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#7 雨下の迷い者たち

「てか、ここ立ち入り禁止だろ?」
屋上のドアから校舎内に入って、自分たちが校則を破っていたことを思い出した。赤い文字にびくっとする。いつのまにか猫の姿に戻っていたウールが、またその看板を軽々しく飛び越えていく。
「あたしはおテンさまだよ! 許可とってあるからいーの! なるべく空に近い方が、雨ふらしの力は存分に発揮できるから!」
ふふん、とまた自慢げに話すテン。二人で立ち入り禁止の看板をまたぎながら、ふと僕は、外の雨音を聞く。雨ふらしって言ってたな、と窓の外を見た。廊下もじとじと、本当に、「雨の日」になった。今見たのが手品だったみたい、そう思う。夢とか魔法とかっていうより、手品といった方がしっくりくる。
 僕たちは階段で三階に下がる。テンが何考えて、どこに行くのか全く見当がつかないが、とりあえずさっきのウールの時のように、遅れないようついていく。そのウールはというと、ぴったりテンの横をついて離れない。まるで、どこへ行くのか分かっているようだ。テン、さっき僕とテンがいいコンビになるって言ってたけど、今のところはウールのほうがその相手にふさわしいと思うな、と心の中で呟いてみる。ほら、魔法使いが黒猫連れているみたいに。
「ほらここ!」
そんな考え事をしていたら、いきなりテンの声が聞こえてどきっとする。前を見上げると、そこは三階の一番端、理科室だった。その教室の、クリーム色のドアをテンは指さしている。そのドアには分厚い紙に黒のマジックでこんな文字が書かれていた。
『ものづくり部』
聞いたことない部活の名前だ。夕日中には、公式の部活がほとんどだが、ときどき非公式の部活がある。もしかしたら、そういうたぐいのものかもしれない。僕は、そんな部活は不良のたまり場だって聞いたんだけど。
「え、えっと、雨を作ってくださいとか言うのか?」
明らかに不審そうな顔をしている僕を見て、テンはまあまあとなだめだす。
「やってみる価値はあるよ」
そして、失礼しまーす、となんのちゅうちょもなく扉を開けた。

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