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ストラテジー実践に役立つファクトフルネステクニック:FACTFULLNESS

いまさらながらのFACTFULLNESS。

今年の1月に出て大きく話題になったから、もう読み終わっている人も多いかと思います。なので全体的なまとめは省略して、デザイン・ストラテジーの観点から学びになったことだけをピンポイントで紹介します。

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FACTFULLNESS
ハンス・ロスリング(著)ほか、上杉周作、関美和(訳)
日経BP社 2019.01

それでもまだ読んでない人のために概要だけをサッと書くと、人はつい、実際には境界線がないのに物事を分断して考えたり、いつまでも続く確証はないのに未来を今の直線上で考えたりと、10個の誤った人の思い込みで世の中を間違って見ている、という内容です。(雑すぎる)

僕がこの本を面白く読めたのは、10の思い込みを説明するための事例が、どれもリアリティや人間味を感じさせる内容だったからです。理屈で考えていても実際には感覚的に理解できていない、ということに多くの人が共感したことが人気の理由なのではと思っています。

その中から、グッときてかつ学びになった3つを紹介します。

80:20ルール

『人は物事をつい過大視してしまう』という思い込みへの事例です。下の絵のように、例えば学校や会社で10個の議題が一度に並べられたら、たくさんあって大変に見えます。だけどよく見ると(斜めから見ると)大事なのはそのうちの2つくらいで、それを対処すれば8割が解決できる、といったようなことはよくありますよね。

本の中では筆者の医師としての経験から、より多くの命を助けるために目先だけに囚われず、何が問題かを見極めるというエピソードの紹介で、現場重視の人からはそういった考えは非難されました。これ、仕事でもよくあることだと思います。それでも正しいと信じてやりとげることができるか。

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僕が関わっているデザインの分野でも、デザインで最も効果を発揮できる領域はどこか?を見極める眼は大切です。海外に負けている日本企業のデザインはこの視点が弱いことが理由にあると考えます。なぜなら日本のディテールのデザインスキルはかなり高いので。

なので、僕はストラテジーという立場からデザインを考えることに価値があると思っています。なかなかデザイナーにも理解してもらいにくいので、風あたりも強いけれど、負けないぞ、と。

現実を観察する

『現場に行くことの大切さ』を教えてくれる、モザンビーク元首相のパスコアル・モクンビの言葉を本書から引用します。

...「でも、数字が間違っていることもある。だから毎年メイデーのお祭りをしっかり観察することにするのさ。モザンビーク最大のお祭りだからね。市民の足元を見て、どんな靴を履いているかを観察するんだ。お祭りの日には、みんなめかし込んで出かける。友達の靴を借りたりできない。友達もおしゃれして祭りに繰り出すからね。だからいつもじっと足元を見ているんだ。裸足か、ボロ靴か、それともいい靴を履いているか。それで前の年と比べてみる」
(FACTFULLNESS P.247 より)

この説得力。現場観察やエスノグラフィーを、誰よりも適確に体現している言葉です。

特に「なるほど」と思ったのは、漠然と見るのではなく何を指標の対象にするか、ということと、定点観測をするということです。定性リサーチはさもすると主観要素が強くなりがちなので、比較での評価が行える軸や指標をつくることは、思い込みに囚われないために重要だと思いました。

もう一つ、現場に関わるストーリーでの一節を引用します。

...だが、この計画は大失敗に終わる。村人を怒らせてしまったのだ。さまざまな病気を抱えて、いますぐに助けが必要な村人たちのところに、待ち望んだ医師と看護師を乗せたバスがやってきた。それなのに医師たちは骨折を治療してくれるわけでも、下痢で死にそうな人に水分を補給するわけでも、出産を助けるわけでもなく、聞いたことのない病気の検査のためにレントゲンを撮ろうとした。
(FACTFULLNESS P.248 より)

相手の立場になれば当然のことですが、合理性だけでは現実の物事は動かないことを象徴しています。でもそれに気づかずに実行してしまうことは、自分にもあるかもしれません。客観的な分析や理想論だけではなく、目の前の現実から目を背けないこともFACTFULLNESSの実践では大切なことです。

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切り取り方に注意

コップの中にある水に「もう半分しかない」なのか「まだ半分もある」なのかで、同じことを言っても印象が180度変わる有名な例があります。

それをこの本では、キューバを例に「貧乏人のなかで一番健康な国」なのか「健康な人のなかで一番貧乏な国」なのか、線の引き方を変えるだけで感じ方がガラッと変わることを示しています。

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デザインの説明でも、伝え方の工夫は時として強力ですが、意図的にやりすぎると印象操作になってしまうし、本来はありのままの状態を見てもらうのが、いちばん理想のはずです。本当にいいデザインなら無理にねじまげたストーリーをつくる必要はないはずなので心がけたいところです。(きっと優れた意思決定者には見透かされる場合が多いので)

・・・・・

という感じで、グッときた3つをご紹介しました。

デザイナーでもグラフや数字を読めたり扱えるようになるのは大切、でもビジュアル表現やカテゴリ整理などに惑わされずに、正しい情報のとり方ができるように訓練していきたいと思います。

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まだ読んでいない人はぜひ。


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読書感想文

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。