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散文日誌 「種々雑多」 2021/6/7

私は空間把握能力が低い。昔からそうだ。鏡を見ても、どっちが奥?どっちが手前?か良く分からない。何回か動かして見て「ああ、自分の立ってる方向に持ってくれば奥に行くし、手を伸ばせば鏡の方向、すなわち手前に行くのだな」と分かる。院試が終わった後、指導教官に言われた言葉が、今も忘れられない。「お前は空間把握能力がないな?」。

理工学研究科、特に建築学等を研究する人間にとって、空間把握能力が著しく低いのは致命的である。なぜなら、空間そのものをデザインする学問だからだ。私が所属していたのは人工生命(コンピュータの中で遺伝的アルゴリズムを使って、生物進化の過程や生物代謝のシミュレーションを行う。初期のAI研究にはUNIXなどでシミュレータを動かし、プログラムがそれ自身を「進化」させる過程を数値化して結果を出していた)研究室だったので、それほど空間把握能力がなくても、PCをそこそこ触れれさえすれば、何とかなった。

以前も話したと思うが、私自身、元々文科系の大学(英語英米文学科)に通い卒業して文学士の学士号を授与された。しかし、卒業後の進路が全く決まっていなかったので、親類の伝を頼り、当該研究室に研究生として入った。そして院試を受け理科系に転向したので、理工学系用語など、分からない事が多かった。宇宙人が地球に来て、言葉を覚えようとするような感覚だ。まあ、理論物理とか、記号論とか、そんな本を読んでも当然何のこっちゃ分からん。知ってるのはDNAの転写⇒翻訳⇒活性タンパクの生成(注1)と、アンチコドン表(注2)元素の周期表(注3)アミノ酸の名称と化学構造式(注4)くらいなもの。本当に興味のある事ばかりしか勉強していなかったのだ。そういう法則のあるモノが本当に好きだったのだ。なのに何故かプログラムは全く組めなかった。全体的な事は分かるけど、それを要素に分解する時点で、思考が止まってしまうのだ。コンピュータの空間の中でどういう順序でそれらを組み立てるのか?結局分からず仕舞いのまま修了して、終了してしまった。

ちょっと話が外れてしまったので、空間把握能力の話に戻ろう。空間把握能力は、日常生活では特に自動車の運転に影響するだろう。例えば、前の車と、どのくらい距離をとったらよいのか?どの辺りでブレーキを掛ければ、ちょうどよい車間止まれるのだろうか?という事である。そんな私が免許を取ったのは、その研究室にいた頃(約20年前)だったので、まだ発達障害、ADHDだということは全く分からなかった。それが幸いして自動車学校に通えていたのだった。しかし、やっぱりここでも、私はなかなか次の教習に進めなかったり、おちこぼれだった。他の人はすんなり仮免とって、路上教習に出て路上教習に合格して試験場に行くのに…。

漸く場内の試験に合格して、いざ路上教習を受けている時も、私は注意力が散漫だったり、スピード出し過ぎたりと、指導教官に注意されてばかりだった。卒業試験も、慎重にやっていたつもりが、場内に着いて後少しで完璧だ!というのに、最後の最後で脱輪して不合格になってしまった。

最後の最後で脱輪するということは、すなわち、空間把握能力が「いまいち」だからなのだ。何でもそうだが、私の場合は、ほぼ「終わり良ければ全てよし」とはならない。そういう人生を歩むように出来ているのかな?と思う事はしばしば。失敗がなければ何も学べないといわれたけれど、その失敗でさえも忘れてしまい、同じミスを繰り返す。それこそ自分が、やむなく転職せざるを得ない理由のひとつなのだろう。

しかし、ADHDの私に、同じミスを繰り返すなというのは、本当に酷な話なのである。周りのサポートがもう少しあれば、社会の空間把握能力も上がるんじゃないかなと思ってみたりもするのだが…。何せ、周りの不勉強さがあまりにも酷くてね…。困ったものだよ、本当に。

注1

細胞核内に格納されているDNAには、その個体の体を作る情報が全て入っている(その情報の総体が「ゲノム(Genome)」)。そのため、外への持ち出しが出来ない。そこで、DNAに良く似た分子であるmRNA(伝令リボ核酸)に必要な情報を「コピー」して、リボソームという「装置」のなかで、tRNA(転移リボ核酸)により、アミノ酸の配列に変換される。アミノ酸の長い鎖に変換されたDNAの情報は、タンパク質となり、適宜然るべき場所で活性化される。
詳しい事は、下記Wikipedia参照。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%AA%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%9C%E6%A0%B8%E9%85%B8#:~:text=%E3%83%87%E3%82%AA%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%9C%E6%A0%B8%E9%85%B8%EF%BC%88%E3%83%87%E3%82%AA%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%9C%E3%81%8B%E3%81%8F%E3%81%95%E3%82%93,%E5%88%86%E5%AD%90%E7%94%9F%E4%BD%93%E7%89%A9%E8%B3%AA%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82

注2

アンチコドン表とは、mRNAの情報をアミノ酸に変換するために必要な暗号解読表のこと。下記にその一例を図示する。

画像1

注3

元素の周期表の一例を下記に示す。

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注4

アミノ酸の構造式および化学式の一例を下記に示す。なお、アミノ酸の名称は、注2の「アンチコドン表」を参照のこと。

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