拝啓 捨てられなかったものたちへ
今年もこの時期が来た。
癖っ毛のある私の髪の毛は言うことの聞かない幼稚園児のようにひどくうねっていた。
嫌なほどの湿気から逃げるように今年初めてエアコンのスイッチを入れるも、5分ほどしたところで肌寒さを感じまたスイッチを切る。
梅雨は嫌いだ。いや、この癖毛がなければ好きだったのかもしれない。
窓に滴る雨粒から焦点を変えてうっすら映る自分の姿を見ながらそんなどうしようもないことを考えていた。
そんなある日のこと
誰も知らない土地に来ても、実家からわざわざ持ってくるほどずっと捨てられないものがあった。
当時中学生だった私が付き合っていた時の彼女からの手紙だ。
そこには溢れんばかりのごめんねの言葉。
まだ子供だった私は彼女に散々な言葉を浴びせていた。当の本人は何の気なしに発言していた言葉だった。
彼女を苦しめていたことに気がついたのは3年後のことだった。
その頃、彼女は私のもとから消えていた。
その時の自分を戒めるべくか、ただただ彼女のことが忘れられないのか、色褪せてきても捨てられなかったその手紙の一つ一つをなぞりながら燃えるゴミの袋に入れていく。
まだ、自信はない。けれど、あれから10年近くが経ち私自身も少しは大人という分別のある人間に近づけたように思う。
言葉は時に刃となり得る。一方、人を救うこともある。
その言葉に覚悟と責任を持ち、心からの言葉を大切な人へ伝えて行きたい。
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