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うつ病入院生活 52日目

【19:30 帰院】

フロアに戻ると
最近よく話をする16歳の女の子がいた。

「だたいま」

『おかえり』

あまり元気がない。

話を聞くと、夕方に衝動で物を壊してしまい
それが父からのプレゼントだったから
泣いて落ち込んでいたのだそう。

こういう話を聞くと、
病気を患うと自分で感情をコントロールする事が
できなくなるんだと改めて感じさせられる。

夕飯も食べなかったらしい。


一旦片付けをして着替えるから
また話そうと約束する。

【20:00 話す】

話すと言っても並んで座っていただけ。

私は最近ハマったナンプレを解き
彼女はスマホで漫画を読んでいる。


でも聞いたわけでもなく、ポツポツと
身体にある傷の話について話し始めた。

『気付いたらこうなってた』

『これは意識があったから痛かった』

彼女曰くほとんど無意識下でやってしまうから
痛みは感じないのだそうだ。

ただそういう行為をしたあとや
いつどうやって死のうかと考えた後に
大きく落ち込んでしまうのだという。


なんてしんどいんだろうと思った。


どうすれば死に辿り着くのかという考えが
常に頭を巡っていて、
その時の気持ちは比較的ハイなんだそう。

でもそれが終わると一気に沈んでいく。


気持ちが上がろうが下がろうが常に彼女には
“死”がまとわりついている。


16歳が背負えるものじゃない。


さっきまで隣で話していた彼女が
詰所の前で座り込んでいるのを見て
私は背中をさすって部屋に戻った。

無力だな。


【22:00 就寝】

21時過ぎまで彼女と過ごして
その後日記を書いていたからこの時間。

寝つきは○


【5:00 目覚める】

なかなか寝られた。
さすがに疲れていたんだな。


いつも通りトイレへ。


帰り際に勤務表をチェック。


推し!あり!フロア!同じ!よし!


【8:00 朝食】

5時以降はめちゃめちゃ眠いくせに
全然寝られずでいつの間にか朝食。


その前に洗濯物を洗濯機へ。
今回は枕カバーを洗うことを忘れなかった。よし。


ナスと玉ねぎのみそ汁。

おいしいおいしい。


【8:30 身支度】

推しがいる、とはいえ
洗濯しまくっててあんまり服がない。

でもパジャマには見えない
私なりの正装に着替える。


顔用の日焼け止めが無くなってきた。

【8:40 洗濯】

洗濯が終わったので下着や靴下は乾燥機へ。

タオルやTシャツは看護師さんについて来てもらって
外干しするけどきょうは何時になるかしら〜


テレビを見ると高校野球。夏だ〜。


【10:00 一眠り】


検温に来てくれたときに
外干しのお願いもしようと思っていたけど
看護師さんが来ない。

眠いから寝た。


【11:00 外干し】


絶対に乾く天気でもこの時間になると
ちょっと焦り出す。

検温はまだだけど、詰所で看護師さんにお願いして
一緒にベランダへ。


暑すぎ。

こりゃ15時に干しても乾くわ。


昨日は近くで花火大会があっていた。

病院から見ることは出来なかったけど
看護師さんは近くの場所から綺麗に見えたらしい。


ベランダから見られたらきれいだっただろうな〜


【11:15 単独外出】


本当は暑いから外に出たくなかったけど
きょうはミッションがあった。


おじいちゃんの誕生日プレゼントを
送らなければならない。


私の祖父は今回の誕生日で91歳。
白髪頭で背が高くてチャッキチャキ。

自慢のおじいちゃんだ。

賛否両論あるだろうが、まだ運転もしている。
趣味の茶道のお稽古も欠かさない。

ただ、庭木の手入れをいまだに自分でやっている。

こんな猛暑で外に出るだけで高齢者はしんどいのに
木に登って木を切っていると言うのだから
それはちょっとやめた方がいいのでは?と思う。


極めつけは先日、
家にスズメバチの巣が見つかったらしい。

なんとそれを虫取り網で捕獲し
出てきた蜂は殺虫剤で応戦。

足で巣を踏み潰して撃退したというのだ。


さすがに孫として聞き捨てならない。


そうやって自信をつけた高齢者が
台風の日に屋根に登ったり
餅を喉に詰まらせたりして亡くなってしまうのだ。


祝福と怒りが混ざった手紙を書いて
ナンプレの専門誌を一緒に送った。

「これからは身体よりも頭を動かしてください」


いつまでも元気でいてください。


【12:00 昼食】


外出が暑すぎたことと、
炭酸を一気飲みしたせいでお腹が空かない。


先に別の予定を済ませる。


予定が済む。


お腹は空かない。


ほうれん草とにんじんの小鉢だけ食べて
あとは残す。


ごめんなさい。


【13:30 作業療法】


ミサンガ作りが楽しい。


元々何も考えずにひたすらこなす作業が好きだ。


編み物とか食器洗いとか洗濯物畳むのとか。
(ただ日常に盛り込まれた途端にやる気が失せる)


今日はミサンガの本を参考に新しい編み方に挑戦。


できない。


小学生の時に“ミサンガを作れる人”となった私は
数多の女子からミサンガ製作を頼まれた。


せのび山製作所は利益を1ミリも念頭に置かず
製作費と材料費を回収することなく労働に励んだ。

中には翌日発注という
無理難題を押し付ける顧客もいて
その時に人の苦労を考えることを学んだ。


そんな私ができない!?!?


