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後からジワる、映画「憐れみの3章」が描く支配と依存

ヨルゴス・ランティモス監督の最新作「憐れみの3章」を観てきました。
前作の「哀れなるものたち」では、人工的に蘇生させられた主人公女性が、自立の過程と共に父親・恋人・元夫の庇護・束縛・支配から力強く解放される姿が描かれていましたが、今作は支配されることに安住する人々に焦点が当てられていました。

観終わった直後は消化不良で、今回はハズしたかと思いました。
ですが、帰り道に考えているうちに頭が整理されてきて、家に着く頃には、ランティモス監督、今回も目の付け所がシャープだったなと考えを改めていました。

第1章は「職場」が舞台。
傲慢な上司との愛人関係にある主人公のエリート男性は、妻との結婚や子供を持たないことなど生活の全てを上司にコントロールされている。ある日、人の命に関わる要求を無茶ぶりされさすがに断る。上司には絶縁され、真実を告白した妻には愛想を尽かされる。ついに孤独に耐えられなくなり、命令に従い再び上司に受け容れられ喜びに浸る。
⇒恋愛感情が支配力になっていますが、職場の雰囲気に適応することや上司や会社に認められることが生きがいになる状況を表しているのかなと感じました。

第2章は「家庭」が舞台。
警察官の主人公男性は、海難事故に遭った海洋生物学者の妻の安否を心配する日々を送る。妻は無事帰還したが、過酷なサバイバル生活の影響か嫌いだったチョコレートをもりもり食べたり靴がきつくなったりしているのを見て彼女が偽物だと疑う。挙句の果てには猟奇的な要求をし始めるが、彼女はそれに従順に応え最後には命を落とす。それを見届けた男性は(妄想の中で)本物の妻を取り戻す。
⇒男性は自分の中にある妻に執着し、小さな変化も許さなかった。家庭内の支配関係に限らず恋愛関係でもあることだと思います。「蛙化現象」とか流行語になりましたよね。

第3章は「宗教団体」が舞台。
カルト宗教に信心する主人公女性は、科学的根拠のない規律に反したとされ破門にされる。自分の居場所を失ったことで、かねてより教団から課せられていた死人を蘇らせる超能力を持つ女性を探し出す任務を遂行することで、元に戻してもらおうと必死になる。
⇒最後は宗教やイデオロギーによる支配関係。昨今の戦争のことも揶揄していそうです。

映画はユーリズミックス名曲「Sweet Dreams」で始まります。
サビの歌詞にこの映画の主題が集約されている気がします。

あなたを利用したい人がいる
あなたに利用されたい人がいる
あなたを苦しめたい人がいる
あなたに苦しめられたい人がいる
Musique Non Stopより引用)

誰かや組織(または自分の思い込み)に支配されていることに安心感を覚える状況って普通に考えると随分クレイジーなことですよね。ですがこの映画を観たら、意外と現実社会に多く存在することなのではないかと思うようになりました。自分自身も自覚がないだけでそういうところがあるのかもしれません。

やはりランティモス監督は鋭いです。観た後に心に爪痕を残す作品です。
たくさんネタバレしてしまいましたが、既にご覧になった方、これから観られる方がさらに考察を深めるフックになれば嬉しいです。

トップ画像・出典:https://www.searchlightpictures.jp/movies/kindsofkindness


最後までお読みいただき、ありがとうございました。(o^∇^)ノ

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