#13 雨下の迷い者たち
静かだ。放課後の教室は、昼間とは別世界である。もうすでに、夕日が傾いている。のびた机の影が、まるで怪獣みたいだ。教室が傾いていて、まるで僕が垂直に立っているのが間違っているみたいな気持ちになる。
ごくり、とつばを飲み込む。
窓側の一番後ろの席のなかに手をいれる。手に、紙のようなものが触れた。これだ。こころなしか、この紙から変なにおいがするような気がする。このにおい、どこかで……
その机のいすをひいて、紙を出した、その時だった。
がたん、と音がして、後ろから落ちてきた何かが僕の頭に覆いかぶさる。突然のことで心臓が跳ね上がる。わ! 目の前が白くなった。……いいや、ただ白いだけじゃない。なんだか、網の目のようなものが見える。これ、これって。小さいころの記憶をたどれば、これは、虫取り網?
「つかまえたぞ! モノノゾめ!」
動くこともできず、かたまってしまった僕の耳に、女の子の、甲高い舌足らずな声が響いた。
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