見出し画像

(9/26)『公共哲学入門』ゼミレポート#4-第3章「公共哲学の歴史Ⅱ」(ハーバーマス編) @ソトのガクエン

こんにちは、ソトのガクエンの小林です。9月26日(火)に行われました、公共哲学入門ゼミのレポートです。今回は、前回の続き、第3章のハーバーマスの部分を読んでいきます。

ハーバーマスはフランクフルト学派の第二世代に位置づけられます。第一世代のホルクハイマーとアドルノが、近代理性を主観中心的理性として全面的に批判したのに対し、ハーバーマスは、近代理性には間主観的な理性、「コミュニケーション的理性」という別の理性があるとし、そのポテンシャルを実現することを企図します(近代の「未完のプロジェクト」)。本書では、ハーバーマスのデビュー作『公共性の構造転換』(1962)に始まり、『コミュニケーション的行為の理論』(1981)、『事実性と妥当』(1992)、さらには近年発表された「政治的公共圏のさらなる構造転換についての省察と仮説」(2022)を紹介しながら、ハーバーマスの公共圏をめぐる問題の所在・分析とその解決方策がどのように進展していったのかが論述されます。

その道のりを、ごくごくかいつまんで書くと、まず、問題の所在は、人々の言語によって調整されるべき「生活世界」が経済システム(貨幣)と行政システム(行政権力)によって属領化(植民地化)されていることにあるとされます(『公共性の構造転換』)。この植民地化を脱する(脱植民地化する)には、人々の生活世界で発見された問題が、公共的な対応が必要な関心事(争点)とみなされ、次いで、政治システム(議会など)においてアジェンダとして取り上げ、法として制定され、その後、行政システムにおいて法が執行されることで、経済システムを制御するという展望が示されます(『コミュニケーション的行為の理論』)。

また、現在、通用(妥当)している規範が本当に妥当性をもつか否かを、数の力や経済の力ではなく、理由(根拠)の力によって判断し、了解すべく、「討議的な意見-意思形成」がなされ蓄積される場が必要であるとされます(『事実性と妥当』)。
では、SNSが発達した現在において、人々はこのような討議的な意見形成が可能になっているかというと、ハーバマスはむしろ、公共圏の断片化が進み、ある関心事に「選考」をもつ人々だけからなる準公共圏のひとつに成り下がってしまっていると、現状を悲観的に捉えています(「政治的公共圏のさらなる~」)。こうした現状にあっては、デジタル・プラットフォームの強大な社会的権力を、ジャーナリズムが担っていた評価・編集の機能を公共圏に取り戻すことが必要であるとハーバーマスは判断します。


当日の参加者の方々とのやりとりでは、こうしたハーバーマスの民主的議論が理念としてはまったく正しいとしても、それがいかに実現可能なのかについて、さまざまに議論がなされました。
討議的な意見形成の場が、現実のレベルや行政レベルにおいて、具体的には何に対応するのかということが疑問点として持ち上がりましたが、リーダーのMさんが、『公共性の構造転換』のなかに、17世紀のイギリスで発祥したコーヒーハウスが、階級や出自の区別なく自由に人々が議論できる場の事例として紹介されていることを教えてくださいました。(また、ハーバーマスの"ハ"の字も出てきませんが、小林章夫『コーヒー・ハウス』(講談社現学術文庫)が読み物としてとても面白いですよと、リーダーのMさんが推しえてくださいました。)結果的には、党派ごとにあつまるハウスの区別が生じてしまい、自由な議論の場ではなくなっていったようですが、近代におけるコミュニケーション的理性のひとつの実現例であると考えられます。
また、ハーバーマスの議論では、個人的‐公共的、マイノリティ-マジョリティの対が数の多少として捉えられている印象があるという話から、ドゥルーズ+ガタリのマイノリティがマジョリティを数的に上回ることは当然あるという議論、また、カフカのようにマイナーに成ることの政治的可能性や欲望の議論といった、(当然ながら)ハーバーマスには登場しない視点についてもいろいろとお話しすることができました。

今回で、第3章を読み終わりましたので、次回は、Yさんがリーダーとなり、第四章「功利主義の公共哲学」を読んでいきましょう。次回は、10月3日(火)22時からです。

******
現在、哲学思考ゼミは参加者を募集中です。哲学の本をみんなと一緒に読みたい、大学のゼミの雰囲気で勉強してみたい、哲学についてみんなと議論や情報交換してみたい方等々、興味・ご関心お持ちの方は、下記よりお申込みいただけます。ぜひご参加ご検討いただけますと幸いです。

・HPよりお申込み(PayPal)☞https://www.dehors-org.com/seminar
・Peatixよりお申込み☞
https://dehors-org.peatix.com/
・noteよりお申込み☞
https://note.com/dehors_org/membership/join

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?