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きみの新曲がききたいわ

先日、日比谷野音でPK shampooのライブを見てきた。確かついこの間も「日比谷野音、雨」のツイートがタイムラインに流れてきた気がするのだけど……今回もだった。
開演前がいちばん雨足が強くって、周りみーんなががさごそとレインコートを着はじめて驚く。そっか、こういう時ってレインコートを持参するものなのか。私は野外ライブって今までそんなに行くことがなかったので、そういう手があったことを知らず、雨風をふせげるものがなくてただびっしょびしょになった。

けれど、動じることはない。傘を持たずに雨にうたれるというのは、今まで私の人生で何度も起きてきた。もうお天気にはあらがわず受けとめるスタンスでいるので、どれだけ濡れようと取るに足らない。のんぷろ。
修行僧のように雨にふられるままになってステージのセッティングを眺め、やがて1組目が始まる。晴れた音楽が鳴り、それに応じるように雨が上がった。
みんながレインコートを脱ぎだす。私は濡れたTシャツがゆれ、風が抜けていくのを感じる。そう、雨はぜったいに止む。



PK shampooは京都・大阪出身のバンドだ。新幹線あるいは車などで東京へやってきて、爆音を鳴らして、帰ってゆく。生きざまそのものみたいなライブでの爆発力も、勢いだけじゃない几帳面なコーラスも、ひたすらにお酒のツイートやネットやがらがらした雰囲気の底に垣間見える詩の部分も、一昨年頃に出会ってからいっぺんに好きになった。
ボーカルのヤマトさんはnoteもやっていて、ある記事の文中で「毎日が楽しい」と言っているのを読んだことがある。そういうことばが彼みたいな人から発されるのって、とてつもないエネルギーだ。生きたくなる。
人を魅了する力がある人は、どうか、必要以上に暗い攻撃的なところではなく生きるのが楽しいってなれるようなところに連れてってほしい。ひとりでならいいけど、沼のようなところに純粋な誰かを引きずりこむのは、もはや罪だよ。ひとりごと。


この日のライブも楽しかった。もともと好きな曲はもちろん、新曲が聴けたのが凄く良かった。
新曲ってなじみがないし、歌詞がききとれずにどんな歌かはわからないのだけれど、バンドしかり、YouTuberしかり、コスメショップしかり、コンビニのスイーツしかり、新作を出してくれるのってうれしい。
たとえ過去の作品の方が愛着があって好きだったー、としても、一緒に今を生きてるんだなぁと思えてしまう。いちばん新しいきみの声がききたい。
PK shampooの新曲、たしか、「タクシー」ということばが入っていたな。情報になる前に自分の耳で聴きとれた、収穫だ。



音楽は爆速で、最高をくれる。
いったい、作るひとたちの幾度のねむらない夜が閉じ込められているのだろう、あの一瞬のあいだに。
何人かの知り合いのミュージシャンを思い浮かべる。深夜まで起きていることがわかる午前2時のツイート、しみついてもうとれなそうな目の下の隈、ぶかぶかの上着に落ちた肩、税金、体調不良。
それでも彼らはとてもかっこいい。この世でいちばん。と言いたくなってしまう。

文章と音楽には沢山の効能があると思うけれど、私にとってふたつはかなり違う。
文章は、顔の見えない仲間を見たような気持ち。驚くほど自分の中のもやもやしたものが言語化されているとか、好もしい人間が描かれているような、たいせつな文庫本の重みはいとしい。この星のどこに書き手の彼らがいるのかはわからなくて、でも文章から確かに息づかいを感じられる。どことなく、彼らもひとりでいるもしくは"いた"らしい、という気がする。

音楽は、鼓膜をやぶってここまで救いに来てくれる。あらゆる距離や理屈をそれぞれのラブリーさでぶっ飛ばして。ラブリー。ラブリー。その時の風圧や、鼓動や、涙や希望の温度が、ずっと体感として残っている。学校のトイレの個室でイヤホンをつけた時も、深夜の音楽番組を見る体育座りも、小さなライブハウスで聴いた友人のうたも、ファンとの絆を感じるような先輩アイドルのライブも、すべて。


今の昼の仕事場で働きはじめた頃、色々納得いかなかったり、わりきれずになんだかすごくしんどくて、帰りに渋谷に寄ってサニーデイ・サービス×カネコアヤノさんのライブを見た。
この2組の組み合わせはほんとに晴れで、照らされているのに自然と泣いてしまった。フロアで楽しそうにうごめく客たちを見て、みんなどこにいたの、と思ったりもした。
夜のいきものたち。昼の世界では昼の顔をしているのだろうか。私は昼にお金を稼ぐと決めたくせに、そのしゃんとした世界に馴染みきることは、きっとずっとできないままです。いつか、足抜けできる日を夢に見て。


……自分の好きなところ、特技、考えてもなかなか浮かばないよなと思っていたけれど、ひとつだけあった。
それは一度好きになった曲は周りからもうんざりされるほどそれだけを繰り返し聴き続けて、歌詞を忘れないことだ。
妹や友人が〜♪と軽く歌っている時に、「あっそこの歌詞○○じゃなく●●じゃあ……?」ともどかしくなっていることがまれにある。
それだけだけど、けっこう最高だ。


そんなことを書いていたらウキウキしてきたので、今日はハッカの入浴剤を入れて湯船をはろう。濡れない場所にiPhoneを置いて、なんの音楽を聴こうか。

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