりも沢山の本を読み、語彙や知識を蓄えていたのであろう。そしてそんな友人達と会話し、知らない言葉を耳にする度、表面上はニコニコしながら相槌を打つのだが、頭の中は「わかんねぇ~、悔しい~」「ここでその言葉どういう意味?と訊いたら馬鹿だと思われるんだろうな~」という気持ちで一杯になった。

そういう時は大体友人と別れた後、こっそりとネットや辞書を見てその言葉の意味を調べたのだが、こういう所に「難しい言葉を使うな」と指摘する人々と私の違いがあるのだろうと思う。「難しい」「意味わからん」「悔しい」等々とマイナスな感情を抱いた際、意味を調べれば自身もその語彙を収得してまた一つ賢くなれるのに、相手に平易な言葉遣いを求めてしまっては一向に知識のレベルは向上しない。夏目漱石の『こころ』に登場人物のKが発した「精神的に向上心のない者はばかだ」という有名な台詞があるが、それは語彙の収得に関してもそうだろうと思う。流石に話し相手を「馬鹿」と罵ることまではしないが、わからないならわからないなりに調べる努力をした方が良いのではないかと思うことはある。

それ故私は好きなタイプを訊かれた際に「頭の良い人≒語彙力が自分と同等かそれ以上の人」と答えるのだ。同じくらいのレベルかそれ以上なら私に「難しい言葉を使うな」という指摘をしてくることもないだろうからだ。或いは私よりもややボキャブラリーが少なかったとしても、向学心を持って調べるような人であれば良いのである……こういうと滅茶苦茶偉そうな嫌な奴に聞こえるよね。実際、過去に私に好きなタイプを質問してきた人に「頭が良い人です!」と答えたら「……そういうことはあまり言わない方が良いよ」と返されたこともあるし……いや訊いといてその反応かい!とは思ったけれど。

なお余談で、この間職場の後輩(※申し訳ないがややボキャ貧)と話していた際、どういう文脈であったかは忘れたが「君は相当なマゾヒストのようだね」と彼に対して言ったところ「マゾヒストってどういう意味ですか?」と尋ねられた。うん……いや、知らない言葉をスルーしたり弾いたりするのではなく、きちんと意味を知ろうとする向上心は素晴らしいし物凄く評価する。しかしながら「マゾヒスト」という言葉の意味を説明するのは些か恥ずかしいことであって……(照) えっ、何?その質問をすることで私を辱しめようとしているのか?となると君は寧ろサディストなのではないか?と私は暫し困惑した。いや本当に、知ろうとする姿勢は素晴らしいんだけどね(笑)

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