Designship2022に登壇してみた
11月12日にdesignship2022でお話した内容を、こちらに共有します。
カテゴリとか肩書きにとらわれず、自分がこれまでデザインで取り組んだり考えたことを整理する機会にもなりました。どうぞご覧ください。
1.はじめに
こんにちは、中島です。
モノとデジタルのデザインについて、お話しします。
僕はデザイナーとして仕事をはじめて、今年で20年になります。そのうち最初の10年はモノのデザインに、後半の10年はサービスやデジタルのデザインに関わっています。
今年のはじめまではタイガースパイクという名前で、いまはコンセントリクス・カタリストという(舌をかみそうな名前の)会社にいて、UXデザイナーとして色々な業界の会社の方と一緒にお仕事をしています。
今日は会社の仕事ではなく、僕個人の取り組みについてお話しします。
2.プロダクトデザイン
僕の主な領域は、モノとデジタルという違いはあっても、プロダクトデザインです。ですが、この2つには大きな溝があります。
自己紹介で「プロダクトデザイナーです」といわれたら「どっちの方のプロダクトデザイナー?」と思う人は多いと思います。
ここ、ずっと自分の中で悩んでいるところです。正直に言うと、僕はどっちも中途半端な人間なので、このままでいいのだろうかと考えたりもします。
3.モノとデジタルが分かれる理由
そもそもどうして、モノとデジタルのデザインが分かれているのか。
両方関わってみて分かったのは、お互いの意識がすごく、それぞれのビジネスの専門性に特化しているということです。
最終的にどちらも目に見えるものであっても、カタチをつくるスキルと、情報を構造化するスキルは別物。使っているツール・ソフトも違う。量産のためのつくりか、運用しやすさのためのつくりか、といった観点も違う。関わる部門や用語や言葉づかいもずいぶんと違います。
お互いがそれぞれ専門性に特化しているから、領域をまたいで取り組む敷居が高く感じてしまいます。 その結果、モノとデジタルのデザイナーが交わる機会も自然と減っていきます。
4.デザインの評価
もう少し、図で整理してみましょう。(後半に具体例が出てくるので、もう少しだけ抽象的な説明にお付き合いください)
デザインを起点に、上から下にモノとデジタルにデザインが分かれます。
その先のビジネス領域によって、それぞれのデザインで求められる専門性もより細かく分かれていきます。モノの中でも、自動車と家電と家具で専門性が違ったり、デジタルの中でも、スマホのアプリ画面とサービスの管理画面でも専門性が違ったりします。
ここで気を付けたいのは、 1つのビジネス領域からデザインを見ると、 デザインに求められることが、そのビジネス領域の中に閉じてしまいがちになってしまいます。
例えば一方はパーツ点数が減らせることがよいデザインだったり、もう一方ではPV数を上げることがよいデザインだったり。どちらもデザインによる効果であっても、それだけだとモノとデジタルの共通点がなくなってしまいます。
ビジネスのうえではそれも大切ですが、例えば、ずっと語り継がれているデザインが、なぜよいと言われるかを考えてみると、 社会がより良くなったとか、暮らしとかライフスタイルがどう変わったとか、 人々の価値観にどんな影響を与えたとか、などです。
デザインがモノ・デジタルを問わずカテゴリーを超えてわかちあえるのは、そういうことではないかと考えます。
20年前よりデザイナーが関われる領域はすごく増えました。でもそれによって、各ビジネス領域の中にデザインが閉じてしまっている傾向は、以前よりも強まっていると思います。
5.デザインの汎用性を見直す
各ビジネス領域の専門性に閉じていることが課題なら、その逆のデザインの汎用性を見直すことが大事ではないかと、僕は考えます。
ここで言うデザインの汎用性とは、 どんなデザインのカテゴリにも応用できるスキルだったり感覚のことを意味しています。
ここでは、僕が大事にしている汎用性を3つほど紹介します。
5.手で書いてみること
1つめは手で書いてみること、いわゆる可視化です。
僕は手書きを大事にしています。グラフィック・モノ・空間・画面UIなど。手で書けば、デザインを考えるときにソフトを使い分けることはなくなります。
カタチに表れないものでも、事業戦略でもサービスのながれでも図で整理したり、ミーティング中にも書いて議論を可視化します。右下は子どもに勉強を教えたときのメモです。
本を読むのが好きなのですが、書いて本の理解を深めようと思って、絵日記のように読書感想を可視化して、 習慣的にnoteに上げていました。
そんな流れから昨年、縁あって本を出す機会もいただきました。
行動経済学という、ちょっと難しそうな内容をデザインに活用するために絵や図で可視化してみました。汎用的なスキルが専門領域に限定されず1つのモノになった例です。
書いてみる意味とは、考えを外に出して見えるようにすること、というデザインの語源そのものです。絵が上手い上手くないはあまり関係ないし、ツールが発達した今、可視化の手段はなんでもよいと思います。
大事なのは、カテゴリを限定せずに書く表現方法を持っておくことです。 どんな分野でも考えを可視化して出せれば、そこから議論や検討を進めることができます。 可視化にモノかデジタルの差はありません。
6.自分でつくってみること
2つめは、なるべく自分でつくってみることです。20年前にみた雑誌に書かれていた「Design It Yourself」というフレーズが気に入っていて、できる限り1人でやってみることを心がけています。
例えば、最近はiPadを使って手で書きますが、安定しないので自分で台をつくってみました。
