見出し画像

伝説の家政婦・志麻さん渾身の一冊『厨房から台所へ』が、「おふくろの味」がなかった私を救ってくれた

こんにちは! この春に出版社のダイヤモンド社に入社したての新入社員の森です。新人研修の一環として、「自社の話題書を新人が読むとどう感じるのか?」をnoteに綴ることになりました。第7回では「涙が止まらない!」「感動した!」と話題の『厨房から台所へ ── 志麻さんの思い出レシピ31』について取り上げています! 食べることが好きな人、人生に悩める人は必見です!

「おふくろの味」を求めて

 皆さんには、「おふくろの味」はありますか?

 私は、「おふくろの味」を知らずに育ちました。

 というのも、親が共働きで多忙だったため、学生時代はミールキットを食べていたのです。

 ミールキットは美味しいのですが、味のパターンが決まっています。忙しい親にとって時間を節約できるというメリットがある一方で、私は、母の味つけも、父の味つけも、ほとんど知ることができませんでした。

 「自分にはおふくろの味ってないな〜」

 画一的な味付けしか知らない私は、親が親の好みで味付けした料理を食べたいと内心悲しく思っていました。

心に響く!志麻さん渾身の一冊

 そんななか、一冊の本に出会いました。『厨房から台所へ ── 志麻さんの思い出レシピ31』(以下、『厨房から台所へ』)です。

 著者は、「予約が取れない伝説の家政婦」として注目を集めているタサン志麻さんです。

 テレビや書籍で取り上げられている志麻さんに興味を持っていた私は、『厨房から台所へ』を手に取り、読み始めました。

 レシピ本だと思って『厨房から台所へ』を読むと、読者はいい意味で期待を裏切られます。私も裏切られました。本書はレシピ本でもあり、志麻さんの半生が詰まった、読むだけで涙が止まらなくなるエッセイ本でもあるのです

記念写真をパシャリ。画面の奥で私はニヤニヤしています。

 『厨房から台所へ』では、志麻さんが料理の道に進んだ経緯や辻調理専門学校とフランスでの修行、日本のレストランでの仕事、恩師との日々、家族のことなどが、赤裸々に綴られています。

 なかでも特に印象に残ったエピソードをご紹介します。

 厳しいシェフに辟易して周りの人が退職するなか、一人残ってシェフと志麻さんの2人で働き続けた東京のレストランでのことです。

 2人になっても相変わらずシェフは厳しく、不器用な私は失敗も多く、よく怒られていました。

 どうして私はこんなに仕事ができないんだろう。人も使えない、仕事もできない、当時の私はコンプレックスのかたまりでした。

 それでも、誰にも負けないくらい、その店のことが好きでした。

 そしてフランス料理が好きでした。

『厨房から台所へ ── 志麻さんの思い出レシピ31』(p.111より)

 「どうして私はこんなに仕事ができないんだろう」

 この一言が、大学生だった頃の私が勉強やサークルの時に感じていた「自分だけ何をやるにしても中途半端で何もできない」という気持ちと重なりました。そして、この時点で私の目には涙が溜まっていました。

 そんな志麻さんに試練が訪れます。忙しさに翻弄される毎日を送っていた志麻さんは、ある日突然、包丁を握れなくなり、咳が止まらなくなったのです。病院に行くと気管支喘息と診断され、さらに咳のしすぎで助骨にはひびが入っていました。

 体がぼろぼろになりながらも、お客さんとお店に迷惑はかけられないと働き続ける志麻さん。

 一方で、志麻さんの中にこんな思いが芽生えてきます。

 私は自分が何をしたいのか、本当にわからなくなっていました。

 このままずっとここで働きたいと思う一方で、ずっと心の隅にあった「何かが違う」という思いが消えることはありませんでした。

『厨房から台所へ ── 志麻さんの思い出レシピ31』(p.115より)

 「自分が何をしたいのか、本当にわからない」

 就職活動中だった頃の私を思い出して、抑えていた涙が溢れ出しました。当時の私はやりたいことが定まらず、「就活の軸は何ですか」と面接で聞かれても上手く答えられない日々が続いていました。

