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北九州に移り住んで


 福岡県北九州市に移り住んで3か月。noteを始めてからもちょうど3カ月が経った。新しい生活と新しいチャレンジが平行して進んでいる。
当初の計画ではこの夏に滋賀での仕事を終えた後、東京の実家に戻る予定だった。ところが引っ越しの段取りを決めるタイミングに合わせて、いくつかの事情が一度に目の前に現れ、急遽正反対の九州へ転居することになった。
この歳にして見ず知らずの土地で新たなスタートを切ることになった。しかし出会うものすべてが新鮮。人生60歳から第二の青春と言うそうだが、もうすでに第三の青春くらいは経験した。これからは第四の青春だ。
この3カ月の間に出会った印象に残る風景と、いくつかの事柄について紹介していきたいと思う。




周防灘と権七岩附近

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 豊かな自然環境

 待っていたのは想像以上に豊かな自然。市内にはあちらこちらに深い森があり、そして美しい海岸も多い。
上の写真は北部門司区にある海岸風景。夕陽に照らされた岩礁がオレンジ色に染まったほんの数分間の不思議な出会い。
北九州市は東に周防灘、西に響灘という二つの灘に挟まれている。この権七岩附近の海岸は周防灘に面している。この海域を正面奥に進めば、山口県と愛媛県の間を抜けて瀬戸内海へと通じる。
反対側の響灘に面した小倉や門司は関門海峡にあり、古くから港町として栄える要素を持っていたが、この周防灘に面した側は小さな漁港とフェリー埠頭、そして工業地帯が広がるという対照的な地域である。写真には写っていないが、すぐ近くの洋上には新北九州空港の人工島があり、主に羽田との往復便が離着陸している。また北九州と横須賀を結ぶちょっと豪華なフェリーも運行し始めた。

 どこへ行っても初めての場所だったが、最近ようやく土地勘もついてきた。毎晩近所を歩くことも日課となった。若い頃は海外を放浪していたせいもあって、国内でも知らない土地を歩くときには、人のいない路地や地元らしい住宅地を歩いたり、車でもナビの指示を外れて遠回りの道を選ぶのが癖というか趣味のようにもなっている。

 以下いきなり余談
これは九州ではなく東京から滋賀に移り住んだ頃の話。
とある住宅街を歩いていた時のこと・・・。
滋賀の新興住宅街以外の昔からある集落には、伝統的な木造家屋があちらこちらに残っていて、そういう家はみな独特な構造に統一されている。外壁となる板がすべて黒い。
焼杉と呼ばれる黒い壁は、耐久性を増すために杉板の表面を焼き焦がしたものだ。滋賀県より西の地域で使用される伝統技法で、外壁の下見板や土中に埋まる土留め板などに用いられるとのこと。
関東人にとって、そういう珍しい集落の風景に思わずキョロキョロと見回しながら歩いていると、地元の人、数人から「こんにちは」と優しく声をかけられた。静かでいい所だなあ、なんて思いながら笑顔で挨拶を返し、そのまましばらく歩き続ける。すると突然横から屈強そうな黒いコートを着た男が二人近づいてきて、私の行く手を遮った。そして胸元から何かをさっと取り出して見せ、
「警察の者だが。」と険しい顔で声をかけてきた。
背後には白バイに乗った警官が道を塞いだ。
「はい。なにか?」
「先ほど110番通報があり、不審な男が住宅街をうろついているという連絡が入ったのだが。。。」
「ええっ、おれのこと?」

 古い住宅地を歩く時は、辺りをキョロキョロ見回さないことが肝心。
北九州では毎日住宅街をあちこち散歩していても、110番通報されたことは今のところはいっぺんもない。(☜北九州弁)



響灘と夏井ヶ浜

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噂通りのグルメタウン

 九州に来て一番に思うのは、巷でよく言われることではあるのだが、やはり食べ物が美味しい。特に魚が新鮮なのが嬉しい。スーパーで売られている刺身ですら美味しい。飲食店も和食、洋食、焼き肉、寿司、餃子、イタリアン、カフェ、ソフトクリーム、かき氷、パン、A 級B級問わず何を食べても美味い。ファミレスであっても何か違うなと思う。
そういうことを地元の人に言うと、えっそうなの?という感じでみなキョトンとしている。贅沢な人たちだ。こんなことはよそでは味わえないのに。


昔ながらの和菓子とかき氷「ゑびす餅」

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地元でも評判の居酒屋「よ田」

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 未だかつて、この店ほどのどれもこれもみな美味しく良心的な料理を提供する居酒屋というものは経験したことがない。外見は地味だが、中に入るとカウンター席4、座敷が2つある。ジャズのCDが並べられている。予約を取るのがなかなか難しい。ネットの情報は当てにはできないということの証明がここにはある。食べ終わった後の幸せの余韻がいつまでも続く。


 極めつきは北九州市戸畑区にあるインド料理店「106サウスインディアン北九州店」。
インドにのべ2年ほど滞在していた時に、大衆食堂から有名レストランまで多くのインド料理店に行き、また日本でも東京や神戸にある有名店などに入ったことがあるが、それらと比較してもこの店が歴代No,1である。カミさんと私にとってはソウルフードのインド料理。こんな身近な所で出会えるなんて、それだけでも引っ越してきた甲斐があるというもの。現地ほど激辛ではないが、十分本場のテイストをキープしつつ、日本人の舌に合う絶妙な辛さに抑えているという、そのバランス感覚が研ぎ澄まされている。大抵のインド料理店は日本人の舌の方に合わせすぎてバランスが悪いと思う。
また福岡市天神に本店があるが、この北九州店の方が格上。ここはインドの5つ星ホテル経験者のシェフが3人いて、何回同じコースを頼んでみても毎回違うものが必ず入っているというレパートリーの広さにも驚く。
ちなみに天神の本店では土日に日本では珍しい【マサラドーサ】を提供しているが、これは東京銀座にあるインド料理店「ダルマサーガラ」の方がおススメ。