なぜなら私は
“筋肉”でミサンガ作りをやっているからだ。

“脳”でミサンガ作りをすると訳がわからない。

意地になってやるけど明らかに変。

あーやだやだ。

神経質だから最初につまずくと嫌になる。


そうしていると休憩になり、
休憩明けは大好きなOTさんに呼ばれた。 


そのOTさんは月曜に
リラクゼーションプログラムとして
ハンドマッサージを施してくれる。



私が着ているTシャツが特徴的だという話。

夫も目立ちたがりで変な服を着がちだという話。

OTさんの元彼がクレイジーだった話。

そのおかげで草食どころか
枯れてるくらいの人が好みになったという話。


女子会????

楽しすぎるんだが。


これだからこのOTさんはやめられない。


【16:30 集団散歩】


暑い。暑すぎる。


まずは厩舎へ。


ポニーの餌をお局馬が奪おうとしている。

やめな!やめな!


しばらくやられっぱなしだったポニーだが
歯を剥き出しにして応戦。

お局、後ずさり。


おお〜。


こうやって生きる術を身につけていくんだね〜。


【18:00 夕飯】


昼を少ししか食べなかったからモリモリ食べた。


【19:15 入浴】


浴室に向かうときに
部屋が空いていることに気付く。


他の患者さんに聞くときょう退院だったらしい。

目が不自由な女性だったが
何度か話したことがあった。


入院はすでに4回目で
何度入院しても家に戻ると
振り出しに戻ってしまうと話していた。

だから退院をあまり望んでいないという言葉に
同じ気持ちですと答えた記憶がある。


最近、体調が悪いからと作業療法や散歩にも
参加されていなかった。

退院をイメージして
しんどかったのではないだろうか。

それはあくまで推測だけど。


旦那さんがあまり病気に理解を示してくれないと
話されていた。

欲を言えば旦那さんが協力的になってくれると
一番いいだろうけど
それが叶わないのであれば
なるべく彼女の心を軽くできる人が
近くにいてくれたらいいなと思う。


きょうは髪は洗わない。

【19:45 話す】

お風呂から出て
部屋でスキンケアをしていると
部屋の外からカラカラ音が聞こえる。

何だこの音。

この時間に工事?


16歳の女の子がステンレスのコップの中を
スプーンでかき混ぜている音だった。


私が出てくるのを
すぐ近くで待っていてくれたんだと思うと
小さな子どもみたいでかわいい。


一緒に共有フロアに向かっていると
また別の16歳の女の子が話しかけてきた。

退院が決まったらしい。

とっても幸せそうな顔だった。


その子たち2人は仲が良かったので
聞いた方は寂しそうにすぐその場を離れた。


入院という空間で築いた関係は
若くて経験が少ない彼女たちにとって
すごく特別なものだろうと想像する。


でも支え合うには脆すぎる。

彼女たちが思いっきり胸に飛び込んでも
どっしりと受け止めてくれる

そんな大人に出会えたらいいなと思う。


現在22:50。

きょうは眠気もあまりなかったから
部屋の前で待ってくれていた子とずっと話していた。


家族から暴力を受けていたこと

学校でいじめられていたこと

それを先生たちが見過ごした上に
まるで彼女のせいと言わんばかりに責められたこと

当時言われた言葉や、受けた暴力の描写は
聞くに堪えないものばかりだった。


よくここまで生きていてくれたと思う。


彼女は
『大人に期待できないから未来に期待できない
 だから死を望む気持ちから逃げられない』と
言った。

胸に刺さる。

それだけ彼女を囲む大人たちが
彼女を裏切り、幻滅させ、苦しめたんだろう。


『私なんているだけで迷惑』と言った彼女に

「迷惑じゃない」と返すと

『口では何とでも言える』と虚な目で返された。


きっと今まで何度もその言葉を繰り返され
そして裏切られてきているんだ。


もう何も言えなかった。
彼女の話に耳を傾けることしかできなかった。


情けない。

「話してくれてありがとう」と伝えて
きょうは2人とも部屋に戻った。


いろんな気持ちが頭をぐるぐると巡っている。


きょう彼女は一回でも
楽しいと感じた瞬間があっただろうか。

あってほしい。
そしてそれを積み重ねて未来に期待してほしい。


お願いだから死なないでほしい。絶対に。

絶対に。

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