他にも自分で使うモノ、家具だったり、建築模型だったり、子どもに向けた道具など、仕事以外でもデザインできる機会を見つけています。
この本も「行動経済学をデザインに活かすとしたら」というテーマを自身のプロジェクトにして、 レポートを自分なりにDesign It Yourselfしてみた結果のアウトプットです。
ただ、本だけでは表現できなかったこともあるので、今年はカードツールをつくってみました。
僕のいまの主領域はデジタルなので、本当はアプリなどをつくるのがよいのでしょうけど、モノであれデジタルであれ、基となるものはどちらにも活かせるデザインです。
こうやって何かをデザインしてみると、アイデアだけではなく、つくるための図面的な情報が必要になります。版下データ・設計図・3C-CAD・ワイヤーフレーム・プロダクトバックログなど、表現方法は違ってはきますが、要点は共通していると思います。
この「図面を書く感覚」が、モノでもデジタルでも、プロダクトデザイナーとして大切だと思っています。
実際のプロダクト開発はデザイナー1人だけではできません。 だからこそ自分で一度試してみて、つくるための会話ができるために、伝え方のコツがわかる汎用的な「図面」の表現方法を持くことが、具体的なプロダクトにつなげていくことにつながると考えます。これも、モノとデジタルを問わずに共通することです。
7.一歩引いてみること
3つめは一歩引いてみることです。
ここでもう一度、僕の経歴の話をさせてください。
ぼくはモノのデザインから入りましたが、実は割と早い段階でカタチそのものをつくることに興味が持てなくなりました。当時はすごく悩んで、別の仕事も模索しましたが、当時はユニバーサルデザインという考え方が注目された時期でもあって、使いやすさからカタチを関わってみることにしました。そうしてみると今までと違った視点でモノのカタチに対する好奇心が生まれました。
そのうち人間工学やユーザビリティなど、リサーチ的な関わりが一時期、僕の仕事の中心になっていました。その流れでデジタルのデザインも、使いやすさの観点から少しづつソフトウェアに触れるようになりました。
次第に、使いやすさからユーザー体験に広がって、デジタルやサービスの仕事にも馴染んでいきました。ただ、自分にとってはUXはデジタルだけでなく、どちらにも共通するものです。
体験からプロダクトに関わっていると 、次第にモノや画面内だけでは解決できないことがたくさんあることに気づいて、ビジネスとデザインをつなぐことに関心を持ち、デザインストラテジーを自分なりに探索してみました。
そして、先ほどお話しした2つはずっと続けていたことです。
そうして今は、事業戦略を考えたり、使いやすさのリサーチをしたり、構成やカタチをつくったり、 結果、肩書きに捉われずに、プロダクトに関する色んなことができるようになれたし、モノやデジタルを問わず、たくさんのビジネス領域に関われるようになりました。
振り返ってみると、ユニバーサルデザイン、UX、デザイン・ストラテジーなど、プロダクトそのものから一歩引いた立場で関わったことによってプロダクトの見方が変わりました。
その結果、領域をあまり意識せずに、モノとデジタルを分けずに取り組める機会が得られたのだと思います。
8.汎用性を見直す
以上が僕の経験です。
みなさんにお伝えしたいのは、1つのビジネス領域に求められる専門性だけでなく(専門性の方が魅力的に見えますが) デザインの汎用的な表現方法や考え方を日頃から意識しておくと、 領域を分けずに関われる機会が見つけられる、ということです。
僕の場合はこの3つが、モノとデジタルを分けずに取り組めたことにつながっています。みなさんも、自分が興味あること、得意なこと、好きで楽しいことから、自分なりのデザインの汎用性を見つけてみてください。
9.さいごに
今日のお話をまとめます。
なぜ、モノとデジタルのデザインは分かれてしまうのか?それは、ビジネス領域のなかで求められる専門スキルや言葉の世界が違うからです。
1つの領域だけに閉じてしまう状態は要注意です。
そうすると、デザインの意識が特定のビジネス領域の範囲だけになってしまいます。
でもデザイナーの役割は、ビジネスの経済効果だけでなく、人々の生活習慣やモノゴトに対する価値観など、社会や文化などに関われる、素晴らしい職業だと思っています。
だから、手で書いてみたり、自分でつくってみたり、一歩引いて探索し続けてみるといった、 モノやデジタルのどちらにも活かせるデザインの汎用的なスキルを見直してみましょう。
そうすると、10年後に今はまだない新しいビジネス領域のデザインが出てきても、分野を限定しないでデザインができると思います。
そうすれば、会社に縛られることもないし、自分の取り組みが会社を変えることだってできるはずです。
モノかデジタルかに捉われず、もっと自由にデザインをしていきましょう。 ありがとうございました。
以上となります。Designship運営の方、ジャンルを問わずいろんなデザイナーが集まる場の機会をいただき、ありがとうございました。
そして、一緒に参加されたスピーカーの方々からも、たくさんの刺激をいただき、仕事の領域だけではないデザインそのものを見つめ直すキッカケになりました。ありがとうございます。
参加いただいた方とも、何かでご縁があればと思います。一緒に楽しくデザインを取り組んでいきましょう。
参考までに会社のnoteもご紹介します。割と実務的な内容多めですが、モノ・デジタルを分けずにデザインに関わっています。一緒にはたらく仲間も募集していますので、ご興味ある方お声がけください。(11/14時点)
デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。