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(8/22)「スピノザ、おもしろんですよね…。」スピノザ『知性改善論』ゼミ最終回(@ソトのガクエン)レポート#14

こんにちは、ソトのガクエンの小林です。
ついにやってきました。先日、8月22日(木)は佐々木講師による古典読解ゼミ、スピノザ『知性改善論』ゼミの最終回が実施されました。最後のレポートをお送りします。

今回は、第81節から読み始めました。
ここでスピノザは、第一部で述べると予告したものについてはすでに述べたとし、あとは、「知性とその諸力の認識に役立ちうること」として、記憶と忘却について論じます。この箇所に登場するのは、私たちが日常的に経験していることに関わる議論が多く、とても身近に感じることができます。

まず、記憶は知性の助力によって強化されるが、知性の助力なしにも強化されるとスピノザはいいます。例えば、多くのことばを脈絡なく覚えるのは難しいですが、それを物語のかたちにすると記憶に留めることができる、これが前者の例で、後者は、恋愛戯曲をただ一作品だけ読んでいるなら、それを最もよく記憶に留めることができることが例に挙げられます。

また、スピノザはここで「物体的」「記憶」「知性」「想起」という語について言及していますが、そのいずれもが一般的な使い方とは異なっている、言い換えれば、これらの語についての私たちの通常の使い方がいかに誤っているか(他のものと混同してしまっているのか)がこの箇所では示唆されているように思えます。列挙すると下記の通りです(通常の言葉使いとどこが違うのか考えると面白いかもしれません)。

  • 諸物体によってのみ表象は触発される。

  • 記憶が知性とは異なる何かであること。

  • 想起は、魂は感得(脳に刻印されたもの)について思考するが、持続のもとでそうするのではない。(想起する・されることは持続を持たない)

  • したがって記憶は想起と違って持続を持つが、限定されていないと不完全である。

さらに、仮構された観念、偽なる観念などの起源は、表象のはたらきそのものに由来するのではない、よって、知性(精神の働き)とは異なる何かであることが注意されます。佐々木さんによれば、スピノザは、受動的知性というものを認めておらず、知性というものが能動的でしかないと考えていることが、ここには反映されていると述べていました。


さて、ここで、参加者の方からの質問として、観念と概念の違いとは一体何なのかということが佐々木さんに向けられました。
佐々木さんの応えを要約します。概念とは、観念である限りの観念であり、これが人間の言葉では概念と呼ばれ、神にとっては(自然学的には)観念しかない(神は理性を持たない)ので観念となる。人間は、観念である限りの観念(概念)を持っているが、神のようには持っておらず、神とは異なる仕方で持っている。すなわち、人間の場合は、部分的には自分の精神を原因にしている観念であり、別の部分的な原因による観念との出会いで形成される観念なので、非十全な観念と呼ばれる。それは、自分の受動性を表現する観念なので「観念である限りの観念」ではない。逆に、自分の精神の能動を完全に表現するように観念を持つならば、それは神が観念である限りである観念なので、これが概念と呼ばれる、ということでした。


最終、第88節〜90節で論じられるのは、ことばは表象の一部をなし、記憶を行き当たりばったりに組み合わせ多くの概念を仮構するものであり、多くの重大な誤謬の原因となるので警戒すべしということでした。多くの人たちは、知性のうちにあって、表象にないものをことばによって「非物体的なもの」「無限なもの」など否定的な名称を与え、また、実際には肯定的であるものを「創造されざるもの」「依存せざるもの」等々と否定的に表現する。スピノザは、私たちが肯定したり、否定することができるのはことばの本性によるのであって、ものどもの本性のゆえではないと主張します。重要なことは、表象のはたらきと知性のはたらきをしっかり区別することであり、これを区別しないことが、混乱をもたらすものであると述べて、スピノザは第一部を終えます。


今回が最終回ということで、最後に、参加者の方から色々と質問や感想をいただきました。例えば、今回みんなで読んだ『知性改善論』以外のスピノザの著作をどういう姿勢で読むべきかという質問が挙がりました。スピノザの場合、彼自身の哲学全体がドラスティックに変化するわけではないので、どの著作から読んでも良いですが、佐々木さん個人的には、『神学政治論』と『エチカ』は、スピノザを今後読んでいくのであれば、大変ではあるけれども読むべきだと言われていました。とくに、『神学政治論』は、哲学をするということはどういうことなのか、哲学者として社会政治的に生きるということはどういうことなのかということを考え、述べている本なので、一読するのが良い。『エチカ』と『神学政治論』を読んでおくと、他の著作におけるスピノザの違いや揺れを読み取ることができるし、とくに『エチカ』は分からないままに(二周目から面白くなるので)とりあえず読んでおくべきというアドバイスをされていました。

終盤、佐々木さんがふと「スピノザ、おもしろんですよね…。」と小声で呟かれていたのが印象的でした。

佐々木晃也さん、4ヶ月に渡り、ありがとうございました。

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さて、5月から4ヶ月にわたり、計14回実施してきましたスピノザ『知性改善論』ゼミはこれにて終了となります。スピノザの専門家であり、スピノザを心から愛されている佐々木さんとともに、スピノザ哲学の面白さと奥深さに触れることができた、とても有意義なゼミとなりました。ご参加いただいた方々、本当にありがとうございました。佐々木講師にはまた何か別の形で講師をお願いしたいと考えております。

今回のゼミで皆さんが学ばれたことが、今後、皆さんが哲学のテキストを読むとき、なにか物事を根源的に考えようとするとき、何かしらのヒントになることを願っております。

それでは、またお会いできることを楽しみにしております。

ソトのガクエン代表 小林卓也

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