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【取材】ビジネスリスクを強みに変える エフピコのイノベーションとサステナビリティ戦略(前編)

公益財団法人流通経済研究所
上席研究員 石川 友博
研究員 寺田 奈津美

こんにちは。今回はトレーメーカー・エフピコのサステナビリティの取り組みについて、詳しく取材した内容をご紹介します。株式会社エフピコ サステナビリティ推進室 サステナビリティ企画推進課の若林大介さん、飯田英人さんにお話をうかがいました。



サステナビリティ推進室の発足-より広範な持続可能性の推進にシフト

――サステナビリティ推進室ができた経緯について教えてください。

若林さん:2021年から2022年にかけて、環境問題は大きく変化しました。特にプラスチックに関連する問題が顕著に表れました。海洋プラスチックごみ問題が大きく取り上げられ、亀の鼻にストローが刺さった写真が広く知られるようになりました。また、マイクロプラスチック問題の浮上や、中国がプラスチックごみの輸入を禁止する動きもありました。2021年1月1日、バーゼル条約の改正附属書が発効し、廃プラスチックの輸出が網羅的にバーゼル条約の規制を受けることとなりました。これにより、プラスチックごみの国内循環を進める動きが出てきます。

プラスチックごみ問題の象徴的な存在としてウミガメの写真が多く取り上げられた。

若林さん:その時に最初に規制の対象となったのがレジ袋で、有料化が実施されました。その次は当社の製品であるプラスチックトレーも規制の対象になるのではないかと言われていましたが、そのタイミングで新型コロナウイルスが発生しました。コロナ禍においては、プラスチックトレーが衛生的で簡易的に処分できるため、必要とされるようになり、「エッセンシャルユース(必需品)」とみなされました。その結果、トレーは規制の対象にはなりませんでした。

サステナビリティ企画推進課 若林大介さん

若林さん:コロナ禍で消費者の行動が変わり、デリバリーなどの新しい販売方法が広まりました。その際、偶然にも当社が製造したラーメンやうどんの持ち帰りデリバリー用容器が大ヒットしました。また、コロナ禍により大きなオードブルの需要は減少しましたが、例えば4人分の寿司を一つの桶で提供する代わりに、1人前ずつのトレーに分けるようになるなど、トレーの需要減少は大きくありませんでした。トレーの衛生面も評価されました。その結果、売上は伸びました。

 しかし、その後、環境問題の焦点は気候変動や温室効果ガス(GHG)削減に移りました。現在、プラスチックの燃焼によるCO2排出問題が注目されており、石油製品全般が批判の対象となっています。プラスチック容器の廃止を求める声も高まっています。

 一方、我々のプラスチックの発泡スチロール容器は、ポリスチレンペーパー(PSP)という素材で作られています。PSPは「ポリスチレンの紙」という意味で、もともとは森林伐採問題の解決策、紙の代替品として開発された包装資材です。最近では、東北地方で大きな火事が起こり、海外では地球温暖化が原因とされる干ばつが発生するなどしています。こうした状況において、紙の使用を促進するだけではなく、プラスチックと賢く付き合うことをもっと考えていく必要があると思います。

 こうした状況をふまえて、我々の活動も環境対策に留まらず、より広範な持続可能性の推進にシフトする必要があると考え、「サステナビリティ推進室」を発足させました。

エフピコ・エコアクション2.0における環境戦略推進、リサイクル工場見学は50万人超

若林さん:サステナビリティ推進室は、室長を含む12名のメンバーで構成されており、今年は新たに2名の新入社員が加わりました。
 
当室は「サステナビリティ企画推進課」と「コミュニケーション課」の二つのチームに分かれています。
 12名のうちサステナビリティ企画推進課の5名は、環境データの管理やエコ製品の社内向け窓口を担当しており、「営業担当の環境駆け込み寺」のような役割を果たしています。具体的には、容器包装リサイクル法に基づく負担金額の計算や情報公開・発信を行うのがサステナビリティ企画推進課の仕事です。グループ全体の数値を取りまとめ、レポートなどの形にまとめています。

 一方、コミュニケーション課には7名が在籍しており、普段は工場に常駐しています。このチームはリサイクル工場の見学者対応や一般消費者からの質問対応、小学校への出前授業などを行っています。関東、中部、福山の各リサイクル工場に配置されており、3か所に分散して活動しています。昨年10月には、累計工場見学者数が50万人を突破しました。

エフピコの工場見学はリサイクル工場・選別センターのどちらも見学可能。
普段はなかなか見られないリサイクルの現場が見られるチャンス!

