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【取材】触れて、学んで、取り組んで「みんなで減CO2(ゲンコツ)プロジェクト」(中編)

こんにちは。今回は、2024年1月18日~2月18日に実施された、生活者が普段のお買い物行動の中で、カーボンニュートラルについて「触れる」、「学ぶ」、そして解決へ向けて「取り組む」ことを促進する「みんなで減CO2プロジェクト」の実証実験について、店舗協力をされた株式会社スギ薬局の杉山憲司さんにうかがったお話を紹介します。

※前編はこちら👇

公益財団法人流通経済研究所
上席研究員 石川 友博
研究員 寺田 奈津美


小売業としてこのプロジェクトに参加した背景や感想

―わたくしどもでは、今回のような取り組みを行う小売業が増えることを期待しています。今回小売業としてこの取り組みに参加された理由を教えていただけますか。

杉山さん:スギ薬局では、2年ほど前から環境に関する脱炭素を中心とした活動を課題として再整理して、何ができるかを全方向で考えています。
 その中で2030年度のCO2排出量を2014年度比で半減する目標を掲げていますが、弊社の場合、商品の仕入れや販売を通して発生するスコープ3が占める割合が大きいことがわかりました。
 しかし、その課題を解決するために参考となるベストプラクティスのようなものは存在していないのが現状です。そこで、どこかの後追いをするのではなく、1200万ダウンロードのスギ薬局アプリに登録されている会員、スギ薬局に来店される年間延べ約3.5億人のお客様の声をお聞きできる環境を生かし、何かしら実証的な取り組みを行ってみようと考えました。

株式会社スギ薬局・杉山憲司さん

―なるほど、2030年目標の達成とスコープ3削減を実現するためのチャレンジということですね。先ほど日本総研の佐々木さんよりさまざまな成果が出ているというお話をいただきましたが、スギ薬局として現在までの取り組みをどのように評価していらっしゃいますか?

杉山さん:私の中で、新たな取り組みを行う際に一番大事にしていることは「仲間づくり」です。今回の取り組みの意義は、脱炭素について問題意識を持ったメーカーさんと我々が「仲間」になれたことではないかと評価しています。
 一方で、お客様に対して劇的に行動を起こさせられるかという点では、残念ながら特設売場の設置だけでは通りがかりに横目で見てはもらえるものの、なかなか購買には至らないというのが現状です。ただし、大きな目標の中の一歩目としては、目に見える取り組みをしたことには大きな意味があると思っています。

―なるほど、脱炭素についての本格的な店内コミュニケーションへの初挑戦ということで手ごたえを感じることも多いようですね。社内では何か反応はありましたか?

杉山さん:はい。社内のポータルサイトで今回の取り組みを紹介したところ、早速バイヤーから「こんな商品も置けないか」といった相談が来ました。社員の行動変容にもつながることを実感しました。

―サステナビリティの取り組みに関して、一般的にバイヤー部門やマーケティング部門とのコンフリクトがあるのではないかと思うのですが、御社では取り組みを進めていくうえで、どのように工夫されていますか?

杉山さん:スギ薬局では5つのテーマと16の重要課題(マテリアリティ)を設定しており、当社にとっての価値を大きくしていくことと、社会にとっての価値を大きくしていくことの両立を課題としています。
 そのため、バイヤーも目の前の利益の追求も当然ありますが、最終的にお客様のファン化や、LTVを向上させるような環境につながるといった、長期的な視点も考慮して商品を選んでいるため、課題に対しては迷わずに取り組もうということを部門間で握り合っています。

スギ薬局の5つのテーマ

小売業に脱炭素の取り組みが広がるには?

―ありがとうございます。今回のような取り組みは非常に素晴らしい取り組みだと思っています。こうした取り組みがほかのさまざまな小売業でももっと広がるためには何が必要だとお考えですか?

杉山さん:昨今、炭素税の導入、排出量取引の話題が出ています。そうした、CO2を削減しなければ経済的にオンコストになるような情報や枠組みが見えるようになると取り組みに火が付くのではないかと思います。
 例えば、単価が高く、単価予想ができない再エネを導入していくことはとても難しい判断です。最近ではコンビニエンスストアがインターナルカーボンプライシング[i]を設備投資に導入するといったニュースがありましたが、そうした制度が普及すれば企業としてはさらに取り組んでいけますし、それは生活者も同じではないかと思います。
 普段食べるものを買うときに、1円高くても将来のことを考えればそちらに手を伸ばすというような教育、情報、制度ができて、企業や国がわかりやすく整理して発信することができれば取り組みが進むのではないかと考えています。

―ありがとうございます。今のところ、小売業はそんなにCO2を出さない業種だから、国からの圧力というのはあまり明示的に示されていない業種のような気がしていますが、カーボンプライシングや商品を通じた脱炭素の普及が言われている中で、生活者も環境に良い商品を選ぼうということになってきていると思います。
 そうしたことをよりクリティカルに伝えていくことが、ほかの小売業の取り組みをうまく引き出していくことにつながるのではないかということなのですね。


[i] 企業が脱炭素を推進するために、独自にCO2排出量に価格を付けて、投資判断等に活用する仕組みのこと。

※後編では、前編でお話を伺った日本総研の佐々木さんにうかがった、エコラベルと脱炭素商品についてのお話を紹介します。

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