BIG中編04

B.I.G、知ってる?〜その2:センスメイキング、ほかの本から

前回はBIGとは何者かということを書きましたので、今回はBIGが建築プランを提案するまでのリサーチについて書かれた本をいくつか集めてみました。

1.時計メーカーの博物館

センスメイキング01

センスメイキング 本当に重要なものを見極める力
クリスチャン・マスビアウ(著)、斎藤栄一郎(訳)
プレジデント社 2018.11

この本は、理詰めで無理やり問題点を切り取るようなデザイン思考のやり方ではなく、ありのままに印象を取り込んで文化や文脈を読み解くことが大切であることの事例としてBIGのアプローチが紹介されています。

スイスの時計メーカーの博物館のプロジェクトで、彼は現地を訪れて、そこで働いている人の話を聞いたり、職人の仕事ぶりを視察しました。その中から特にゼンマイに関する話に魅了されました。そこである時に彼は次のように考えました。

時計づくりでは、建築と同様に、デザイン自体あるいはフォルム自体が大事な"中身"なのだと突然理解できたのです。

そこからアイデアを着想し、ゼンマイをメタファーに二重螺旋の構造を建築全体に取り入れました。螺旋の通路を歩くことで時計の動力を蓄える構造を感じてもらう、というのが意図です。時計にまつわる文化や文脈を、理屈ではなく、取り込むように感じることから生み出された結果です。

2.Form Giving展

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AXIS Magazine Vol.202 クルマ2030
2019.11

デザイン系の雑誌としてよく知られているAXISですが、11月の特集の1つにデンマークで開催されている『Form Giving』展に関するインタビューが紹介されていました。詳しい内容はこちら。

https://dac.dk/en/exhibitions/formgiving-big/

ここでは、ノルウェーの美術館が事例で紹介されていましたが、内容は時計メーカーと共通して、現地を感じることから話がされています。建設する場所ば元は製材所であったこと、橋のように川の上に建物を建てることから、伸縮性のある素材で、かつ博物館の中にも森林を再現したいという想いから、木材を使うのは必然という考えにいたり設計しました。

このストーリーで特に惹かれたのは、機能性や合理性だけでなく「来場者が森林を感じられるようにしたいから木材を使用した」という観点です。

そしてForm Givingの話になりますが、これは単に「形を与える」だけではなく「未知で定まらないことから何かをつくること」という意味合いが含まれているということです。

なので、算数の問題のように式に数字が書かれていれば答えがでるというものではなく、数字が当てはまっていなかったり、足すのか割るのかもわからない状況の中でも、何かをつくってみるような取り組みです。こう書くとクリエイティブの基本のように思えるけど、メソッドやフレームワーク先行のデザイン思考をやっていると忘れられがちなことです。

3. 公園のような道のような広場

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公共R不動産のプロジェクトスタディ
馬場正尊、ほか
2018.06

3つめの事例は『スーパーキーレン』といわれる、コペンハーゲンの中心部にある道のように長い公園です。R不動産の公共プロジェクトをまとめた本の中の一例にBIGの取り組みが紹介されていました。

この公園は〜らしさという一貫したものがありません。例えば、遊具もいろいろ(日本の遊具もあれば、ボクシングの練習スペースもある)で、憩いの過ごし方も元気に遊ぶエリアもあれば、ゆっくりをおしゃべりをするエリアなど、いろいろです。

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なぜこうなっているかというと、この周辺に住む人たちは国籍がいろいろな移民が多いからです。イスラム圏の人もいればロシア圏の人もいればアジア圏の人もいる。そういった人たちが集まって過ごすことができる公園とは?ということを考え、地域住民に様々な機会を通して話を聞き、多国籍的な遊具や空間ができています。敷地の仕切りがなくオープンになっているのも、誰にでも気軽に入れることを意図しています(治安も悪くならない)。

クリエイティブに関わる人は、何か1つのスタイルをつくろうとしてしまいがちです。でもこの公園ではそういった要素が見られず、地域の人に受け入れられているのは、無理やり何かにまとめるのではなく、リサーチで得たことを自然にカタチに表した結果だからなのだと思います。

ちなみにこの本は、何かのスタイルにこだわらず公共空間の新しい取り組みをしている活動を紹介していて、おすすめです。感想はこちら。

まとめ:リサーチとは何か

3つのリサーチに関するケーススタディを整理してみました。一般的にいわれるリサーチとは異なる点がいくつかあるのでまとめてみます。

1. 答えを探すのではなく取り込む
2. リサーチで無理に結論を出さない
3. アイデアの着想のためにリサーチする

まず1について。よくあるリサーチでは、事前にあたりをつけて証明するために現場で見聞きする、という方法がとられることがあります。でもBIGは何があるかわからないのを宝探しをするような姿勢で取り組んでいます。あたりをつけることは効率性はいいかもしれないけど、予想外のことには出会わない。

2つめ。一言でまとまるキレイな結論は、背景や文脈などが抜け落ちてしまいがちです。でも実際の現地の情報はもっと複雑で簡単ではないことがよくあるので、すぐに結論を出そうとするのは危険です。例えば名作といわれる映画は観れば観るほど新しいことに気づく、そんな感覚。そういった削ぎ落とさないリサーチをBIGは実践しています。

3つめ。これがクリエイティブにとって最も大事なことだと思いますが、リサーチはアイデアのためという視点です。仮説を検証するリサーチは例えば、ユーザーテストやユーザビリティの確認などでは効果的ですが、ここでのリサーチはヒントを発見をするためのリサーチなので、目的が全然違います。そして、このリサーチはクリエイティブが伴うので、ルールに則ってやればできるものではなく、観る人の知識や発想が問われます。僕はここにリサーチにクリエイティブが欠かせない理由があると考えます。

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以上が今回のまとめです。確かめるためのリサーチではなくクリエイティブのためのリサーチということが、BIGの実践を通して理解できました。

これまで2回は、他者がインタビューをしたり考察した情報をもとにまとめてみましたが、次回は本人が考えていることの情報から、もう少し深く考察してみたいと思います。

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読書感想文

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。