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 それともう1件。北九州市八幡西区「ベーカリーアンジュ」。
今まで食べたパンの中でもトップクラス。と言うか第1位。一つ一つに魂を込め、まるで高級ケーキのように丁寧に作っている。店内の陳列も美しい。見た目にもこだわったパンが種類ごとに2,3個ずつ大きな半円テーブルにずらりと並べられている。作品を展示しているようなディスプレイだ。自信作の横には価格と商品説明が書かれた値札。大きなトレイにぎっしり並べられたパンを溢れるように盛る一般的な店のやり方とは真逆。客はじっくりとパン一つ一つと対面しながら、「選ぶ」というより「出会う」。オーナー夫婦の情熱を口にするとき、目には見えないこだわりが口の中で予想外の味の展開を引き起こす。もはやパンというジャンルを超えた食感エンターテイメントの世界に引きずり込まれ、感動で思わず顔がほころぶ。


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森が広がる街

 北九州市内を歩いてこの街のすごさを感じるのは、街路樹でも公園の樹々でも、或いは緑地帯でも、必要最低限の剪定だけで、ほとんど切ることはなく、街中でもまるで原生林の中を歩いているかのような気分になれるほど、見事な大きさの樹に成長しているものもある。松の巨木が立ち並ぶ昔の長崎街道がそのままの形で街中で保存されてもいる。市内に何か所もある広い公園も管理が行き届いていて気持ちがいい。公園のトイレが朝からすでに綺麗に清掃されているというのも初めての体験。


桃園公園と市立美術館周辺

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周防灘
瀬戸内海へと舵を切るフェリー

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周防灘とやまえだの浜
誰もいない波音だけの黄昏

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皿倉山山頂より遠く響灘に浮かぶ大島と地島

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 運転マナー

 北九州に来て特に感動したのは運転マナーの良さ。中にはもちろんおかしな運転をするドライバーがいないことはないが、大多数の人たちは運転が穏やかで、信号をきちんと守る。強引な割り込みや乱暴な追い越しが少なく、煽りもなく、車間距離が保たれている。他人を尊重し、譲り合いが至る所にある。だから街中での運転がすごく楽だ。というか驚きである。
最近は全国的にマナーの悪さが深刻化しているが、これだけ人口の多い都市でありながら、マナーがいいというのは驚嘆すべきこと。ネットを調べると福岡県はマナーが悪いことで有名らしいが、実際に走ってみるとそんなことはない。
日本では譲ってくれた時の礼のサインにハザードを1,2回点滅させるのは今では常識的なマナーとなったが、先日近所で若い女性に先を譲ったら、頭を下げて礼をした上にハザードランプが何と5回も点滅。それって「ア・リ・ガ・ト・ウ」の印? とびっくり。普通は2,3回だよね。


皿倉山より北九州市市街

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    庶民の街の夜景

 これらの夜景はいずれも市内皿倉山山頂、標高622メートルからの撮影。
皿倉山という名前の由来は神功皇后の言葉に由来すると伝えられている。この山に登った神功皇后が下山するときには日が暮れていて「更に暮れたり」と言ったことから、この一帯が更暮山または更暗山と呼ばれ、それが更倉山、皿倉山に転じたと言われている。
北側山麓の帆柱登山口からはケーブルカーが敷設されており、9合目付近の山上駅までケーブルカー、山頂までスロープカーに乗り継いで10分で山頂に到達することができる。山頂のパノラマ展望台から視野角200度に広がる夜景は「2020年度新日本三大夜景」の一つに選定されている。
眼下に広がるのは北九州の庶民の街だ。巨大な高層ビル群や観光施設などではなく、人の暮らしの一つ一つが寄り集まって浮かび上がった光の絨毯である。夜風に揺れて星の瞬きのように輝いていた。


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小倉中心街と遠くに門司、左は関門海峡、右手奥は山口県沿岸

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洞海湾と若戸大橋

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 温もりと出会う街

 最後は2年前のラグビーワールドカップ2019の話。今となってはころな禍をまだ知らなかった頃のお伽話のような思い出になってしまったが、その大会の陰で世界的にも有名になったシーンが、この北九州で行われたウェールズ代表の練習風景。
選手たちがピッチに現れると客席にいた15,000人の北九州市民がウェールズ国歌を歌い始め、歓迎の気持ちを表した。ウェールズ人にもこのシーンは感動を与え、日本人に対する意識を変えた。

 北九州に来てから感じる安心感や安堵感というものは、人の心の温もりと出会うことが多いということから生まれるように思う。人と人との心の間合いが微妙に近いにもかかわらず、関係性の中で繰り広げられる裏表、計算、腹の探り合い、そういう面倒なことにあまり気を使わなくて済むといった、オープンでストレートな間合いが楽なのだ。
そういう意味でも、ここ北九州の地は、よそ者にとってもたいへん生きやすい場所ではないかというのが最近思うところである。



Japanese Spectators Sing Welsh National Anthem At Training Session
- Rugby World Cup



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燿
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