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【能動的三分間#2】迷子のコピーライター

【能動的三分間】2回目は日下慶太の「迷子のコピーライター」です。

まず、この本を手に取った理由は、表紙の人物がとてもコピーライターに見えなかったからです。著者紹介を見てみるとなんと電通で働くサラリーマンとのこと。おまけに同じ大学の先輩にあたる人のようだったので、読みたいという衝動を抑えられませんでした。
ちなみに表紙は週4回ホームセンターに通って作ったホームレスの仮装だそうです。その時点で訳が分かりません。笑

どのようにすれば上手いコピーが思いつくか、電通で抜きん出た実績が出せるか、といったノウハウ本や自慢じみた武勇伝ではありません。日下さんの半生を描いた自伝に近いと思います。

人によって楽しみ方が変わる本だと思いますが、私がこの本から読み取った「肝」は多忙なサラリーマンでも複数の肩書きを持つことができる、ということです。

ましてや電通のクリエイティブ職です。平均的なサラリーマンと比較して業務の量、質ともに高いレベルが要求されることは間違いありません。ですが、日下さんの肩書きは「コピーライター」「商店街ポスター展仕掛け人」「写真家」「セルフ祭り顧問」「UFOを呼ぶバンドのリーダー」等々です。最初の肩書き以外は会社の業務とは無関係に行われていることです。

堀江貴文さん、落合陽一さんなど、現代のトップランナーが提唱する「100万人に1人の人材になるには100人に1人と言える肩書きを3つ持てば良い」「仕事になる趣味を3つ持て」が自然にできちゃっている方です。

読んでいて好感が持てるのは金儲けの匂いを感じさせないというか、問題意識に対して情熱を持って活動する、単純に面白いからやってみる、それがいつの間にか地域社会を巻き込んだ大きなムーヴメントになっていった。そんなところが感じられる点です。

社会問題の側面から見ると、寂れていく地方の商店街や観光地をどのように広告の力で活性化させるかという取り組みの一端を知ることができます。
ふとしたきっかけで大阪新世界の商店街のお祭りに企画側として参加することになった日下さんが商店主とお祭りに参加する若者たちとの間に感じた温度差を問題意識として、広告の力で地方再生に取り組む姿が書かれています。

”新世界は新新世界 だった。エネルギーが渦巻いていた。客もアーティストも祭りを楽しみ、商店街は賑やかだった。しかし、商店街の店主たちの顔は曇っていた。迷惑そうに若者を見ていた。商店主と若者たちとが話しているシーンはあまり見られなかった。・・・店の売り上げは伸びず、商店主たちと 若者たちとの交流もごく一部だった。”

このような現状に対して日下さんは、商店主と電通の若手クリエイターで協同してお店のポスターを製作し、ポスター展覧会を開催することを思いつきます。会社の業務活動ではないので、ほぼほぼボランティア活動だと思います。商店街を若手クリエイター達のクリエイティブの舞台にする、といった構想の裏側には日下さんのサラリーマンとしての問題意識も書かれています。

”広告の停滞、ひいては、日本自体の停滞が「確認」にあるとぼくは考えていた。何度も何度も確認をしながら物事を進めていく。石橋を叩いて叩いて叩いた末に叩きすぎて壊れる。石橋を叩いて渡れることを確認したのに、それを信用せずに結局渡らない。石橋を叩いて渡ったら、また石橋が出てくる。修正や通すための準備で時間とエネルギーを浪費していく。スピードも落ちていく。たくさんの確認と修正を経たあとのものは、最初の意図とは違ったわけのわからないモノになる。広告制作では「作る」以外に「通す」ことに大きなエネルギーを費やす。”

サラリーマンの皆さんは多かれ少なかれ共感できる話ではないでしょうか。自分に置き換えても、生産性のある業務、創造性のある業務がいかに少ないかとがっかりしてしまいます。

個人的に、地方創生は様々なアプローチの仕方(建築的、広告的、産業的...)があり非常に興味がある話なのですが、この本を読むと地方が抱える問題(地元の魅力を知らずに外に出て行くケースが多い、地元で働く魅力的な大人のモデルが少なすぎる等)が大分クリアになると思います。その点で、建築や都市計画の学生が読んでも面白い内容になっていると思います。

最後に私がこの本の「肝」だと思う引用で締めくくります。

”「何かおもしろい仕事くださいよ」 若かりし頃の愚かなぼくは、周りの人によくこう言いました。そしてまったく仕事は来ませんでした。今、振り返るにそりゃそうだと思います。ぼくという人間自体がおもしろいことをしていないのに、おもしろい仕事など来るはずがありません。何かおもしろいことをすることのすべてが他人 頼みだったのです。おもしろいことは自分で作る。待っていても何も来ない。”

本の購入費に充てます。薄給なのでサポートいただけると大変助かります。本で得た知見を皆様に還元できればと思います。