任天堂_人物01

任天堂のUX研究・人物編:任天堂”驚き”を生む方程式、他

世界を代表するゲーム会社、任天堂。

最近、『岩田さん』という本が出て人気ですが、任天堂はただ革新的なだけではなく、ゲームを生活文化の中に根付かせる、何と言うか人となりが感じられる会社だと思います。

そこで任天堂に関する本を読んでみましたが、これもまた1つの記事には収まらなかったので、人物編・ゲーム機編・ゲームソフト編の3つに分けて、デザイン面でのユーザーの心をつかむための気づきと、ストラテジー面でのビジネスとしての気づきをまとめてみたいと思います。

全体像を一番把握できたのはこの本です。

任天堂”驚き”を生む方程式
井上理
日本経済新聞出版社 2009.05

任天堂は秘密が多い中、海外の目で書かれていた内容が意外とディテールまで描かれていて学びになりました。

ニンテンドー・イン・アメリカ 世界を制した脅威の想像力
ジェフ・ライアン(著)、林田陽子(訳)
早川書房 2011.12

まず今回は人物編です。

任天堂に勤めている知人が言うには「開発者はめちゃくちゃすごい人たち」ということです。なので社員全体の層の厚さが任天堂の強みなのだとは思うけど、ここでは語る上で欠かせない3人を取り上げます。

岩田聡

任天堂4代目社長でニンテンドーDSやwiiで任天堂を復活させた人。元はHAL研究所でファミコンのソフトをつくっていたプログラマでもあり、ファミコンのゴルフ、MOTHER2、星のカービイ、ポケットモンスターなどに携わり、任天堂の社長後も脳トレなどで、新しい層にゲームの楽しさを届けた。

有名な発言の1つに「肩書きは社長、頭の中はゲーム開発者、心はゲーマーです。」といっているように、3つの視点を持つ稀有な人です。社長就任時にプレステとのスペック競争に巻き込まれていた状況の中、DSやwiiで新境地を切り開いたことは、このように置き換えられます。

・社長=経営視点:ゲーム人口を増やす(一部のマニアではないゲームを)
・ゲーム開発者=現場視点:ソフトの開発期間と費用がかからない設計
・ゲーマー=ユーザー視点:1ゲームファンとして自分が欲しいものを

社員に社長自らインタビューをしてホームページに掲載されたのも、当時は話題になりました。社長なのに現場のことを本当によく知っているのも3つの目を持っていることが理由だといえます。欧米型とは違う、日本が誇るべきリーダーだと思います。

noteに書かれていた「岩田さん」の本の書評に引き込まれたのがキッカケで、ゲームだけでなく任天堂の人に注目してみたいと思いました。

宮本茂

ご存知、マリオを生み出した人であり、今日のゲームの基本作法を定めた伝説のゲームクリエイター。1つの成功に満足せず、ドンキーコング、ゼルダの伝説シリーズ、F-ZERO、マリオカート、どうぶつの森、wii Fitなど、ジャンルが幅広いのが興味深い点。

宮本さんが関わるゲームに共通しているのは分かりやすさ。学習しながらプレイして楽しさを感じるゲームづくりは、あまりにも有名です。例えばドンキーコングだったら、

1. 女性がつかまってる → 助けないと
2. 敵が樽をなげてくる → ジャンプでかわせる
3. はしごのぼれる → かわしながらたどり着けばクリアできる

というような作法はswitchのマリオやゼルダでも同様。

世界観やストーリーは自然とできてくる、というのも任天堂のゲームの特徴です。なんで主人公がおっさんなのか(ドット絵で表現しやすい絵と工事現場のシーンだったから)とか、クリボーって何だ(踏まれることを想起させる敵)とかの意味は重要でなく、でもこの何だかよくわからないカオスな設定がまた面白く感じさせるところです。

犬の散歩での気づきから、あまりゲームをしない妻に「これなら敵が出てこないよ」といって『nintendogs』を生み出したり、運動をはじめたら「健康的になるのはおもしろい」という視点で出てきたwii Fitなど、生活の中での気づきを取り入れてるところもすごい。(世界的に有名な人なのに1市民としての庶民感があるのも、海外にはいない日本ならでは)

宮本さんと岩田さんが仲良く話をしているこの記事は涙もの。

横井軍平

古くはウルトラハンドや光線銃などのおもちゃから、ゲームウォッチでは十字キーを発明した人であり、最新の技術でなくても普及させたゲームボーイなどを世に出した人。僕は本を読むまでしらなかったけれど、宮本茂が師匠と仰ぐ、任天堂のゲーム創世記を支えた人です。

横井さんは「こんな使い方があったのか!」と驚かせる "枯れた技術の水平思考" の考えを任天堂に根付かせた立役者でもあります。

・枯れた技術=手に入りやすい価格で使い方も知られている
・水平思考=ユーザーに大事なのは新しさでなく面白い(応用)こと

スペック追求ではないDSやwiiのヒットはこの "枯れた技術の水平思考" につながっていると言われていますし、SWITCHのカメラや振動などが内蔵されたジョイコンもそうだといえます。

横井さんについて書かれた本はこちら。

ゲームの父・横井軍平伝 任天堂のDNAを創造した男
牧野武文
角川書店 2010.06

他にもすごい人はたくさん

・山内溥:3代目社長、上の3人の才能を見出したカリスマ経営者
・上村雅之:ファミコンのゲーム機を開発した人
・竹田玄洋:3Dスティックやwiiリモコンを開発したゲーム機の開発責任者
・手塚卓志:宮本茂と肩をならべる名ゲームクリエイター
・近藤 浩治:マリオなどの音楽を作ったサウンドデザイナー

まとめ

任天堂で働いている人がすごいと思うのは2つ。1つ目はみんな長く勤めていること。伝説の人でありながら今も現場の前線で開発しているし、これだけの成功を収めているのに、みんな任天堂に居続けています。2つ目は成功体験におぼれず、新しいことにどんどん挑戦していること。上にあげた人たちは代表的なものを1つではなく、いくつも持っています。

これらは会社員だからこその強みだと考えます。

宮本さんいわく、任天堂にいるのは「研究開発費を惜しみなく使えること」「承認手続きの手間なく開発に専念できる」かららしく、開発者にとっての環境がサポートされていることがまずあげられます。従業員が働きやすいという会社はたくさんあるけど、本当の働きやすさは仕組みもともなっていることが大事だと気付かされます。

もう1つはやっぱりカルチャーだと思います。1人で続けるのはどこかに幅の限界があるけど、組織でやっているからこそ新しい視点が得られるし、失敗を許容しあえる仲間がいる。その仲間と切磋琢磨できる環境が自ずと任天堂のカルチャーをつくりあげたのではないかと思います。その根底にあるのは、きっと自分たちのつくるゲームが好きで会社が好きなんでしょうね。

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次回はゲーム機に注目してみたいと思います。技術的な視点で見ていくと、これまでとは少し違ったことの気づきが得られました。




デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。