見出し画像

「世の中を良くする不快のデザイン展」を終えて #04 デザイナー・江口光希のつぶやき

この度は、「世の中を良くする 不快のデザイン展」に興味を持ってくださり、また本コラムを読んでいただきありがとうございます。デザインを担当した江口です。

クリエーティブディレクターの中沢さん、アートディレクターの浅岡さんのもと、デザインの検証をしたり、展示内容の挿絵となるイラストを作成しました。

当時は社会人2年目で、普段の業務ではまだまだ修行中の身。ましてや、展示のデザインなんてやったことがないので、右も左もわからない状態でした(もっと色々な展示を見て、見せ方をストックしておけばよかったーと思いました…)。

そんな中でしたが、自分でデザインを検証したり、先輩のデザインを見たりして学んだこと、そして本展示で感じたことをデザイナー視点で書いていこうと思います。

読んでもらえる展示にするために

展示物がメインというよりは、それに対する考え方がメインの展示。モスキート音やイメージハンプなど、体験コンテンツの展示もありましたが、来場者の方々に「文字がいっぱいだ……」と思われないようなレイアウトが必要でした。

しかし自分で要素を組んでみても、どうも良い感じにならない。見出しの入れ方も、要素の置き方も、展示デザインにおいて何が正解かわからない…。

先輩とのデータのラリーや、最終的に仕上げていただいたデザインを見て
個人的に感じた「読んでもらうためのデザインポイント」を考えてみました。

  • イラストを使うことで、読まなくても内容をイメージさせやすくする

  • 各項目に位置関係や級数で優先順位をつける

  • それぞれの項目の見出しにあしらいをつけたり、一部立体にすることでアテンションにしたり、レイアウトと調和するような遊び心を入れる

一番はじめの叩き台では、イラストが写真だったり、挿絵が入る想定ではなかったのですが、文字文字しい印象を軽減するためにイラストを効果的にレイアウトすることになりました。

キービジュアルや全体の世界観と合わせるため、写真想定だった部分をモノクロのイラストにし、できるだけシンプルに、かといって「不快のデザイン」という言葉に対して怖い印象にならないように、少し可愛らしい印象を残したトーンにしようと思いました。

イラストを描き始めたのが入稿の1週間ほど前。かなりギリギリだったので他の先輩デザイナーのお力を借り、手分けしながら一気に作り上げました。

自分で挙げておいてなんですが、上記の「文章を読んでもらうためのポイント」は、普段の業務でデザインする上でも基本として言われていることと
変わらないと思いました(基本がまた難しかったりするのですが…)。

展示のデザインだからと身構えるのではなく(もちろん展示という媒体を生かして、枠にとらわれない良いデザインも沢山ありますが)、まずは普段行っているデザインの基本に立ち戻ることでどんな媒体でも対応できる、ということを感じました。

世の中にある数々の面白ポイントを見逃している

GOOD DESIGN Marunouchiさんの公募企画展に応募するテーマが決まった時のことを今でも覚えています。

コンペに出すアイデアブレストの場で、あるメンバーが「禁止のデザイン展」という案を出していました。アイデア資料の最後のページにあった、「その他やってみたいこと」の欄に書かれた小さなアイデアで、私はスルーしていました。

でも中沢さんは、「快適なデザインではなく、不快や恐怖などネガティブな部分を利用しているデザインに焦点を当てるのは面白い! 禁止のデザインに限らず、不快や恐怖を利用した事例に視野を広げても良いのではないか」と注目し、ここから応募に向けた企画がスタートしました。

きっと普段、中沢さんが世の中やデザインに対して感じていることや、疑問に思っていることと「禁止のデザイン展」という案がうまくマッチしたのだと思います。

私がスルーしてしまった案に対し、「面白さ」を汲み取り言語化していただいたことで、やっと「なるほど! 確かに面白そう!!」となった時の悔しさと「!!!」を今でも印象的に覚えています。

数ある案の秘めたる良さを発見できるか。視点を変えて物事を見ることができているか。きっと私は、世の中にある数々の面白ポイントを見逃しているんだろうなと思いました。

展示する事例を探す際、私はようやく「不快を利用したデザイン」という視点で世の中を見ました。もしかしたら普段使っているコレや、街中にあるアレも、「不快」を利用しているのかも…? と。事例探しは大変でしたが、「不快を利用したデザイン」という視点を手に入れたおかげで、普段世の中にある物事に対して新しい側面を探す体験ができ、とても学びになりました。

実際に展示された事例の中で、都市ガスの付臭やNintendo Switchのソフトなど、「そうだったのか!」という驚きもあれば、SNSのUI・UXデザインやエナジードリンクの心理効果など、「当たり前すぎて不快だと認識していなかったけど、確かにそうだ!」と、私にとって発見があるものもありました。

当たり前になっていてスルーしているものに対し、新しい発見を見つけた時の「!!!」を、本展示で少しでも共有できていたら嬉しいです。

江口 光希(えぐち みつき)
電通クリエーティブX デザイナー。2021年に多摩美術大学 統合デザイン学科を卒業。現在、紙媒体からWebサイトなど主に平面デザインを修行中。

これまで公開したコラムはこちら