 「志麻さんも、もがいて悩んだ時期があったんだ」

 将来のことを考えれば考えるほどやりたいことが分からなくなって頭を抱えた日々にも意味があったのだと、就活中のダメダメだった自分を肯定してくれたような気がしました。

 最終的に、シェフに何度か辞めたいと相談した後、志麻さんはそのレストランをついに辞めます。シェフには大迷惑をかけることを承知で「長い間お世話になりました」と置き手紙を置いて店を離れたのです。

 ここから、夫となるタサン・ロマンさんと出会い、フランスの家庭料理を突き詰める道を進むことになります。

 初めてこの話を読んだ私は、がむしゃらに頑張る志麻さんの姿に涙が止まりませんでした。

読者を感情のジェットコースターに乗せて

 このような心に響く濃い話が、『厨房から台所へ』にはいくつも登場します。しかも、それらのエピソードが一文一文、魂の宿った文章で綴られているのです。

 ページをめくれば泣いて、乾いたと思ったら泣いてと、涙のフルマラソンを読者は完走することになります。

 そして『厨房から台所へ』の魅力は胸に染みる話だけではありません。

 レ・シ・ピ!

 いかにも「食べて」と胃に訴えかけているかのようなフランス料理や日本料理の数々が、本書の中に散りばめられています。

 そう、この本は「感動」と「美味しそう」という至極の感情を、交互に読者に与えてくれるのです。

 しかも、紹介されるレシピは、全て志麻さんが本の中で語るエピソードに関連しています。志麻さんの努力する姿を、視覚と味覚で追体験できるのです。

 美味しそうなレシピを見ると、唾液の中の酵素が「早く分解させてくれ」と騒ぎ出します。

 「感動」と「美味しそう」が同時に私の神経を掌握し、とめどなく流れる涙と口の中で広がる唾液で脱水症状になるかと何回思ったことでしょう。

 そのくらい、『厨房から台所へ』は読者を感情のジェットコースターに乗せてくれます。

「おふくろの味」を教えてくれた志麻さんの料理

 私が特に「美味しそう」とときめいたレシピは、「じゃがいものピュレ肉巻き」です。込み上げてくる「食べたい」気持ちを抑えきれず、この本を読んだときから何回もリピートして作っています。

おうちで作ったじゃがいものピュレ肉巻きです。

 どうですか? 美味しそうでしょう!

 ほっくほくのじゃがいもを、少々の小麦と油をまとったお肉が包み込むことで生まれる食感のハーモニーがたまらなく良いんです。
 
 「サクッ!」と噛んだ瞬間に「ジュワ~」ととろける肉汁とじゃがいもの一体感。箸が進み、気づいたら全部なくなっています。

 ちなみに、志麻さんは、塩の使い方がたまらなく上手です。

 塩には、素材のうまみを引き出す力があります。

 塩の量一つで料理のおいしさはかなり変わってきます。

『厨房から台所へ ── 志麻さんの思い出レシピ31』(p.79より)

 この本で「塩の大切さ」を学んでから、調理時には塩をどのくらい振ったら美味しくなるか、吟味するようになりました。

 「塩加減ひとつで、おいしさが変わる」

 私が求めていた自分なりの「おふくろの味」を、志麻さんが、『厨房から台所へ』が、教えてくれました。そして、料理を作ること、食べることが大好きになりました。

さいごに

 「おふくろの味」がなかった私の食生活に彩をくれたのが、『厨房から台所へ』です。志麻さんの頑張る姿に涙が流れ、読後に「自分も頑張りたい」と奮い立たせてくれる、大切な一冊です。

 胃も心も満たされる『厨房から台所へ ── 志麻さんの思い出レシピ31』、ぜひ読んでみてください!

 この先も面白い書籍の情報を定期的に発信しますので、ダイヤモンド社書籍編集局の公式noteをぜひフォローしてください!