「デザイン、学びのしくみ」海外でデザインはどう教えられているか?(探求演習)
大学院で学ぶ「学習のデザイン」。今回はいまのデザイン教育についての本を紹介します。
「いまの」と前置きを加えたのは、僕が受けていた25年くらい前といまとでは全然違うから、デザインの学習観をアップデートしなければ、と思ってのことです。
今回ご紹介する本はこちら。
アメリカの美術大学Pratt Instituteで、コミュニケーションデザインを教えている日本人デザイナーの方によるものです。
Workshop Study
かつてデザインの仕事は、職人たちの師弟関係の中で培われてきました。ものづくりが行われる場所は「工房」です。工房型の学習環境は、今日でもデザイン系学校で普通にみられる光景です。
ちなみに工業デザインのパイオニアである柳宗理は、工房の中で手を動かして試行錯誤する行為をワークショップという言葉で語っています。本来の意味のワークショップ=工房の方が、僕は好きです。
工房型の学習スタイルは認知的徒弟制の考えがベースになっています。
ただし、工房型も万全ではありません。今日のデザインの対象領域では、理論が必要であったり、複合的な要素を組みあわせていく活動が求めらます。いまの時代に求められる創造性を発揮するには、工房的な制作に加えてプロデューサー的な活動が求められれいるともいえます。
Project, Passion, Peer and Play
こちらは、MIT Media Labのミッチェル・レズニックが提唱した4Pの考えですが、美大ではこの効果が高まる授業設計が意識されています。(レズニックについては以前こちらにも書きました)
Project:PBL学習でも認知されてきましたが、実際のテーマをもとに取り組むことが重要です。講義や課題図書があっても、それは制作のためです。
Passion:何を学べたかは熱意次第です。ただ熱意から始めるより、制作していくうちに熱意が生まれることはよくあります。考えすぎるよりも手を動かすことが大事です。為末大さんは「努力は夢中に勝てない」と言っていますが、その通りだと思います。
Peer:共創という言葉が浸透していますが、自分的にはライバルという存在の方がしっくりきます。僕が学生のとき同級生はライバルでした。「あいつのここはすごいな」とか「驚かせてやろう」といった、切磋琢磨する関係性が新しさを生むのではないかと考えます。
Play:遊びがなければ考えの余白が生まれず創造的にはなりません。遊びは誰に指示されるものでなく勝手にやっていくものです。だから授業では課題のテーマを「やってみたい」と思えるものでなければいけません。
ちなみに、このなかにProfesser は入っていません。学びの主役は学生であり、教師は脇役であり、問いを立てたり足場をかけるなどのサポートする関わり方が、創造的な学びではのぞましいです。
Design Research
あまり馴染みがないかもしれませんが、デザインとリサーチは創造性において右腕と左腕のような関係性です。近い用語ではResearch Analysis Process, Research for Design, Research Through Designなどがあります。
ここでのリサーチは「調査」というより「研究」や「探求」に近い意味合いです。つまり、デザインの創造的な視点を持って対象を探求する活動だといえます。これは、いまのPBLに求められていることそのものです。
Pratt Instituteでは授業の課題にこのようなテーマを出します。
デザインリサーチは、分析と統合の2つで構成されます。分析によって要因が分かるようになり、統合によって解決の切り口を見出します。一般的なリサーチは分析の比重が高めですが、デザインリサーチでは創造的な統合が大切になります。
自分が見てきた中では、特に建築分野では早くから行われており、レム・コールハースが手がけた活動がその代表になります。
欧米系のデザイン大学ではこのような教育がかなり浸透しているように見えますが、日本ではまだ定着していない印象を受けます。
Critique
制作でもデザインリサーチでも授業では講評会(Critique)が行われます。デザインの意図を言語化することは最近のデザインでは必須です。
創造性は視覚表現だけではありません。言葉をあやつる文学も創造的な行為であり、デザイナーにも必要なスキルです。Pratt Instituteでは、文学を読んで論じる授業や、課題図書をしっかり読ませるようにもしています。
ジョン・マエダさんはSTEAM教育を提唱するなかで、AはArt, Liberal Arts, Designの3つで成り立っていると述べています。デザインもデザインだけを学べばよいのではなく、文学やダンスなどの芸術や教養を持たなければ、世の中を多角的にリサーチすることはできません。
講評会では、批評・フィードバック・省察といった思考を通じて、自身の制作内容を言語化するスキルを身につけます。批評と創造性は相反するように見えますが、実は表裏一体の関係性です。
学んだこと
自分が受けた25年くらい前の美術・デザインと比較すると、特にデザインリサーチの活動が昔との違いを象徴していると感じました。
20世紀のデザイン教育は、職人を育成する要素が強かったように思えます。もちろんその中にも、ユニークなアイデアを考えたり、社会の課題を解決する方法を生み出すなど、創造的なアプローチは多く行われていました。ですが、よりLiberal Artsが重要になっている印象を受けます。
この状況をポジティブに捉えると「創造性は学校で学べる」ということができると思います。いままで芸術やデザインはスタンダードな学習とは別物、というレッテルがありましたが、2000年以降から壁は溶けはじめました。この時代にデザイナーが学校教育で関われることは多くあるはずです。
今日はここまでです。