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若林さん:コロナ禍の間は工場見学の受け入れを一時停止していましたが、その代わりに小学校や大学への出前授業を増やしました。コロナ禍が最も厳しかった時期を乗り越え、昨年は2023年3月時点の実績で92校、5,546名を対象に出前授業を実施しました。

――工場見学者数50万人突破は素晴らしいですね!次に、貴社のマテリアリティの策定やマネジメント体制について教えてください。

若林さん:マテリアリティは、我々サステナビリティ企画推進課が各部門にヒアリングして抽出した重要課題を整理し、エフピコグループにとっての重要度と、ステークホルダーにとっての重要度の2軸でマッピングした結果から策定しました。

エフピコグループのマテリアリティ(エフピコホームページより流通経済研究所作成)
重要課題のマッピング図(出所元:エフピコグループホームページ)

若林さん:そのなかで、CO2削減については、以下のような中・長期目標を策定しました。

(出所:エフピコグループホームページ)

若林さん:この目標を達成するため、下図のような環境マネジメントシステム「エフピコ・エコアクション2.0」を構築しています。

環境マネジメントシステム「エフピコ・エコアクション2.0」の組織図
(出所:エフピコグループHP)

若林さん:「エフピコ・エコアクション2.0」では、部門横断組織である「環境戦略・TCFD推進管理委員会」が、グループ全体の環境戦略やTCFD推進について議論し、方針・戦略を立案します。グループ全体の環境戦略のもと、バリューチェーン上のそれぞれの部署(製品・SCM・生産・物流・販売・オフィス)に設置したWG(ワーキンググループ)が自主目標を立て、課題解決に向けた取り組みを行っています。サステナビリティ推進室はこれらのワーキンググループを運営する事務局となっています。

 サステナビリティ推進室は環境に特化してはいるものの、最近では他のガバナンス領域との垣根がなくなりつつあります。例えば、環境関連では、CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)の質問書への回答も含まれます。また、エンゲージメントの一環として、上流・下流のステークホルダーに対してCO2削減の施策や考え方、意志を伝えることも我々の仕事です。

――人権なども、この中に含まれるのでしょうか?

若林さん:そうですね。我々は国内産業中心ですが、原材料の調達は海外から行います。そのため、例えば海外の児童労働の問題などを調査する必要があります。こういった調査の依頼は調達部門には直接来ず、サステナビリティや環境部門、または人権部門に来ることが多いです。これらの部門間をつなぐことが我々の役目だと考えています。

――KPIなどの目標設定についてはどうされていますか?

若林さん:社風として、現実的な目標を積み上げて設定することが多いです。年に2回ほど社内で経営戦略の情報共有会が開催されます。そこで経営戦略を共有し、各部門長の考えや発信内容をもとに重要課題を洗い出します。各部門長が会議で発表したそれぞれの考え方を元に我々が目標をまとめて、「この目標で間違いないですか?」と確認を取って目標設定しています。その後、ワーキンググループがその目標を追いかけていきます。

エコ製品で未来を創る-リサイクルと顧客第一主義で挑む持続可能な社会

――この数字がよくなれば社会にとっても、自社にとってもよいというような、数値やKPIはありますか?

若林さん:エコ製品の販売比率の数値目標は自社にとっても社会にとってもよい目標であると思います。取り扱う製品ラインナップにエコ製品を増やせば、回収可能な原料を使用したり、回収して再生した製品を作ったりすることで、ゴミを減らすことができます。これにより、お客様にはCO2の削減という効果を提供でき、我々にとっても安定的な原料調達が可能になります。

 容器包装の分野で日本の食文化を支えるという意味では、美味しいものを衛生的に提供できるという価値を生み出しつつ、さらに、ごみ問題を解決する価値を提供することが私たちの重要課題です。そのために、設計段階から回収しやすく、機能的な製品を作り、最終的にリサイクルして地上資源として循環させることがポイントになると思います。

エフピコの価値創造は様々なステークホルダーと繋がっている。
(出所:エフピコレポート2023)

 企業が存続するためには、まず売れなければなりません。当社のリサイクルの取り組みは、市場や環境問題の変化に対応し、生き残るための戦略です。お客様のニーズに応じた製品を提供しつつ、リサイクルという形で環境問題に対処する。この姿勢がエフピコの企業理念であり、私たちの強みです。

 私たちが様々なトレー、容器を作ったのも、お客様や現場のニーズに応じて変化してきた結果です。営業が現場で聞いたニーズを吸い上げ、それに応えることで課題を解決しようとする意識は社風として根付いています。現場主義に基づいて、顧客のニーズや課題を解決すれば会社が生き残ることができ、さらにはトップメーカーにもなれると信じています。この顧客第一主義と課題解決の姿勢が、リサイクルの取り組みにもつながっています。

取材の様子

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